2016年2月14日日曜日

世界金融メルトダウンの危機

静かな暴落の恐怖。恐怖感がないのか最も怖い。乱高下というよりスーと落ちていく。まさに遊園地のフリーフォールのよう。崖から落ちるときはこんな感覚を味わうのだろうか。しかし、この下落の理由は何か。理由がない下落だから怖いという面はあるが、深層、真相はどこにある。
一つはっきり言えるのは、日銀が最後に崖から突き落とした犯人だということだ。マイナス金利が最後の一押しとなり、世界金融市場はフリーフォールとなった。

2015年8月の下落と2016年初からの下落、この時の要因は原油だった。原油価格の下落でシェールガスも暴落、関連企業のジャンク債が暴落し、ジャンク債市場全体に暴落が波及し、レバレッジを効かせてハイリスクの投資をしていたファンドが破綻、機関投資家も大きな損失を出し、株式市場にも連鎖した。

暴落の主因は原油から銀行セクターに

チャイナショックと言われたが、厳密に言うと間違いで、上海株式市場がどうなろうと関係なかった。原油、資源の問題だった。ただ、中国実体経済は大きな構造転換期にあり、重厚長大産業による大量生産や大規模投資という部分が行き詰まっていたのは事実。それまで、消費が増え続けていく中国というストーリーで投機を集めていた原油が暴落し、資源も暴落したので、両者は関係していた。

しかし、1月末からの暴落要因は原油ではない。2月11日に原油は再び1バレル26ドル台を付けたが、もはや原油の側も暴落の連鎖を受ける側になった。1月初めからの下落は、原油1バレル20ドル台の定着が引き金となって世界の金融市場全体を暴落させたが、この流れが一時止まり、30ドル台を回復し、一息ついたかと思われた後の暴落再開だった。下げは加速し、そのとどめを刺したのが日銀のマイナス金利だった。

現在、原油から銀行セクターに暴落の主因は移った。欧州の銀行株はセクターの指数が年初来30%近く下げている。ドイツ銀行が債券の返済ができなくなるといううわさが駆け巡り、ソシエテジェネラルの決算は予想をはるかに超える利益の減少となり、欧州の銀行はほぼすべて売り込まれた。ドイツ銀行もソシエテジェネラルも訴訟費用が大きな要因だが、最後のとどめは、マイナス金利によるベースの収益の減少だ。

銀行セクターの行き詰まりは多くの要素が絡み合っているが、元をたどればリーマンショックに行き着く。リーマンショックで完全に崩壊した世界金融バブルが、銀行セクターを肥大化させ、反動による収縮が現在も続いており、いよいよごまかしきれなくなってきたのが現在の姿だ。
リーマンショック後、世界の金融当局、とりわけ英国、そして米国は、銀行や金融機関への規制を強化してきた。リスクを取らせない方向へ舵を切った。英国では明示的に報酬が過大であることを非難した。その結果、金融機関、銀行は人材も流出し、収益機会も減少していった。もちろん市場が暴落したのだから、それによるダメージも大きく、また上昇が望めないことから、彼らは別の収益確保に走った。それが国債への投資である。

量的緩和と称する大量の国債購入

リーマンショックに対応して、米国も欧州も中央銀行は、量的緩和と称する大量の国債購入政策を実施した。ECB(欧州中央銀行)は量的緩和という言葉をずっと避けていたが、実質的には、ギリシャ国債を始め、リスクの相対的に高い国債の大量購入を行った。一方で、世界中の政府は財政出動を行った。この結果、投資対象となる国債は市場にあふれていた。その国債を金融機関や投資家は買い入れ、中央銀行に売りつけることにより、利ザヤを稼ぐようになった。

