2016年3月21日月曜日

中国はゾンビ企業は一掃できるのか

中国で年に一度の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開かれた。

今年の全人代の中心課題は経済改革と景気対策である。李克強首相は政府活動報告のなかでゾンビ企業を整理、統合するとの決意を表明した。

中原地方と呼ばれる河南省と山西省は、歴史的に炭鉱が密集する地方である。昨今の石炭の需要減少と価格低下によってこれらの炭鉱の多くは経営を続けられなくなった。また地方政府は不動産バブルに便乗して各地に小さな製鉄所を設立したが、鉄鋼価格の急落を受けて経営難に陥っている。こうした炭鉱や製鉄所は経営的には存続が難しいが、大量の雇用と生産設備を抱えているため閉鎖することができない。

2016年の全人代の目玉の1つは、こうしたゾンビ企業の整理、統合である。中国政府が過剰設備の削減に本気で取り組むことを決意したのだ。政府は、鉄鋼と石炭関連のゾンビ企業の閉鎖によって失業すると見られる約180万人の手当として1000億元(約1兆7500億円)を用意すると表明した。

なぜゾンビ企業が生まれたのか

では、これで過剰設備の問題が解決するのだろうか。答えはノーである。

そもそもなぜゾンビ企業が表れたのだろうか。
通常、企業は市場の需給関係を見て投資と生産を調整する。もしも市場メカニズムのシグナルを読み間違えて赤字に転落し、経営を続けられなくなれば、裁判所に破たん申請を行う。一方、中小の国有企業は本当は経営を続けられないにもかかわらず、政府に“輸血”されることで生きながらえ、ゾンビとなった。要するにゾンビ企業は、政府、とりわけ地方政府が主導して作り出したものである。

ここで、新たな問題が出てくる。政府は1000億元の資金を用意し、ゾンビ企業の閉鎖が社会不安を引き起こさないように手当している。しかし政府は、ゾンビ企業の閉鎖によって失業する人だけではなく、すべての失業者を救済すべきではないのか。

現在、農村から2億人ぐらいの農民が沿海部を中心に出稼ぎに出ている。だが、沿海部で稼働していたアパレル、シューズ、玩具などの低付加価値製造業の工場は相次いで中国を離れ、ベトナムなど人件費の安い国に移転している。それに伴い1000万人以上の出稼ぎ労働者が失業しているといわれている。だが、これらの失業者は救済されていない。

実は政府にとって、出稼ぎ労働者よりも炭鉱労働者や製鉄所の従業員の方が「やっかい」な相手である。

一般的に出稼ぎ労働者は忍耐力が強く、不利な立場に置かれても反発しない。また、都市部に親戚や友人がいないので、徒党を組んで企業に歯向かうこともない。

それに対して、炭鉱労働者や製鉄所の従業員はその街で育ってきたため、自分の権利を守る意識が強い。親戚や友人も多い。1人の労働者には20~30人の親戚、友人がいることだろう。もしもこれらの労働者や従業員が抗議活動を繰り出した場合、その波及効果は20倍以上になる。だからこそ政府はゾンビ企業の整理には気を遣い、手当をしようとする。
 
過剰設備は政府の失敗によるもの

中国の製造業の設備の稼働状況を見ると、重厚長大産業のほとんどは軒並み40%以上の過剰設備が生じている。自動車産業の場合は約50%の設備が遊んでいるといわれている。

中国では政府がトップダウンで過剰設備の削減に乗り出そうとしている。だが、政府が過剰設備の削減に取り組んでも、経済は回復しにくい。

そもそも過剰設備を作り出したのは国有企業の非効率な投資だった。政府が恣意的に市場介入を行ったから、需要と供給が均衡水準から大きくかい離し、過剰設備が生まれているのだ。政府の保護を受ける国有企業は市場メカニズムのシグナルを無視して投資の拡大を続けてきた。

過剰設備が生まれる背景の1つに、2009年に発動された4兆元(当時の為替レートでは約56兆円)の財政出動がある。ゾンビ企業も過剰設備も、市場の失敗ではなく政府の失敗によるものである。

過剰設備を削減する最善な方法は、政府のトップダウンではなく、市場メカニズムが機能する市場環境を整備し、企業が自ら過剰設備の削減に取り組むことだ。過剰設備を削減するかどうかは政府の指令に基づくものではなく、あくまでも企業の自主判断によるものでなければならない。

ゾンビでない国有企業は温存するのか

今年の全人代で、李克強首相は政府活動報告の冒頭で「構造改革が着実に進展している」と豪語した。だが、中国経済の実態をいくら検証しても、構造改革が着実に進展しているという結論にはたどりつかない。習近平政権が誕生して3年経ってようやくゾンビ企業の処理に乗り出そうとしているのでは、 "Too late" (遅すぎる)と言わざるを得ない。
ゾンビ企業の処理が順調に進むかどうかも不透明である。そもそもどの会社がゾンビかという判断を、誰が下すのだろうか。政府が、ゾンビかそうでないかを選別するならば、地方政府おおよびゾンビ企業と中央政府の間で、必ず駆け引きが始まることになる。

地方政府とゾンビ企業は中央政府から補助金を引き出すために、失業者の人数を水増しして報告するだろう。閉鎖が決まったゾンビ企業が看板を取り換えて再び開業される可能性もある。結局のところ、中央政府のトップダウンで過剰設備が削減できたとしても、市場の需給がリバランスする可能性は低い。

また、今回の政府活動報告では、ゾンビではない国有企業をどのように改革するかが一切言及されていない。

現在、市場を独占する国有企業の膨張によって民営企業が圧迫されている。大型国有企業を資産で評価すると世界のトップ企業と肩を並べられるが、ROE(収益率)を見ると競争力が強いとはいえない。大型国有企業がゾンビになる前に一刻も早く民営化して、国有資産を有効利用すべきである。

大胆に改革しなければ、一握りの巨大国有企業が市場を独占支配する国有財閥に変身する可能性が高い。そうなれば、中国経済はますます活性化しにくく停滞することになるだろう。
JBpressより

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