今月、中国海軍の軍艦が相次いで日本の接続水域と領海に侵入した。中国は、南シナ海における日本の活動を牽制(けんせい)し、南シナ海に手を出さないように警告したのであろう。現在、中国は日本と戦争する気はないが、対立をエスカレートする力を持っている。安全保障の基本は最悪の事態を考えることである。
中国が尖閣諸島に侵攻してきた場合、戦争はどのような経過をたどるか検討する。
≪戦争をレベルアップする中国≫
戦争は、(1)中国の侵攻を日本が撃退する(2)中国が尖閣諸島を占領する、という2つの場合が考えられる。
(1)の場合、中国には(イ)尖閣諸島占領を断念して撤退する(ロ)戦争をレベルアップするの2つの選択肢がある。
(イ)の場合、戦争に負けるという大失策を犯した共産党に対して、国民の不信感と共産党を支える軍の不満は増大し政権は不安定化する。ただし、この段階で戦争をやめれば、死傷者に対する感受性が低い中国社会では政権にとって致命傷にならないだろう。
しかし、敗戦は「中華民族の偉大な復興」を標榜(ひょうぼう)する共産党の正統性に大きな傷をつける。故に、共産党は敗戦を避けるために、(ロ)を選択する可能性がある。
尖閣諸島占領に失敗しても中国軍が致命傷を受けたわけではない。中国には初戦の失敗を挽回するために戦争をエスカレートする十分な力が残っている。中国が配備する核兵器による戦争になれば、核兵器を保有しない日本に勝つチャンスはない。
中国が日本を核兵器で威嚇した場合、日本には(イ)中国の核威嚇に屈して尖閣諸島から撤退する(ロ)日米安保条約に基づき米国に支援を求める-の2つの選択肢がある。(イ)の場合、重要な国益を失った政府は、国民の厳しい批判を浴びて政権を維持できないだろう。故に、日本政府は(ロ)を選択する可能性が高い。(ロ)の場合、米国には(イ)日本の支援要請を断る(ロ)日本に対する「核の傘」を起動させる-の2つの選択肢がある。
≪日本への核威嚇は機能しない≫
(イ)の場合、日米同盟は破綻する。太平洋の西端に位置する日本は、経済力や軍事力で米国が太平洋を支配するために不可欠の役割を果たしており、日本が離反すれば、世界の海を支配する覇権国家としての米国の地位は大きく揺らぐことになる。米国が世界の覇者の地位を維持しようとすれば日米同盟を失うコストは大きい。
しかし、日本を支援することによって中国との大戦争になればそのコストも巨大である。過去の戦争を分析すると、戦場が本土から隔絶した場所に限定され、本土を攻撃した場合のコストが大きく、双方に戦争を拡大する意思がない場合は戦争を小規模に限定することができる。戦争が小規模ならばコストも小さい。米国はコストが小さい方を選択する。
米国が(ロ)を選択し、中国の対日核威嚇を抑止しようとする場合、中国には(イ)米国の核威嚇に屈して日本に対する核威嚇をやめ、尖閣諸島を放棄する(ロ)米国の核威嚇に核兵器で対抗する
2つの選択肢がある。
(ロ)の場合、数千発の核弾頭を持つ米国と数百発の核弾頭を持つ中国との核戦力には大きな差があり、核戦争になれば米国は中国を圧倒できる。故に、中国が核戦争に踏み切る可能性は低い。
米国による「核の傘」が機能すれば、日本に対する中国の核威嚇は機能しない。すなわち、尖閣諸島に対する日本の支配に変化はないということになる。
≪平時の防衛力強化が肝要≫
中国が尖閣諸島を占領する(2)の場合、自力で尖閣諸島を奪回できない日本は米国に支援を求め、世界の覇者の地位を守りたい米国は日本を支援する。米国の「核の傘」によって中国の核兵器は封じ込められ、争いは通常兵器の戦争になる。通常兵器の分野でも米国が中国を圧倒しており、日米の通常兵力による低コストで小規模な奪回作戦によって尖閣諸島を占領した中国軍を排除できる。ただし、米軍が戦うのは日本の兵士が米軍兵士の前で戦う場合である。
日米同盟が機能すれば、(2)の場合でも尖閣諸島は日本の支配下に戻ることになる。中国海軍が東シナ海で自由に動けるのは、中国軍にも「航行の自由」が認められる平時だけである。南沙諸島の岩礁を埋め立てた軍事基地も米軍が攻撃すればひとたまりもない。
ただし、戦争を早く終結させるためには、中越戦争のように「戦争に負けたのではなく、敵に十分な教訓を与えたから撤退した」と中国が主張できる逃げ道を残すことも考慮すべきだ。
いずれにしても、(2)の場合の奪回作戦の人的物的コストは、(1)の場合の中国の侵攻を撃退する防御戦闘よりも大きくなる。
故に、できるだけ小さいコストで東シナ海の現状を維持するためには、平時の防御力を強化して日本に不利な既成事実をつくらせないことが肝要である。 産経新聞より
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2016年6月17日金曜日
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