無謀な挑戦か。それとも、市場の勢力図を塗り替える台風の目になるのか。韓国の現代自動車が立ち上げた高級車ブランド「ジェネシス」のことだ。
現代自動車グループは、高級車販売を「現代」「起亜」に続く第3の独立した専門ブランド「ジェネシス」に衣替えし、2020年までに大型セダンやSUV(スポーツ用多目的車)など6車種のラインアップを整えて、独メルセデスベンツや独BMWなどに真正面から戦いを挑むという。同社の狙いはシンプル、もっと稼げる“真の一流メーカー”に脱皮したいということだ。
現代は、値段のわりに性能が良い「コストパフォーマンス」の高いメーカーとして北米や中国などで販売台数を伸ばし、今や台数ベースでは世界5位レベルに位置する紛れもない世界大手だ。ただ、自動車市場にはもう1つの「階級ピラミッド」がある。品質や信頼性、自動車文化の中でのステータスに基づく、いわば価値の順位だ。ピラミッドの底辺は自動車普及の入り口あたる低価格のエントリーカー。そのうえに、排気量の大きさごとにセダン、SUV、ファミリーカーなどさまざまな車種の大衆車が大きなボリュームゾーンを形成。頂点に位置するのは高額でも売れる一握りの高級車ブランドだ。
傘下に「レクサス」を持つトヨタ自動車や「アウディ」「ポルシェ」などを抱える独フォルクスワーゲン(VW)、「キャデラック」の米ゼネラル・モーターズ(GM)、「リンカーン」の米フォード・モーターなど、販売規模に加えて、市場が認める高級車ブランドを展開するメジャーメーカーからみれば、現代はまだまだ格下の大衆車メーカーに過ぎない。
世界最大のブランディング会社インターブランドがランク付けしたグローバルブランドの価値評価によると、自動車メーカーではトップの6位となったトヨタの約490億ドルに対し、現代の価値はそのほぼ5分の1の約113億ドルと、39位にとどまる。ちなみに、世界1位はアップルで、自動車メーカーではトヨタに次いでBMWが11位、ベンツが12位に入っている。
高級車ブランドを手がけるメジャーは、ブランドからの直接の販売収益だけでなく、製造設計の技術・品質への消費者の信頼を背景に、その他の車種の価格帯や中古車価格の底上げなど大きな恩恵を得られる。欧米メーカーを追いかけ、かつて日本メーカーが北米で「レクサス」、「インフィニティ」(日産自動車)、「アキュラ」(ホンダ)を相次いで立ち上げたように、現代がメジャー入りを目指すことは必然の流れだろう。
さらに、現代にとってはこのタイミングで高級車事業を強化したい現実的な事情もうかがえる。世界2大マーケットの中国、米国の双方で高級車市場の拡大が見込まれているからだ。
中国自動車市場は、景気減速に伴い値引きなどの販売競争が激しくなっている。だが、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は2013~20年までの高級車市場の年間平均成長率を11.5%と予想する。これは大衆車市場の2倍のスピードの成長だという。中国では「富二代」と呼ばれる富裕層の子どもに加え、政府の一人っ子政策の下で親の愛情を一身に受けた、80年代生まれの中産階級の若者「80後」など、価格よりも品質にこだわる購買層の高級車需要が強く、現代がこれまで通り中国市場を収益の柱としていくには、ベンツ、BMW、アウディといった現地の高級車市場に強固な地盤を持つドイツメーカーの牙城を崩す必要がある。
一方、PwCは米国高級車市場についても、14~21年に32%の堅調な成長を見込んでいる。韓国大手紙、中央日報(電子版)などによれば、世界市場の10~14年までの販売台数の年間平均増加率は高級車が10.5%と、大衆車の6%を大きく上回っている。現代が「コストパフォーマンス」で勝負する大衆車メーカーのままなら、先行きに待っているのは値引きの消耗戦と中国メーカーなど新興勢力の台頭による地盤沈下ということになりかねない。
では、現代「ジェネシス」は果たしてベンツやBMW、レクサスと勝負になるのか。韓国紙(電子版)の報道によれば、その性能は引けをとらないらしい。先月開かれたロサンゼルスモーターショーで、現代の米国法人(HMA)のデイブ・ズコブスキー社長は「静粛性と卓越した走行性能を武器に米国内のラグジュアリーカー(高級車)需要層を満足させる」と自信を示した。