地味な銀行は、利回りだけで満足したかったが、中央銀行の買い入れ額も中央銀行の買い入れに便乗する投機家の買いも激しかったために、利回りが低下しすぎて、リスクの相対的に高いはずのギリシャなど、本来格付けが低いはずの国々の国債を買った。そして、これらの国債のリスクが市場で意識されると、銀行破綻の危機になるから、欧州の中央銀行とEUおよびIMFはこれらの国債を買い入れ、資本注入をし、欧州の銀行システムを維持してきた。

財政金融を総動員すること、世論も学者も強烈に要求した。1930年代の大恐慌を引き合いに出し、すべてのことを犠牲にしても財政出動するべきだと主張した。大恐慌は、1920年末の株価暴落に対応した金融緩和を1930年代前半に早々に引き締めに転じたこと、すなわち早すぎる引き締めによってもたらされた、という議論を借用し、財政出動をとことん行わせた。実際は大恐慌よりもはるかに失業率は低く、またGDPの落ち込みも小さく、さらに物価の下落もまったく異なっていたにもかかわらず、デフレに落ち込んだら大恐慌の二の舞だ、という半ば脅迫により、財政も金融もフル出動となった。

そのバブルがいま崩壊しているのである。

欧州の銀行は欧州の国債に資金を待避させたが、それを利用して稼ぎもした。投機家と一緒に、中央銀行や政府を相手に負けないギャンブルをしたのである。しかし、そのツケは欧州危機として実現した。リスク無視で財政危機の国々の国債を買いまくったから、実際にギリシャが財政破綻をすると、連鎖反応で国債は暴落し、銀行は危機になり、再び欧州当局は資本を注入し、国債を買い上げ、金融システム危機を回避した。この過程で、欧州の銀行は一時しのぎをしながら次のビジネスモデルをつくることはなかった。

金融緩和による世界的な不動産バブルで、再び銀行や金融機関はレバレッジを高め、国債の次は不動産へ資金を移し、欧州危機が一息つくと、懲りずに株式市場に投資家の資金は殺到し、世界の株価は上昇したのである。

疲弊した新興国は不況に落ち込んでいった

しかし、この中で新興国は疲弊していた。米国の大規模な量的緩和により、世界的なバブルが起こり不動産、株式に集中したため、実体経済の本格回復はないまま、投機資金が資産市場に流れ込んだだけだった。実体経済の支えは唯一、中国などの需要に対して輸出をするだけであったし、その輸出の多くは資源など一次産品が含まれ、資源バブルが起きた。世界の資金はここにもなだれ込んだ。新興国はインフレに悩み、金利を引き上げなければならなかった。バブルを抑えるために、国内の実体経済を不況に陥れてしまった。

こうなると、資金は先進国に向かい、ドルが急上昇し、新興国通貨は大幅に下落し、輸入インフレが激しくなった。これを抑えるためには、金融を引き締めなければならず、実体経済はますます不況に落ち込んでいった。

こうなると、資源バブルもはじけざるを得ない。新興国の中心である中国が息切れし、中国依存の世界経済を支えきれず、自国を守るために、通常モードに政策をシフトさせてきたからである。この結果、原油は大幅に下落し、これは資源輸出国である新興国、途上国にとどめを刺した。その中には中東を始め世界の産油国が含まれており、ますます原油市場は、財政のつじつまを合わせるための売り(供給)が減少しないことにより、暴落を続けた。ただ、原油価格は高くなりすぎていたのであって、需給で決まるとなれば暴落は当然だった。

しかし、これは先進国に跳ね返ってきた。これが昨年からの下落である。

だが、昨年からの原油ショックは、世界金融市場の崩壊の序章に過ぎなかった。なぜなら、原油価格の暴落は、資源国にはマイナスだが、消費国にはプラスで、世界全体ではプラスマイナスゼロであるからである。もっとも、世界でもっとも調子の良い、そして大国である米国と日本が恩恵を受け、経済基盤が脆弱な資源国が打撃を受けるのでは、弱いものの打撃の影響の方が大きいため、世界全体でマイナスではある。

