2017年3月2日木曜日

現実味を帯びてきた北朝鮮への先制攻撃。手を下すのは米国か中国か

世界中に衝撃を与えた金正男氏暗殺事件。その前日には弾道ミサイル発射実験を強行するなど、北朝鮮の暴走が目に余る事態となっています。こうした動きを受けてトランプ新政権は、北朝鮮高官のビザを拒否するなど厳しい姿勢を見せていますが、これをもって「アメリカは北朝鮮に対して軍事オプション行使をちらつかせている段階」とするのは評論家の黄文雄さん。さらに氏は自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、そうはさせじとする中国が、米国より先に北朝鮮に侵攻する可能性も否定できず、朝鮮半島はこれまで以上に目が離せない状況となっている、との見方を示しています。

【朝鮮半島】北朝鮮を武力攻撃するのは米国か中国か

● 金正男氏殺害、「正恩氏が指示した組織的テロ」 韓国情報当局

金正日総書記の長男、金正男がマレーシアの空港で暗殺されて約2週間が経過しましたが、いまだ真相解明には至っていません。しかし、韓国情報部は2月27日日、異母弟の金正恩が指令を下したと断定しました。

一説には、中国とパイプのあった2人の叔父である張成沢が金正男に資金提供をし、中国の庇護下に置いて、いつでも金正恩との首のすげかえができるようにしていたため、そのことを察知した金正恩が2013年12月に張成沢を処刑し、そして今回、金正男の殺害に成功したとも言われています。ちなみに脱北者によれば、張成沢に連座して処刑された者は1,000人近いとも言われていま
す。

北朝鮮がしきりに核実験や弾道ミサイル発射実験を繰り返すのは、言うまでもなくアメリカに核保有国であることを認めさせ、アメリカを交渉の場に引きずり出して、金正恩体制の存続を約束させることにあります。

そのためには、自分のかわりに交渉相手となるような人物は排除しなくてはなりません。金正恩にとって、中国が金正男を保護しているということは、「いずれ自分のかわりに北朝鮮のトップにすげるという意図が中国にあると見ていたはずです。

北朝鮮に対する国際的批判が高まり、中国の無策にも批判が集まっています。金正男が生きているかぎり、中国に亡命政府がつくられ米中との交渉の窓口になってしまう可能性もあります。だからどうしても金正男を排除しなければならなかったということだったのでしょう。

今回の件で中国は、金正男を守ることはできませんでした。そのためか、中国では金正男暗殺の報道は結構控えめです。もっとも、中国が金正男を見捨てたという見方もあります。張成沢がいなくなったことで、北朝鮮とのパイプが消え、金正男の利用価値が薄れたため、切り捨てたという話もあります。

いずれにせよ、金正男がいくら「政治に興味がない」と公言し、弟に対して命乞いしていても、それでも毒殺の運命から逃れられなかったというのは、多くの日本人が「不憫」だと思うことでしょう。しかし、それは中華の国では逃れられない宿命」でもあります。

歴史から見ても、統一新羅から高麗朝まで、朝鮮半島の国王の2人に1人は天命を全うすることができませんでした。中華帝国の天子たる皇帝にしても3人に1人が非業の死を遂げています。
南朝の宋の劉一族は、殺し合いの末にとうとう一族の皇位継承者がいなくなってしまいました。最後の王子は「なぜ不幸にして皇家に生まれたのか」とまで嘆いていました。また、明の最後の皇帝である崇禎帝は、李自成の反乱軍に追われ、自殺する前に娘を殺す際、「なぜ君は不幸にして皇家に生まれたのか」と泣きながら語りました。

今回の金正男の暗殺は、そうした中華(小中華)の国の王家に生まれたことの悲劇だと思わざるをえません。

中国商務部は2月18日に、12日の弾道ミサイルの打ち上げへの制裁として北朝鮮からの石炭輸入を年内いっぱい停止することを発表しました。これに対して北朝鮮は「友好国を名乗る隣国が北朝鮮を貶めた」と反発しています。

● 北朝鮮メディアが中国批判「友好国を名乗る隣国が北朝鮮をおとしめた」

一方、中国国内では金正恩は「三胖」(北朝鮮の三代目のデブ)と呼ばれ、非常に嫌われています。一時期はこの「三胖」という言葉は、北朝鮮に配慮して、中国では検索禁止のワードとなっていました。しかし、2月13日からは検索可能になったようです。

