大麻を所持したとして大麻取締法違反(所持)罪で逮捕・起訴された末期がん患者の男性=東京地裁で公判中=の裁判が注目を集めている。同法は大麻の栽培や所持、医療目的の使用や研究などを禁止。男性は「全ての医師から見放された中、大麻ががんに効果がある可能性を知り、治療のために自ら栽培し使用したところ症状が劇的に改善した。憲法で保障された生存権の行使だ」と無罪を主張。大麻を使用した末期がん患者が生存権に基づいて無罪を訴えるケースは初とみられる。欧州諸国や米国の20州以上で医療用大麻の合法化が進む中、日本での医療用大麻解禁の是非が争点になる可能性もある。司法はどう判断するのか-。(小野田雄一)
無罪を主張しているのは、神奈川県藤沢市の元レストラン料理長、山本正光被告(58)。山本被告は平成27年12月、大麻約200グラムを所持したとして警視庁に逮捕され、その後起訴された。
弁護側によると、山本被告は25年6月に肝臓がんが見つかり、医療機関で治療を始めたが、26年10月に余命半年~1年と宣告。医師から「打つ手はない」と言われた中、インターネットで大麻ががんの改善に有効な可能性があると知った。厚生労働省や農林水産省、法務省などに「大麻を医療目的で使うにはどうしたらよいか」と相談したが、「日本では大麻自体や大麻由来の治療薬の使用は禁止されている」と説明された。製薬会社にも「私の体を医療用大麻の臨床試験に使ってほしい」と伝えたが、「日本国内での臨床試験は不可能だ」として断られたという。
そのため大麻を自宅で栽培・使用したところ、痛みが和らいだほか、食欲が戻り抑鬱的だった気分も晴れた。また、腫瘍マーカーの数値が20分の1に減り、改善の兆候が現れたという。
山本被告は「医師も『ありえない』と驚いていた。数値が下がったことを示すカルテもある」とし、「育てた大麻は他人に販売も譲渡もしていない。現代医療に見放された中、自分の命を守るためにやむなく行った」と話した。
医療用大麻の解禁を主張するNPO法人「医療大麻を考える会」の前田耕一代表(65)は「私も以前、緑内障患者の大麻の譲り受けを手伝い、大麻取締法違反の幇助(ほうじょ)罪で有罪判決を受けたが、判決文には『医療目的の大麻の施用は特別な事情がない限り正当化されない』と述べられていた。同法も『みだりに』栽培したり所持したりすることを禁じている。山本氏の場合はまさに『特別な事情』があり、『みだりに』所持していたわけでもない」と擁護した。
弁護側は公判でこうした「生存権の行使」「緊急避難的な措置だった」などと主張する方針だ。
大麻をめぐっては、近年では従来指摘されてきたほどの危険性はなく、たばこやアルコールに比べても日常生活や健康への悪影響は小さいとする研究成果が欧米などで報告されている。一方で、がん治療などへの有用性も確立されたデータは存在しておらず、国際的な専門機関でも統一的な見解がないのが現状だ。
厚労省がホームページで翻訳・公開している世界保健機関(WHO)のリポート「大麻 健康上の観点と研究課題」(1997年)は「大麻に関する疫学的研究と応用研究が明らかに必要だ。大麻使用の健康面の影響、慢性的悪影響、医療用大麻の有効性に関する知識に重要な欠落がある」と指摘。
国際麻薬統制委員会(INCB)は2009年年次報告で「数年にわたり大麻の医療的な有効性に関する科学的研究が複数の国で行われてきた。当委員会は、大麻の医療的な有効性に関する健全な科学的研究が実施されることを歓迎する」と検証を進めるべきだとする立場を示した。
一方、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の「世界薬物報告書」(2006年)では「最新の調査で大麻は精神に深刻な影響を及ぼすことが明らかになった。大麻は無害な薬草ではなく、慎重な取り扱いが必要な人間の精神に影響を及ぼす薬物である」と述べる一方で、影響の度合いについては「大麻を極めて大量に服用すると、軽い精神障害を引き起こすが、このような状況は極めてまれであることが判明した」とも指摘している。
厚労省監視指導・麻薬対策課の担当者は「医療用大麻は有効性が実証されているわけではない上、最先端のがん治療が受けられる日本で、医療用大麻を合法化する必要性は低い。米国では医療用のみ合法化された州、嗜好品用にも合法化された州があるが、実際には医療用のみ合法化された州でも嗜好品として蔓延している。他のより強度な麻薬に手を出す入り口にもなっている」と話す。その上で「日本で規制を緩めれば、子供などが大麻を手に入れやすくなるなどのリスクが生じる」として、規制緩和に対して慎重な立場を崩していない。
国立がんセンターのがん予防研究部第一次予防研究室室長を務めた医師、福田一典氏(62)は「大麻の医療効果に関する600以上の海外文献を検証したが、大麻ががんなどの難病に有効である可能性は高い」と指摘。「がんには万人に効果がある治療法はない。大麻も含め、どんな薬にも副作用はある。強い副作用を伴う抗癌剤やモルヒネもやむなく使用されているのが実情だ。そうした中で、大麻だけが絶対的に禁止されている現状には疑問だ。大麻ががん治療の選択肢の一つとして検討されてもよいのではないか」と話した。
医療大麻を考える会の前田代表は「大麻取締法は、医療目的で大麻を研究することすら禁じている。毎日、多くの人ががん治療で苦しんだり、自殺したりしている。自動車が事故のリスクがありながらそれ以上に有用であるため規制されないのと同様、医療用大麻のリスクとメリットをもっと研究すべきだ。山本氏の裁判をきっかけに、多くの人が医療用大麻解禁の是非について考えてほしい」と話している。 産経新聞より
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2016年4月24日日曜日
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