増田:まず、日本人のマインドに、移民や難民の受け入れがなじまないという実態があります。
地続きで隣国と接していて、たくさんの植民地をアジアやアフリカに有していたヨーロッパ各国や、そもそもが移民国家であるアメリカでは、絶えず移民がやってくるのは当たり前でした。一方、島国国家の日本の場合、文化や宗教の異なる外国人がどんどん押し寄せる、という経験をしていません。だから、「移民政策が必要かもしれない」と頭では理解していても、全く異なる文化や宗教を持っている人たちとお隣さんになる、ということに肌身では納得できない側面があるでしょう。結果、人手不足にもかかわらず、インドネシアやフィリピンなどからやってきた人たちに介護されるのに抵抗感を覚える、という人たちが少なくなかったりする。
こうした日本人の意識を前提に、海外からの移民を受け入れるのなら、どういう形でなら受け入れやすいのかを考えていかないとならないと思います。日本の人口が減少し、高齢化が進むのは、逃れられない事実ですからね。
日本も移民局をつくるべき
池上:今、コンビニエンスストアに行くと、店員の多くが外国人です。物流センターなどで働く人も外国人が多いと聞きます。介護や福祉の専門学校や大学では、多数の留学生を受け入れており、彼ら彼女らがそのままこうしたアルバイトについているケースも見受けられます。また、農村や漁村には、技能研修生という名の、事実上の移民が入っています。
前回、日本では公式には移民政策をとっていないと言いましたが、一方で、留学生や短期の労働者として日本で働いている外国人は数多くいるのです。でないと、日本の「現場」は人手不足で立ち行かなくなってしまう。つまり、建前と現実に大きな乖離が生まれているのです。ここで、日本のずるい建前と本音の使い分けが透けて見える。人手不足だから外国人に頼るしかない。でも、本当は入れたくない。だから、建前としては認めていないけど、移民という名目じゃないかたちで、入ってきてもらおう、と。
個人的な意見を言えば、私は日本も移民局をつくるべきだと思います。今は、入国管理局が難民の審査をしていますが、彼らの仕事は「不正に入ってこようとする人を入れない」というのが基本スタンスです。つまり、入れることが前提ではなく、入れないことが前提となっている。当然、入国審査は厳しくなる。日本の現実と未来を見据えたら、海外からの移民を受け入れることを前提とした役所をつくるべきでしょう。
増田:ヨーロッパの中でも日本と同じ島国国家イギリスの例をとってみましょう。
イギリスの国民が、なぜEUを離脱するBrexitの道を選んだのか。理由のひとつは、「移民に職を奪われた」という声が大きかったからです。90年代にEUができて、域内の移動が自由になると、かつての東欧各国から職を求めてヨーロッパの先進国に移民がやってきました。イギリスにもポーランドをはじめたくさんの東欧移民がやってきました。
増田:彼らは、農業や倉庫の仕事など、イギリス人が好まなくなった肉体労働につき、成果をあげました。さきほど池上さんが指摘された日本で外国人雇用が増えているのと同じ分野ですね。その結果、「移民が我々の仕事を奪った」という声が大きくなったのです。
池上:アメリカでトランプ大統領が政権をかちとった背景にも、同じような構造がありますね。アメリカでは、メキシコからの不法移民がアメリカ人の仕事をたくさん奪った、だからメキシコからの不法移民を防ぐために「壁」をつくろう、とトランプは公約にかかげ、大統領になりました。
でも、逆に考えれば、メキシコからの不法移民に頼らなければ、なり手がいなかった仕事がアメリカにも多数あった、ということです。いまの日本と同じですね。
増田:そう、日本の現状は、イギリスやアメリカが辿ってきた道とさほど変わりません。
日本で移民を受け入れたくないと考える人の中には、テロを恐れる人もいます。
増田:たしかに、アルカイーダやイスラム国=ISの台頭により、アメリカやヨーロッパではテロが頻発しています。とりわけヨーロッパでは、イギリスでもフランスでもここ数年テロの話を聞かないときがない。移民を認めると、テロリストがたやすく国内に入ってきてしまうのではないか、と恐れるのも無理はありません。
ただ、多くの日本人が誤解している事実があります。ここのところフランスで起きているテロは、いまフランス国内に移ってきた移民や難民や旅行者が起こしたものではありません。かつての移民の二世、三世、つまりすでに「フランス人」となった人たちによる、ホームグロウン・テロであるケースが非常に多いのです。
なぜ、自国民にテロを行うのか
池上:現実には、フランス国民がフランス国に対してテロを行っていると。