● 中国ポータルで金正恩のあだ名「金三胖」が再び検索可能に…ミサイルの影響か

こうした動きから、かつて「血の同盟」と言われた中朝関係ですが、もはや風前の灯火であり、中国が北朝鮮に軍事行動をかける可能性すらささやかれています。

2月24日には、アメリカが北朝鮮外務省幹部へのビザ発給を認めませんでした。アメリカは、自国まで届く弾道ミサイルの開発を絶対に許さないという態度の表明でもあります。

● 米、北朝鮮高官のビザ拒否=ミサイル、正男氏暗殺が一因か―報道

トランプ大統領も2月12日の弾道ミサイル発射については「非常に憤りを覚える」と非難を強め、軍事オプションを取る可能性も示唆していました。そして27日にはトランプ大統領は国防費10%増額の方針を明らかにしています。

● トランプ大統領 国防費10%増額の方針明らかに

また、アメリカ政府は北朝鮮のテロ支援国家再指定を検討しているとも報じられています。そうなれば、北朝鮮と取引する金融機関はアメリカの金融機関と取引ができなくなります

● 米政府 北朝鮮のテロ支援国家再指定を検討

北朝鮮外務省幹部をアメリカに入れないという姿勢は、交渉を拒否するという強い姿勢でもあります。アメリカは北朝鮮に対して軍事オプション行使をちらつかせている段階だといえるでしょう。
こうなると中国も黙っていられません。そのため、アメリカに北朝鮮を攻撃される前に、中国では自分たちの手で金正恩体制を崩壊させて都合のいい政権を樹立しようという動きに出るという観測が高まっています。

事実、中朝国境の解放軍が兵力を増員しているという噂が流れ、中国国防部がこれを否定するということも起きています。世界は中国が北朝鮮に侵攻するのではないかと見はじめているということです。

● 国防部 「中朝国境の解放軍、兵力を増員」報道は完全なデマ

金正男の暗殺前に北朝鮮の秘密警察(国家保衛部)幹部ら5人が銃殺されていたということも明らかになっています。嘘の報告をしたことが罪状であり、さらに秘密警察のトップである金元弘も身分を剥奪されて調査されていると報じられています。

● 北朝鮮 秘密警察幹部ら5人銃殺か=韓国情報機関

そして韓国側の情報によると、金正男の暗殺はこの秘密警察と外交部門が計画実行したものであり、これら秘密警察幹部の粛清も金正男暗殺となんらかの関係があるのではないかと見られています。親中派・金正男派として粛清された可能性もあります。

● 毒殺金正男前 北韓砲決5高官

北朝鮮を増長させてきた責任は、間違いなく中国にあります。金正日時代から、中国への敵意が顕在化し、そして金正恩になってさらにそれが増大してしまいました。北朝鮮の瀬戸際外交はアメリカと日本を怒らせ、中国の責任を問う声が大きくなりつつあります。

韓国のTHAAD導入決定も、北朝鮮を御しきれなかった中国が招いたことでもあります。THAAD問題で中韓関係もギクシャクしていますし、北朝鮮問題では米中関係も微妙になってきます。

大中華と小中華の関係は、有史以来、宗属関係のままのほうがうまくいくという考え方があります。こうした「天朝秩序」は、歴史の知恵ともいえます。そして朝鮮半島が分裂していたほうが、中国にとっても互いにいがみ合わせ、「夷を以て夷を制する」ことができるので、好都合なのです。

また、チベットやモンゴルといった異民族問題を抱える中国にとっては、朝鮮半島が統一されてしまうと、チベット・モンゴルの独立問題にも発展しかねません。現在のような分断国家のほうが日米への牽制にもなりメリットが大きいのです。だからこのままの現状維持が望ましく、アメリカによる攻撃で朝鮮統一が実現しては困るのです。

とはいえ、北朝鮮で親中派が次から次へと消されていることも、頭が痛いことではあります。下手に強く出ると、北朝鮮はロシアを頼ることになってしまいこれもマイナスです。韓国への圧力も含めていかにして朝鮮半島を操るか、中国は朝鮮政策を再考しているところであり、それだけに金正男暗殺について中国はあまり多くを語らないのでしょう。中国が迷っているときはたいていあまり多くを語らないことが多いのです。

とはいえ、すでに金正恩が暗殺されたマレーシアと北朝鮮の関係が悪化し、断交寸前までになっていますし、アジア情勢の急変が、いつ起こっても不思議ではありません。ここ数カ月、朝鮮半島から目が離せません。 infoseek newsより

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