現代は、現行の高級車「エクウス」の後継で、「ジェネシス」ブランドの第1弾となる大型ラグジュアリーセダン「EQ900」を韓国で今月発売する。ベンツの「Sクラス」、BMWの「7シリーズ」に対抗する最上位モデルで、海外には「G90」として来年投入する予定。韓国紙は、EQ900のテストが独ニュルブルクリンクのほか、米国モハーベ砂漠とデスバレー、スペインのグラナダなどの酷暑地、スウェーデンのアリエプローグのような酷寒地、コロラド州パイクスピークなどの山岳コースで同時に実施されたことを報じ、その結果として競合モデルに遜色ない走りの性能を示したとしている。
EQ900は、軽くて強い高張力鋼板の使用比率を車体の51.7%に増やし、エクウスに比べて高張力鋼板の使用比率を3.2倍高めた。現代の自社検証では、米国高速道路安全協会をはじめ国内外の各種試験評価基準でも最高等級の安全性を備えている。ドライバーの身長や体重などの情報を入力すれば、現在の姿勢や腰の健康情報を分析して推薦シートの位置まで自動的に設定する「スマート姿勢制御システム」などの最新技術も搭載。毎日経済(電子版)は、先月23日に事前契約に入ったEQ900が、たった1日で4342台を契約する実績を上げた報じ、これは前モデル「エクウス」の事前契約初日の記録1180台の約4倍に当たり、価格も決定していない段階では「異変」とも言える人気ぶりだとの業界評価も伝えた。
こうした韓国紙の報道を見る限り、EQ900のテストモデルはかなりレベルの高い高級車につくり込まれているようだが、だからといって量販段階の成功が約束されたとはいえない。
興味深いのは、「ジェネシス」に対する中国メディアの反応だ。ポータルニュースのサーチナなどによると、現代の「ジェネシス」ブランドの立ち上げについて、中国経済網は「驚くほど反響がみられなかった」と報じ、自動車マーケティングの専門家の話として、現代の狙いは理解できるが、ドイツ系が牛耳る高級車市場で存在感を放つのは難しいとの分析を示した。また、韓国のネット上で現代の品質への辛辣な批判が目に付くことも見逃せない。米消費者団体のコンシューマーリポートが10月にまとめた自動車信頼度調査では、レクサスが3年連続で1位となる一方、現代グループは前年よりランクを上げ、それぞれ「現代」が9位、「起亜」が6位に入ったのだが、これについて韓国のネット上では評価の声よりも、「国内の信頼度は最低」「韓国でも同品質の車を売って」といった批判的な意見が多かったという。思い出せば、現代は2012年に燃費性能の誇大表示が発覚。米当局から制裁金を課された問題もあった。現代の品質改善が進んでいるのは間違いないのだろうが、中国紙の指摘する“冷めた反応”は、既存のブランドですら市場の確かな信頼を勝ち得る水準には達していない現実を現代に突きつけているのかもしれない。
ただ、現代の挑戦は同社のもくろみとは異なる形で世界の自動車市場に新たな波を起こす可能性がある。ロイター通信は、欧州金融大手UBSのアナリストがリポートの中でBMWの中国合弁パートナー、華晨中国汽車(ブリリアンス・チャイナ)が輸出の検討に入ったと指摘したと伝えた。米GMは中国合弁から「ビュイック」ブランドの輸出を検討しているとされ、中国経済の減速を受けて、世界の自動車大手が、品質面を懸念してこれまで控えていた米国など主要市場の拠点と中国の生産能力の補完に動き出す気配が出てきている。現代の「ジェネシス」がBMWやダイムラーなどのコスト競争意識を刺激すれば、そうした中国の生産能力の輸出活用の背中を押すことにもつながる。
現代「ジェネシス」がメジャーの一員に認められるまでには恐らく長い時間がかかるだろうが、中国市場の減速という環境の中ではその存在が引き起こす波紋は軽視できない。産経ニュースより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2015年12月6日日曜日
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