熊本県を中心に九州で相次いだ地震は、隣の韓国にも思わぬ余波をもたらした。釜山など韓国南部でも揺れを観測したが、「警報体制もない」と韓国政府への不満が噴出した。日本に対しては、素早い対応や、いたわり合う被災者らを称賛する一方で、インターネット上には、反感をむき出した書き込みも目立った。韓国人からも多くの寄付金が集まった東日本大震災のときとは、「日本を見る目が変わった」と分析する韓国メディアもある。
■「たくさん買えば、他の人が食べられない」
18日早朝の熊本市内のコンビニエンスストア。韓国紙、中央日報の記者は「家族4人分の水4本とおにぎり8個」を買ったという一人の主婦に質問した。
「なぜ、食料品をもっと購入しなかったのか」
主婦からは、「たくさん買えば、他の人が朝食を取れなくなる」との答えが返ってきたという。
同紙は、大きな被害が出た南阿蘇村の避難所で、「限られた食料品を、大学生が高齢者や子供に譲った」という声も伝えている。
別の記事でも「避難所では、乱暴な声は聞こえない。救護品の遅れに対し、政府や地方自治体を恨むこともなかった」と記し、食べ物を譲り合う被災者や少ない食料配給でも不満の声がなかった様子を描いた。
「極限状況でも、秩序意識と配慮の精神はそのままだった」
朝鮮日報で東京支局長を務めた論説委員も、「誰も空いている反対車線に侵入して走ることはなかった。誰かが反対車線に入って追い越し、通行が乱れれば、2日過ぎても到着できなかっただろう」と東日本大震災で取材に駆けつけた際の秩序立った日本人の行動についてコラムで振り返った。
日本の震災対策についても、「号泣し、絶叫し、デモをし、断食闘争をするのではなく、忍耐して研究するのが日本のやり方なのだ」と論じている。
2年前に起き、300人以上が犠牲になった旅客船「セウォル号」沈没事故をめぐる韓国社会での騒動が念頭にあるのだろう。事故後、遺族や反政府派が「徹底闘争」を掲げてデモや断食をし、国会も空転。事故の再発防止に向けた法案さえ通過しない状況が続いた。
両国の反応を比較し、韓国の読者に向け、暗に「韓国も日本を見習うべきだ」と諭しているようだ。
■「目を背けたくなる中傷」
一方で、5年前の東日本大震災当時と異なり、韓国人の反応が冷淡になっているとの分析も出ている。
同紙の別の記者はコラムで、「残念なのは、大きな不幸に見舞われた隣国の人々に対し、韓国人の温かさが今回はあまり感じられないということだ」と指摘。熊本地震に関するネット上の記事に寄せられたコメントには、「目を背けたくなるほどの中傷やひどい内容が多い」と嘆いた。
中央日報のコラムも、東日本大震災時には、韓国で「過去は過去。人間的に日本を助けよう」という声が盛り上がり、即座に45億円もの寄付金が赤十字に集まったという「愛憎」両面を持つ韓国人の日本観を挙げた上で、変化に言及した。
「こうした民心が今回の熊本地震では大きく変わった。愛憎のうち、愛が蒸発した」
今回は、「募金であろうと、10ウォン(約1円)も与えてはいけない」という「ひどいコメントがあふれている」という。
「より大きな悪材料は、『韓国人が井戸に毒を入れた』という流言が日本のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に広まったというニュースだった」とも記している。
実際にネットの書き込みを見ると、こんなコメントがある。
《「日本の右翼勢力が『熊本にいる朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ』と書き込んだと産経新聞のオンライン版」…こんなことをするから天罰を受けるんだろう…》
《日本がどんなに嫌いでも、地震で市民が被害を受け、同情していたのに、日本のツイッターの記事を見て、同情心が消えた》