増田:そうなんです。ちゃんとフランス国籍を持っていて、生まれも育ちもフランスで、フランス人として生きてきた人たちが、フランス人がフランスに対して起こしているテロなんです。難民や移民が起こしているテロではない。ではなぜ彼らがテロを起こすのかというと、もちろんそこには理由があります。
フランスの北部にダンケルクという港町があります。ここは典型的なブルーカラーの街であり、イギリスに渡りたくても渡れずに森の中で野宿をしている難民たちの問題を抱えています。ですから住民の多くは、大統領選の際に移民や難民の排斥を打ち出した国民戦線のマリーヌ・ルペンを支持しました。一方で、このダンケルクは、移民によって支えられてきた街でもあります。もともと鉄鋼業が栄えており、その現場を担ったのが、北アフリカなどからやってきた移民だったのです。
池上:かつての植民地などからやってきた移民の第一世代ですね。
増田:そうです。移民の第一世代は、過酷な現場で必死に働き、フランスで生きることを目標にしていました。その結果、彼らはフランス国民となり、子供たちは最初からフランス人として生まれ育ったわけです。
増田:けれども、子供たちが大人になる頃には、あるいはさらに孫の世代が大人になる頃には、環境が一変しました。工場が自動化されたり、海外移転したりして、仕事そのものが激減してしまったのです。
ここでネックとなるのが教育です。もし子供たちが十分な教育を受けていないと、仕事を探すことができません。移民である親の出身地(母国)では、子どもが学校に行って教育を受けることに対して、フランス(先進国)のような高い意識がなかったりします。つまり、自分は忙しくて仕事だけで精一杯、子どもの教育にあまり熱心でない親も少なくない。
そうした価値観の家庭で育った子どもは、勉強熱心でなく、学校を休みがちでドロップアウトしてしまったり、高校卒業資格であるバカロレアも取れなかったり、というケースもあります。フランスは資格社会ですから、手に職がなければ安定した仕事につくのが難しい。
移民の二世三世の中には、こうした未来が見えない若者が少なくない。ホームグロウン・テロの根っこには、移民の子供たちの教育問題が潜んでいるのです。
池上:いつの時代でも、どこの地域でも起こりうることですよね。テロリストにならなくても、定職につけなかった移民の子供たちの一部がギャングになったりするケースは、世界各国で起きています。もし、日本で移民を正式に認めるとするならば、同時にその子供たちの教育環境をちゃんと用意する必要があります。社会不安やテロなどは、最初にやってきた親の世代ではなく、むしろその国で生まれ育った子供や孫の世代が自分の未来に絶望して起こしているケースが、少なくないわけですから。
増田:若くて力が有り余っているのに勉強はできないし、仕事もない。そうなった若者たちはたいがいたむろし始めます。そこで、自分たちの不満や不安を解消してくれるような何かに引き込まれるようになったら。
若いときは誰もが不安を抱いていますし、一方で何かに単純に感化されやすかったり、信じ込んだりします。読者の皆さんも10代20代前半の頃を振り返ったら、思い当たる節があるはずです。ましてや今やインターネットがあるので、魅力的な誘いが簡単に手に入る。
67歳の「中核派」に見る埋没の怖さ
池上:しかもいったん感化された人は、その世界に閉じこもるとそのまま年を重ねていってしまう。1971年、警官が殉職した過激派による「渋谷暴動事件」の犯人として指名手配されていた「中核派」の大坂正明容疑者が、つい先日逮捕されました。年齢は67歳ですから私と同世代。暴力的な共産主義革命を打ち出していた「中核派」に当時共鳴して、そのまま歳を経たということになります。
これは日本の例ですが、アフガニスタンとパキスタン周辺で生まれたイスラム主義の武装勢力「タリバン」も、若い人たちが教育されて生まれたものです。アフガニスタンの内戦からパキスタンへ逃れた難民の子供たちが、難民キャンプで過激な思想を知り、学び、母国へイスラムの兵士として送りこまれたところから始まっています。
増田:もちろん、難民が犯罪を犯すケースもあります。2016年7月、ドイツのバイエルン州の列車の中で、アフガニスタン出身の少年がナイフや斧を振り回し、数十人の乗客に無差別に攻撃を加え、死亡者が出る事件が起きました。このとき、少年がアフガニスタン出身だったこともあり、ただの無差別殺人ではなく「イスラム教徒によるテロ」と報じられました。
増田:あってはいけない犯罪ですし、少年はこのあと警察により射殺されました。問題は、この事件がテロだったかどうか、ということです。イスラム系のひとが犯した犯罪を内容を精査せずになんでも「難民によるテロだ」「イスラム過激派の仕業だ」とステレオタイプにくくってしまうのは、社会不安を煽るだけで本質的な解決にはむすびつきません。
池上:だからこそ「教育」が重要となるわけです。社会の安定と経済成長にとって、いちばん確実に効く長期投資が、高水準の教育の普及であることは論をまちません。
