2016年3月6日日曜日

南シナ海が中国の海に

米国防総省と第7艦隊が中国の全人代開幕に合わせたかのように米空母艦隊を南シナ海に派遣した。背景には南シナ海の軍事基地化を進める中国が一方的に防空識別圏を設定し、南シナ海を“聖域”としかねないとの危機感があったようだ。米国は中国による軍事拠点化を防ぐ方針だが、状況は全く予断を許さない。

南シナ海に派遣されたのは原子力空母「ジョン・C・ステニス」、ミサイル巡洋艦「モービル・ベイ」、イージス駆逐艦「チャン・フー」「ストックデール」のほか、補給艦「レーニア」。米海軍は今回の空母艦隊派遣を通常のパトロール任務だとしているが、この言葉を額面通りに受け取る人はいないだろう。フィリピンのマニラには米海軍横須賀基地(神奈川県)を拠点とする第7艦隊の旗艦「ブルー・リッジ」が寄港している。

■2030年までに「中国の湖」になる

米空母艦隊派遣が公になる直前の3月1日にはカーター米国防長官がサンフランシスコで講演し、中国が南シナ海の軍事化をやめようとしないのなら、「それに見合う結果を伴う」と述べ、対抗措置を取る考えを強調していた。

2007年にも南シナ海に派遣されたことがある「ジョン・ステニス」のハフマン艦長は「中国の艦船が周囲にいる」と、米空母艦隊の動きは中国に監視されていると説明する一方、集まった中国の艦船の多さについて「過去の私の経験では見たことがない」と語り、10年ほどで南シナ海をめぐる軍事状況は一変していることも明らかにした。

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が2016年1月にまとめた報告書は、南シナ海について「2030年までに事実上、中国の湖となる」と警鐘を鳴らしている。

中国による南シナ海の軍事拠点化の勢いはとどまることがない。2014年5月に中国がスプラトリー(中国名・南沙)諸島の岩礁で大規模な埋め立てを行っていることが判明。2016年1月にはスプラトリー諸島にある人工島の飛行場に試験飛行を実施した。米国防総省が同年2月、スプラトリー諸島に新たなレーダー施設を建設していることを確認した。また、同年2月にはパラセル(中国名・西沙)諸島に対空ミサイルが配備されたのに加えて、戦闘機が派遣されたのも分かった。

■一挙に防空識別圏を設定か?

米国がこうした南シナ海における中国の行動を受けて、最も警戒しているのが防空識別圏設定の強行だ。ハリス米太平洋軍司令官は2月25日の記者会見で、ケリー米国務長官が中国に対し、南シナ海上空に防空識別圏を設定しないように求めたことを明らかにする一方、中国が防空識別圏を設定しても「無視する」と語った。

中国外務省の洪磊報道官は2月26日の記者会見で、南シナ海上空に防空識別圏を設けるかどうかについて「状況次第だ。南シナ海の現状は全体として安定している」と述べたが、遅かれ早かれ中国が防空識別圏を設定しようとするのは間違いないというのが軍事関係者の常識的な見方だ。

レーダーと対空ミサイルの配備、そして戦闘機の派遣というのは実は東シナ海での行動が一つの教訓となっている。中国は2013年11月に尖閣諸島(沖縄県石垣市)を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定した。しかし、米軍は戦略爆撃機B52を中国に事前通告することなく派遣し、堂々と防空識別圏内を飛行させた。

■東シナ海での教訓に学ぶ

中国はB52の飛行をレーダーでとらえたと主張したが、元航空自衛隊幹部は「中国はスクランブルをかけていない。B52を捕捉することができなかったのではないか」と見ている。

つまり、東シナ海ではレーダーや対空ミサイルなど防空用兵器の配備が追いつかなかったために米軍の進入を易々と許す結果となったというわけだ。南シナ海でその二の舞とならないようにするには進入してくる米軍を捕捉・迎撃できる兵器を揃えた上で、防空識別圏の設定に踏み切る必要がある。

レーダーで捕捉し、対空ミサイルで迎撃、さらに進入を試みようとする敵については航空機を緊急発進(スクランブル)させるということになる。先の元空自幹部はこうした中国の動向について「南シナ海の制海権と制空権を掌握するために着々と布石を打っている」と分析している。

こうした中、米軍内では「中国が南シナ海の軍事拠点を前方展開基地に変容させようとしている」との強い警戒感が出ており、攻撃型原子力潜水艦の追加配備やステルス駆逐艦「ズムワルト」を展開することも検討している。米国が実施している「航行の自由」作戦との関連は不明だが、昨年11月上旬には海上自衛隊護衛艦が米原子力空母「セオドア・ルーズベルト」と一緒に南シナ海を航行した。年内には日本、米国、インドの3カ国がフィリピン北方の南シナ海近くで海上共同演習を実施する。南シナ海をめぐる角逐は続くことになる。 産経ニュースより

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