潜水艦ソナーマンの本音
潜水艦乗務員をちょっと前に辞めて、民間に転職した元海上自衛官のトークを聞けた。しかも、その自衛官は、ソナーマン。ソナーマンとは、海中のあらゆる音源を探知する専門官で、潜航した潜水艦にとっての全神経、全感覚だ。そんなソナーマンの体験談を聞ける機会なんて取材では難しい。メディア取材などではまず聞けない。偶然の出会いだからこその、カトケン型異種会議トーク世界の魅力だ。「東日本大地震のとき航海中だったんですが、物が落ちたような音が聴こえたんですよ。ドンっという音で、初めて聴く音でした」
当時の潜航海域は機密なので言えない、とのことだが、どうも震源からはかなり離れているところだったような雰囲気だ。彼のいた艦内には、2004年の中越地震のときに日本海に潜航していた経験を持つベテランのソナーマンがいたので「地震だ」と判断できたらしい。
昔の潜水艦だと、空気を取り入れるために浅い深度まで上昇してシュノーケリングをするので、そのときに海上の空気を入れられるから、潜水艦乗りは、そのときに空気吸入口のところでタバコを吸えたのです。だけど、新しい型のスターリングエンジンになってからは、シュノーケリングの必要がなくなってしまったので、潜航中はずっと禁煙になっちゃったんですよ、と。潜水艦乗りには喫煙者が多かったのだが、スターリングエンジンになってからどうなったことでしょうね。禁煙で健康になったかな?
日本の潜水艦のスキルはかなり高いと言われていて、日米共同訓練などでは、米軍空母に最接近しても、日本の潜水艦を米軍が探知できなかったなどという武勇伝もある。しかし、今回のソナーマンの話はかなり違っていた。
「決められた海域で決められた時間内での、日米潜水艦で探査追尾の練習試合のようなことをします。私はソナーマンだったので、米軍潜水艦の音を探り出そうとずっと聴音に必死だったのですが、最後までまったく米軍潜水艦を発見できないままでした。そして、試合終了と同時に、信号音を発信するんです。そしたら、米軍潜水艦は、我が艦の真後ろでした。訓練試合のほぼ序盤戦からずっと日本の潜水艦の真後ろにつけていて、日本の潜水艦の動きを完全に捕捉して追尾していたのです」
潜水艦戦では優位といわれていた日本海軍(海上自衛隊)も、最近の最新鋭艦同士になると、米軍にまったくかないません。後日の日米での勉強会でわかったのですが、日本の潜水艦に搭載されている機材で最新鋭といわれているものは、米軍のシステムより一世代古い型でした、ショック。日本が、軍事国防への真剣さを欠いてきた十数年のあいだに、圧倒的な差がついてるのかもしれない。
日本が国防を軽んじはじめたここ十数年間には、センサーや通信などのネットワークが飛躍的に進歩した時代でもある。それらの技術をスマホなど日常生活グッズや自動車など平和利用民生品のみに投入した日本と、軍事にも真剣に投じてきた米国との差。
ソナーマン氏は言う。「現場のソナーマンでも圧倒的な差を見せつけられて初めて知ったことです。おそらく、幕僚長以上や政治家などに、この格差が伝わることはないでしょう」と。考えようによっては「不都合な真実」でもあるわけだし。
『異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで』より一部抜粋
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