しかし、それよりも致命的なのは、銀行システムが崩れることである。原油暴落で借金国や借金で資源開発をしている企業、国が破綻するので、世界経済トータルでマイナスであるのだが、これもレバレッジが効いているからマイナスなのである。すべての経済危機は銀行危機である。今回は原油暴落からの株式市場の危機、リスク資産市場の危機から、経済全体の危機になったのである。

世界中の銀行が追い込まれるという連想ゲーム

銀行が財務危機に陥れば、リスク資産市場への投機資金も流れなくなるが、実体経済へ流れも細くなる。実体経済の取るべきリスクでさえ取らなくなり、実体経済は不況に陥る。今回の危機は、この始まりの危機なのである。最後のとどめは、繰り返すが日銀のマイナス金利であった。リーマンショック後、欧米の銀行は利益機会を失い、徐々に弱ってきていた。そこへ、規制も強化させ、リーマンショックへの反省から銀行危機を起こさないために、銀行の資本を厚くすることを当局は要求していた。

その結果、ドイツ銀行は無理な資本調達をしなければならず、そして他の銀行も同じような状況となり、これが、現在の金融危機によりリスクのある債券(資本性のある債券)に対して値付けが厳しくなり、持続不可能になった。さらに、欧州ではマイナス金利が3年続いており、銀行は、ギャンブル的な投資利益、トレーディング収益の機会だけでなく、安定した国債利回りによる収益も失ってきた。さらに、ドイツ銀行などは、リーマン破綻前の違法な業務による課徴金、訴訟関連費用により、急激に追い込まれたのである。

このような状況があるところへ、日銀がマイナス金利を導入し、世界の金融市場は、マイナス金利の怖さを思い出してしまった。この銀行部門のリスクをさらに意識することとなり、世界中の銀行が追い込まれる、という連想ゲームが始まり、いよいよ終わりの始まりが始まったのである。
米国の利上げ回避も、通常なら株価にプラスのはずだが、米国債金利の急落で、これは世界の金融機関のもうひとつの収入源を奪うことになり、さらに銀行不安は拡大した。

安全資産の市場がギャンブル市場に

最後に。日銀のマイナス金利はとどめを刺しただけで、本質的な問題ではない、タイミングが悪かっただけだ、という説もあり得るが、タイミングは重要だ。これまで、サプライズで、いわばタイミングだけで市場を弄んできたしっぺ返しを受けているのだ。問題は、それがしっぺ返しでは済まないことだ。株価が下落して元に戻るだけでなく、世界の銀行システムの崩壊の危機に陥れたのだ。
国内経済を考えると、マイナス金利は為替安にすることだけが短期的なプラス要因だが、黒田緩和第三弾は誤算に見舞われた。週末から米国の金融政策への不透明性が高まり、日本側で為替をコントロールするどころか影響すらも与えられなかったのだ。金融市場は米国次第、とりわけ為替はすべて米ドル次第という基本中の基本を勉強させられただけに終わった。

そして、本当の日銀の最大の罪は、世界の金融市場から安全な逃避場を消滅させたことにある。
現在の円高は資金の逃避と説明され、10年国債までもが急騰してマイナス金利になったことも、資金が安全資産へ逃避した、と説明されているが、これは180度どころか、異次元に間違っている。なぜなら、円買いや長期国債買いが起きているのは逃避ではなく、逃避というストーリーで資金が集まるので値上がりする、という短期的な投機的思惑から資金が殺到しているだけだからだ。だから、今後は、円も国債も乱高下を続けるだろう。

日銀の最大の罪は、国債という安全資産の市場、資金の逃避場の市場を破壊したことにある。これらの市場は乱高下に見まわれ、投機資金のギャンブル市場になってしまったからだ。これは3年前、異次元緩和第一弾が始まったときから起きていることであり、第三弾は最後のとどめにすぎない。異次元緩和が始まったときから、この金融市場の終わり、安全資産市場が世界から消滅するという、終わりの始まりは始まっていたのである。  東洋経済ONLINE

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