2017年6月22日木曜日

なぜ高性能レーダーを積んだイージス艦が、貨物船と衝突したのか

6月17日未明、静岡県伊豆半島沖で起きたコンテナ船と米海軍イージス艦フィッツジェラルドの衝突事故は、フィッツジェラルドの乗組員7人が亡くなるという惨事となってしまいました。高度なレーダーシステムを誇るイージス艦が、なぜこのような事故の「当事者」となってしまったのでしょうか。アメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、イージス艦が抱える3つの問題点を指摘するとともに、制海権防衛戦略を見直す必要性についても言及しています。

イージス艦は本当に無敵なのか?

静岡県の石廊崎沖でフィリピン船籍(運航は日本企業)のコンテナ船と、米海軍の駆逐艦USSフィッツジェラルドが衝突した事件は、アメリカでも大きく報道されています。別に民間船舶を責めるでもなく、淡々と犠牲者を追悼する内容なので特に懸念はないのですが、それはともかく、これは単なる事故として処理して良い問題とは思えません。

3つ問題点を指摘したいと思います。

1つはイージスの高度なレーダー迎撃システムの欠陥です。今回のインシデントは純粋な事故と思いますが、少なくとも民間の艦船を偽装して巨大な質量を持った船舶をつかって「夜間に静かな体当たり」をされた場合には、全く無力であることを証明してしまったわけです。

勿論、今後は夜間の哨戒などを真面目にやるでしょうし、その点では今回の事故が「弛緩した軍紀」を引き締める契機になるのかもしれません。ですが、イージス・システムの基本的な設計というのは、敵の攻撃をレーダーで捕捉して無力化するという思想でできているわけです。

ですが、仮に自艦への脅威を脅威と認識できなければ、つまり味方であったり民間であったりすると認識した場合は「無力化=攻撃」は出来ません。攻撃できない中では、「何もできない」わけです。つまり飛来物にしても、海上を、あるいは海中を接近してくる物体にしても、明らかに「敵」と認定できない場合は、手も足も出ないシステムであるわけです。

2点目はステルス性です。戦闘時にはレーダーだけでなく、視認性を削減するという意味も含めてのステルス性は重要かもしれません。ですが、平時に民間船舶と一緒に航行している場合にはステルス性というのは、危険極まるわけです。

灰色の塗装、識別しにくい形状など、戦闘にはメリットとなる特徴があるわけですが、それは同時に平時においては視認性の低い危険な船体であることを意味します。ですから、夜間や濃霧等のコンディションにおいては強い灯火を示すなど特に視認性を高める工夫が必要です。今回の事故では、果たしてどうだったのか、検証が必要と思います。

3点目は、いわゆる「チープ・キル」というリスクです。今回事故で大破したUSSフィッツジェラルドは「アーレイ・バーク級」駆逐艦といって、一隻あたりのコストは800ミリオン、つまりほとんど1,000億円というカネが投じられています。その船体が、一歩運用を間違うと「安いコスト」で無力化出来てしまうというのは恐ろしいことです。

これに加えて、対艦攻撃ミサイルなどを高度化してくる敵に対しては、本当に万全であるのか、改めて見直す必要があると思います。

米海軍は、このアーレイ・バーク級の次世代として、凄いステルス性を持った巨大艦「ズムウォルト級」というのを開発しましたが、余りに高額なコストのために3隻で中止しています。当然の判断と思います。

とにかく、高価なイージスの無残な姿を見ると、制海権防衛のための抑止力というのは、「高価な戦闘機を搭載した空母」を展開し「ステルス性とイージス・システムを持った艦艇で防衛」という発想だけではない、もっと高度な戦略性を考えていかなくてはならない、そのような危機感を抱かされるのです。

例えば、無人機を使った索敵と攻撃、無人のブイなどを張り巡らした索敵など、技術の進歩による戦術の変化もあるでしょう。同時にこうした無人のマシンに関しては、抹殺しても人命が失われないために、闇から闇へ葬られたり、無力化されても被害国が隠蔽したり、情報戦的な要素も変化するように思います。

話が前後しますが、今回のインシデントに絡んだ「平時における視認性の低い船体をどう規制するか?」という問題については、国際的な取り決めの必要性を感じます。同じように、無人機や無人艦艇の軍事利用に関しても野放し状態ですが、航空管制や航路の安全確保という観点からは、いつまでも超法規状態を続けるわけにも行かないと思います。

それはともかく、結局は、高い判断力と、高い技術力を保有した上でのほんとうの意味での「軽武装論」または「高度専守防衛」という思想が勝利するのではということも考え始めていますが、これは宿題にさせてください。  MAG2NEWSより

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