確かに、産経ニュースは「井戸に毒」という悪意あるデマを批判する記事を掲載した。日本語で書かれた記事がネット上の翻訳機能で即座に韓国語に訳され、広がり、誤解や憎しみが増幅されるというSNSの便利さに潜む怖さを示す事例といえる。
■《日本は韓国の助けなんて必要ない》
韓国での悪意ある書き込みの広がりについて、《韓国人が冷酷なのではなく、福島(の地震)のとき、寄付金を集めたのに、日本の右翼派の思慮ない言葉が問題になった》とし、《日本側が招いた因果応報だ》と突き放すネットユーザーもいた。
中央日報は「安倍晋三政権の歴史修正の本格化」など日本の右傾化と、長らく続いた朴槿恵(パク・クネ)政権の拒絶姿勢が「互いの無知と誤解を拡大」させているとの見方を示している。
ことは、そんなに単純化できるものなのだろうか。
《韓国が日本を助けるだと? 気持ちは崇高だが…》と日本への支援を冷ややにみるネットユーザーの一人は、日本に関してこう記している。《日本のどこが韓国の助けなんて必要とする国か。被災者対策を立て、ちゃんと復旧する国だ》
その上でこう続ける。《むしろ、今回については、わが国が警戒心を持って自己診断する事例だ。日本を支援するカネで、釜山や慶南(慶尚南道)、済州島の耐震設計や補強をしよう》
16日未明に起きた熊本地震の本震では、釜山や慶尚南道といった韓国南部地域でも震度3前後の揺れが観測されたという。
高層ビルの一部が揺れ、部屋の中の写真立てが倒れたり、電灯や家具が揺れたりする程度だったが、日本人と違って地震に不慣れなこともあって、消防などへの問い合わせは、約4千件に上った。
ネットには、《ソウルじゃないから適当にやり過ごすつもりなの? ベッドやハンガーに掛けた服が揺れるほどじゃあ、深刻ではないの? 家が崩れて人が死んで、ようやく対策を準備するの?》といささかオーバーな書き込みもあった。
メディアは「もはや韓国も地震の安全地帯ではない」と警鐘を鳴らし、耐震補強を終えた公共施設は約4割、民間の建物では、3割台にとどまるという震災対応の遅れにも注目が集まった。
■「手本」としての日本
日本のように地震を知らせる全国的な警報システムがないことが、特に批判を浴びた。
ネットにも不備を嘆く声が相次いだ。
《なぜ、わが国の速報は出ないの? 日本のニュースにだけ頼っている現実。あぁ》
《韓国は、地震災害速報のようなものはない。セウォル号事故以降、いままで変わったことは何もない。日本の気象庁がむしろ、より信頼できる》
韓国南部でも揺れがあった16日が、悲劇の再発防止を誓ったセウォル号事故から2年の節目だったことも、災害対策が進まない状況をさらに印象づけたようだ。
先に見た書き込みのように、韓国でも揺れがあった今回の地震は、同情すべき“ひとごと”ではなく、“わがこと”として、「日本を支援する余裕があれば、まず国内をどうにかしろ」といういらだちが読み取れる。
セウォル号事故を境に、韓国社会でさまざまな矛盾が表面化し始めたといわれる。政局の混迷と経済の停滞もあって、同国社会が余裕を失っているようにも映る。今回の地震をめぐる日本への悪意ある書き込みも、その一端が表出したものかもしれない。変わったのは、日本というより、受け止める韓国人側の心理だといえなくない。
ただ、セウォル号事故後にも見られた現象だが、韓国の災害対策の不備を指摘するときに持ち出される「日本」は、決して悪いイメージではない。
書き込みにあるように、「日本の警報システム」を見習えという「よきお手本」としての存在だ。
称賛の一方で、心ない一部の日本人の書き込みに過剰反応した反発。遅々として進まない自国の災害対応との比較で持ち出される「手本」としての日本…。今回の地震は、図らずも、隣国に漂う、相反するようでいて正直な日本観を浮き彫りにさせたようだ。 夕刊フジより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
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