2018年2月1日木曜日

富士フイルムが名門ゼロックスを買えた理由

「20世紀の米国産業における重鎮の独立が終わる」。米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、その買収劇を感傷的にも思える言葉で表現した。

富士フイルムホールディングスは1月31日、米事務機大手ゼロックスの株式の過半となる50.1%を取得し、傘下の富士ゼロックスと経営統合させることを発表した。統合後の社名は「富士ゼロックス」となる。創業110年超の米国の名門はペーパーレス化に苦しむ中、日本企業の下で再建を図ることになった。ただ本社は日米双方に置き、ニューヨーク証券取引所への上場も維持する。すべての手続きは2018年度第2四半期に完了する予定だ。

■世界最大のコピー機・複合機メーカーに

統合後の新会社は、米HP(旧ヒューレット・パッカード)やキヤノン、リコーを抜き、コピー機・複合機の売上高(日本円ベース)で世界首位となる。富士フイルムHDの古森重隆会長は、「全世界での売り上げ拡大、コスト削減を通じた相乗効果が見込める」と胸を張る。

富士ゼロックスは1962年に英ランク・ゼロックス(現・米ゼロックス)と富士写真フイルム(当時)の合弁会社として発足。富士ゼロックスは日本を含むアジア太平洋地域、米ゼロックスは欧米や南米、アフリカといった具合に営業エリアを分けていた。それが今回の統合により取り払われるというわけだ。

「かなりスピーディーな決断だったが、極めて価値創造的なものだと考えている」。古森会長はそう言って一層の自信を見せる。というのも、「富士フイルムグループとして現金の外部流出は一切伴わない」(同)からだという。

「従来からもっといい協力ができないか、関係を前進させられないかという気持ちは両者(富士フイルムHDと米ゼロックス)にあった」と古森会長。だが、米ゼロックスの時価総額は現在約9000億円。ここにプレミアムを乗せてTOB(株式公開買い付け)などを実行しようとすれば、巨額の資金が必要になる。

今回のスキームはこうだ。まず富士ゼロックスが金融機関から6710億円を借り入れ、富士フイルムHDから75%の自社株を取得する(第三者の専門家により富士ゼロックスの企業価値を約9000億円と算定)。この時点で富士ゼロックスは、米ゼロックスの100%子会社となる。

富士フイルムHDはこの資金を米ゼロックスの50.1%分の新株発行引き受けの原資とする。

だが米ゼロックスの時価総額を考えると、富士フイルムHDの原資では足りない。そこで米ゼロックスは既存株主に対して25億ドル(約2700億円)の特別配当を実施することで、自社の時価を下げる。新株発行が完了すれば、これを元手に富士ゼロックスは最初に借り入れた6710億円を返済でき、現金流出はない、という仕組みだ。

統合を含めた協議が始まったのは、1年半ほど前だという。「2年ほど前に就任した(米ゼロックスの)ジェフ・ジェイコブソンCEOは富士ゼロックスの取締役でもあったのでよく日本に来ていた。何かいい方法がないか話す中で、今回のスキームにたどり着いた」(古森会長)。

■”物言う株主”の声も引き金か

だが、このタイミングでの米ゼロックス買収実現の理由に関しては、別の見方もできる。”物言う株主”による圧力だ。昨年12月以降、米著名投資家のカール・アイカーン氏が、収益の減少が止まらず株価も低迷する米ゼロックスへの対決姿勢を強めていたからだ。

米ゼロックスの筆頭株主である同氏は、1月22日に第3位株主のダーウィン・ディーソン氏との共同声明を発表。「富士ゼロックスとの合弁解消」など、5つの要求を会社側に通知していた。今回の富士フイルムHDの発表は、それからわずか9日後である。

古森会長は「今回の統合にはさまざまなメリットがある。株価も自然に上がる。アクティビストたちもおとなしくなるでしょう」と意に介さない。

統合後の新・富士ゼロックスにおける経費削減効果は、2022年度までに年間17億ドル(約1870億円)を見込む。そのうち4.5億ドル(約500億円)は国内外で1万人削減計画を打ち出した現・富士ゼロックスの構造改革によるものだ。

とはいえ、世界のコピー機・複合機市場は先進国を中心に頭打ち。さらに富士ゼロックスの不適切会計問題が昨年発覚したばかりで、巨大な米ゼロックスをどこまでコントロールできるかは未知数だ。ニューヨーク上場を維持することで、株主との慎重な対話も求められそうだ。

記者会見に登壇した古森会長ら経営陣は一様に満足げな表情を見せたが、この先の企業統治には課題が山積している。infoseek newsより

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