2016年1月1日金曜日

月面着陸を目指すJAXA

平成31年度の打ち上げを目指す日本初の月面着陸機「SLIM」(スリム)の開発が今年、いよいよスタートする。世界で例のない高精度の着陸技術を採用し、旧ソ連、米国、中国に続く無人月面着陸を狙う意欲的なプロジェクトだ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が描く最新の開発計画を紹介する。

政府が正式決定、開発費180億円

スリムの最大の特徴は、狙った場所に正確に降りる「ピンポイント着陸」だ。米アポロ宇宙船をはじめとする各国の月探査機は、目標地点からの誤差が1キロ以上もあったが、これをわずか100メートルに抑える。この新技術を小型の探査機で実現し、月・惑星探査の高精度化や低予算化に先鞭をつけるのが狙いだ。

JAXAは昨年4月、政府の宇宙政策委員会の小委員会と、文部科学省の小委員会でスリムの開発方針を報告した。

文科省小委は6月、「わが国の月探査への取り組みが遅れることは、月の科学における優位性を失うとともに、国際的な発言力の低下を招くことで、将来の月面利用の場や権益獲得の機会を失う恐れがある」と指摘し、スリムの開発を着実に進めるべきだとの見解をまとめた。

宇宙政策委も11月、計画を了承。これを受け政府の宇宙開発戦略本部は12月、来年度から開発を始めることを正式に決定した。開発費は180億円で、うち23億円が文科省の来年度予算案に盛り込まれた。国産小型ロケット「イプシロン」で打ち上げる予定だ。

JAXAの検討チームは昨夏、正式プロジェクトの前段階である「プリプロジェクト」に昇格した。今後はJAXA内部で技術面や費用面から実現の可能性について審査を受け、プロジェクトに移行する。

今さら月を目指すのか「技術示すことが重要」

開発方針が明らかになった昨年4月以降、JAXAには国民から多くの反響が寄せられているという。担当者は「多くは応援の声だが、今さら月を目指すのかという批判もある」と明かす。

旧ソ連が人類初の無人月面軟着陸を実現したのは1966年。その3年後には、米国のアポロ11号が有人着陸に成功している。半世紀もたってから無人着陸に挑戦する意味はどこにあるのかという疑問の声もあるようだ。

これに対し、チームを統括するJAXAの坂井真一郎准教授は「疑念は当然だが、日本は着陸技術を持っているというだけでなく、それを実際に示すことが極めて重要だ。加えて、小型で高精度な着陸を限られた予算で効率よく実現すること。それを世界に先駆けて、月・惑星探査の敷居を下げたい」と意気込む。

ただ、計画の詳細はまだ固まっていない。今後の最大の検討課題は、どこに着陸するかだ。当初の候補地は、月周回機「かぐや」が発見した「マリウス丘の縦穴」付近。見間違えようのない特徴的な地形で、目標地点にピンポイントで着陸できたことを証明するのに好都合だからだ。だが科学界からは、探査や将来の資源採掘の可能性などを視野に、別の複数の候補地も提案されている。

坂井氏は「当初案にとらわれず慎重に検討している。重力のある天体への日本初の着陸となるだけに、絶対に失敗できない。リスクは小さい方がよいが、得られる科学的成果が大きい方がよいという視点もあり、そのバランスが考えどころだ」と胸中を明かす。

スリムは本来、着陸技術を実証する試験機の意味合いが強く、現時点では探査を行う予定はない。しかし宇宙政策委などでは観測機器の搭載に関する質問が相次ぎ、JAXAは「可能な範囲で搭載することも検討している」と説明している。

チームは機体の詳細な設計を始めており、重量に余裕が生じれば観測機器の搭載も可能だ。ただ、どのような種類の装置を搭載するかはまだ検討していない。見えない着陸地点とともに、不確定要素を抱えたままの開発スタートになるとみられ、走りながら考えていくことになりそうだ。

ピンポイント着陸支える「三角形」の新技術

ピンポイント着陸を支える技術開発では、研究者の地道な努力が続いている。着陸地点を素早く正確に特定して降下するには、地球からの指示に頼らず、自分の位置を機体が自ら認識する仕組みが必要になる。

デジタルカメラにも使われている顔認識技術など、多くの最新技術が求められる中で、人工知能技術の一つである「進化的アルゴリズム(計算方法)」の手法で挑んでいるのが、電気通信大の高玉圭樹教授(知能情報学)らのグループだ。

自分の位置を特定するため、まず月面のクレーターを上空から撮影し、3つのクレーターの位置関係を三角形に置き換える。機体には月面の地図データがあらかじめ内蔵されており、さまざまなクレーターの位置関係を同様に三角形で表現する。両者の形を比較する計算を繰り返して似通った場所を絞り込み、最終的に一つに特定する仕組みだ。

高玉氏は「クレーターの検出から位置の推定までは1、2秒程度を目指している。かなり挑戦的だが、実証できれば探査の可能性が大きく広がる」と語る。

スリムが技術面で野心的といわれる理由の一つは、小型のため搭載品の制約が大きいことだ。性能の低いコンピューターでも素早く計算できる方法を採用する必要がある。そこで高玉氏らは三角形を使う工夫を駆使し、簡素な計算方法を編み出した。

坂井氏は「月に行くことに対し、専門家はもとより国民的にも関心が高まっている。将来の月・惑星探査につながる技術を示すため、気が抜けない」と話す。チームにとって、今年は計画を具体化させる正念場となりそうだ。 産経ニュースより

野心的な計画である。将来、月の資源を利用する時の実績作りとも言えないことはないが、少ない予算で、正確に月に着陸出来れば、日本の技術力が世界的に評価されるのではないかと思う。是非、成功させて欲しいものである。

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