増田:その通りです。私自身長年高校教師をしてきたので教育の重要性は痛感します。ただ一方で、エリート教育を受けていても、若者は感化されると過激な行動を起こすことが多々あります。イスラム過激派の中には、貧しい家庭の出身者だけではなく、裕福なエリートの子弟もいますし。
池上:日本でいえば、オウム真理教事件の主犯格の若者たちがいずれも高学歴でした。
増田:ですから、ただ高等教育を受ければいいというものでもない。フランスでも、問題の多い学校には生活指導を行う専門の先生を配置するなどして、子供たちと教師とが親密に相談できる環境をつくろうとしています。インターネットの世界だけに埋没されてしまうと手の施しようがなくなってしまうおそれがあるので、こうした先生が子供たちとアナログなコミュニケーションを深める機会を増やすわけですね。いわゆる「フェイクニュース」と呼ばれるような、俗情を煽るような虚偽の報道やデマゴーグに惑わされないだけの良識を持った大人に育てよう、という試みです。
欧州はこれからどうなるか
池上:若手が相対的に少なくなって、移民などを積極的に受け入れないと国が立ち行かなくなるかもしれない、というのは日本に限らず、東アジアに共通する問題です。だからこそ、ヨーロッパやアメリカの現状から学ぶ必要がある、と私は思っています。中国や韓国の少子高齢化のスピードは日本を上回る勢いです。中国にはすでに65歳以上の人口が1億5000万人いますから。
増田:日本の人口と同じくらいいるということですね。
池上:また、2014年の数字で比較すると、韓国の出生率は女性1人あたり1.20人と日本の1.42人より低いんです。しかも、中国や韓国には日本のような社会保障制度が充実していない。このため歳をとってからどうやって生きていくのか、という問題が、あらゆる人につきつけられます。
大変ですね。日本や中国や韓国は、そして世界はどうなっていくのでしょうか。
池上:あまりに漠然とした問いでどう答えていいのかわかりません。いい質問じゃないですねえ(笑)。
そ、そうですね。では、話をヨーロッパに戻して、今後ヨーロッパはどうなっていくでしょうか?
池上:そう思います。
増田:フランスのマクロン大統領は自分の考えをかなりはっきり口にします。どこに対してもいい顔をするのではなく、ロシアに対してはノーとか、ドイツとは協調するとか、かなり姿勢をクリアにしています。日本の政治家にもそれがあっていいと思います。
池上:マクロンはトランプとの握手でも態度を明確に示しましたからね。トランプはいつも相手の手を強く握りしめるんだけれど、マクロンはそれを上回るような力で握り返しました。手が真っ白になってしびれたトランプはかなり不快な表情をしていましたが、フランスの国民はそれを見て、トランプに負けないという姿勢を示したとしてマクロンを評価しました。
マクロンの希望、メルケルの苦悩
池上:さらに、マクロンが支持を得て力を持ったことで、EUはドイツとフランスで支えていくという姿勢が明確になりました。これまでは明らかにドイツ一国がEUを支えていきましたが、それが変わろうとしています。すると、ほかの小さな国も安心してEUに留まり続けられるという構造になるでしょう。
今、一番頭を悩ませているのはメルケルでしょうね。強くなってしまったマクロン、フランスとどう付き合っていけばいいか、相当、考えているはずです。
ただ、5月28日にメルケルはミュンヘンで、これからヨーロッパは他国に頼ることなく進む道を決めていかなくてはならないといった趣旨の演説をしましたが、それは、アメリカは、少なくとも今後3年半はダメだと見切ったということです。それは、トランプがパリ協定について改めて協議したいと言ってきたときにきっぱりと拒絶したところからもわかります。
増田:日本に話を戻すと、マクロンのように立ち位置を具体的に示し、世界とちゃんと対話し、対峙し、協力できる毅然としたリーダーが必要になってくるでしょうね。そのためにはやはり教育をとなると、道は遠いですが(笑) 日経ビジネスより
池上氏が言うように、移民局は今後必要になってくるでしょうね。将来的には局より省に格上げしてもいいのではないでしょうか。そこで、移民のされた人達の、日本での生活や教育や労働問題などを処理する。日常的に移民の方々をサポートする。非労働的な状態で働いている人達を救うことも必要になると思う。経済的に裕福にならなければ、日本の社会に対して攻撃的になる。教育も大切な事は言うまでもない、移民の人達が差別されたりするのをなくさなければならないので、日本人の教育も必要になるのではないでしょうか。
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