北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の異母兄・金正男氏が2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺されてから2週間が経過した。
マレーシア警察による捜査の進展に関心が寄せられる一方で、より大きな注目を集めているのが正男氏の長男である金ハンソル氏(21)の動向だ。
1995年6月に北朝鮮・平壌で生まれたハンソル氏は幼少期をマカオで暮らし、その後は欧州に渡り、高等教育を受けたとされる。2011年10月にボスニア・ヘルツェゴビナの国際学校に入学。2013年9月にはフランスのオランド大統領の母校でもある名門校・パリ政治学院に入学し、政治学を学んだ。
昨年から英オックスフォード大学大学院に入学予定だったが、中国当局からの「北による暗殺」の可能性を警告されたため断念。以降、現在に至るまで正男氏の2人目の妻に当たる母親と妹が暮らすマカオに移り住み、中国当局の保護下に置かれていると伝えられる。『コリア・レポート』編集長の辺真一氏の解説だ。
「今回の正男氏暗殺の背景にあるのが、昨年表面化した欧米各国に散らばる脱北者団体による亡命政権樹立の動きです。
イギリスの脱北者団体関係者が最後に正男氏に接触したのが昨年6月。その際、正男氏は自分が亡命政権のトップに就くことを固辞したとされますが、この動きが正恩氏の耳に入り暗殺のタイムスケジュールが早まったとも言われています」
韓国の総合誌『月刊朝鮮』最新号(2017年3月号)に正男氏が生前、「自分より息子ハンソルが亡
命政府の指導者になることを望んでいる」と話していたことや、「大学を卒業すれば、ハンソルを(亡命政権指導者として)前面に打ち出す」との考えを強く持っていたエピソードなどが報じられている。
辺氏によれば、正男氏亡き後、各脱北者団体はハンソル氏を担ぎ上げる動きを見せているとされる。単に息子という理由だけでなく、ハンソル氏のほうが“リーダー”として相応しいとの声が多いためだという。
常々「政治に関心はない」と公言し“自由人”として生きた正男氏より、フランスのエリート校で政治学を学んだハンソル氏のほうが「政治に対する関心や意識は高い」(辺氏)と見られているからだ。
2012年10月、フィンランドのテレビ局のインタビューを受けたハンソル氏は、そこで金正恩を〈独裁者〉と呼び、逆鱗に触れたと伝えられるが、韓国の情報機関・国家情報院関係者によれば、本当に“虎の尾”を踏んだのは「対南思想」と「将来の夢」を語ったシーンだとされる。
〈韓(朝鮮)半島を2つに分断しているのは政治的な問題に過ぎない。だから僕はどちらかの肩を持つということはしない〉
〈僕は(南北)統一を夢見ており、いつの日か北朝鮮に戻って人々の暮らしを楽にしたい〉
金正恩はこの発言を「将来的には北に舞い戻って自分の地位に取って代わり、南北統一を果たす野心の表われと受け取った」(前出・国情院関係者)というのだ。
ヨーロッパで教育を受け、民主主義的な価値観を持つハンソル氏に欧米各国は好意的な見方をしている。
特に米国、中国、韓国にとってハンソル氏は、正男氏暗殺後の現在、対北カードで最大の切り札に浮上したという。北朝鮮問題に詳しい早稲田大学名誉教授の重村智計氏の指摘である。
「米トランプ政権にとって、核兵器や米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を止めず挑発を繰り返す金正恩政権の体制転換こそ、自国の安全保障に繋がるとの考えが共有されつつある。
中国と韓国にとっては、暴走を続ける北朝鮮が突然崩壊して、自国に大量の難民などが押し寄せる最悪の事態も避けたい。3か国にとって、ハンソル氏は大きな混乱を伴わずに、北の体制転換を可能にする有力な切り札と見られているのです」
各国の思惑が交錯するなか、ハンソル氏の「身柄確保」をめぐって熾烈な駆け引きが繰り広げられているというのだ。
週刊ポスト2017年3月10日号
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2017年3月3日金曜日
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