■ビッグバン直後、光は光速を超えていた!?
この世の森羅万象を説明する理論物理学の分野では、アインシュタインが提唱した「相対性理論」は画期的な“万能薬”として今日まで引き継がれている。この相対性理論の“金科玉条”の1つに光の速度は常に一定であるという「光速度不変の原理」がある。驚くべきことにこれまで常識と考えられてきたこの原則の立場が今、大きく揺るがされている。光の速度が変化することなどあり得るのか?
英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のジョアオ・マゲイジョ教授と、カナダ・ウォータールー大学のニアエシュ・アフショディ教授の共同研究チームが先頃、物理学誌「Physical Review D」に発表した研究では、宇宙の生成期において光の速度がきわめて高速であったことが指摘されている。いったいどういうことなのか。今回の研究は宇宙の成り立ちを説明する「ビッグバン理論」と「インフレーション理論」に立脚している。
「ビッグバン」説明図 画像は「Wikimedia Commons」より
アインシュタインは宇宙ははじまりも終りもなく連綿と静かに存在してきたと考えていたようだが、これに真っ向から異を唱えているのが「ビッグバン理論」である。その名の通り、今我々がいるこの宇宙は大昔に大爆発(ビッグバン)によって発生し、その後急激に膨張・拡大したというのが「インフレーション理論」だ。
まるで強力なコンプレッサーで空気を注入して風船を膨らますように、ビッグバン直後の急激な拡大のスピードは光の速度(秒速30万km)を超えていたと考えられている。ということはこの宇宙の膨張期(インフレーション期)には、光は膨張の速度に同調して進んでいたはずであり、現在の光速を超えていたことが推察できるのだ。したがって、宇宙の生成期などの条件下では光の速度は変ってくることを、今回の研究は主張している。
■物理学の“パラダイム・チェンジ”か
宇宙のはじまりにビッグバンがあり、そして急激な膨張(インフレーション)が起こったことのエビデンスになっているのが、宇宙マイクロ波背景放射(cosmic microwave background)の電波や温度の“ゆらぎ”や“むら”である。
CMBと略される宇宙マイクロ波背景放射は、宇宙空間のどこでもほぼ均一な値で観測されるマイクロ波なのだが、ごくわずかに“ゆらぎ”や“むら”があることが、各種の観測によってわかってきているのだ。
観測されたCMBの指数が“1”であれば、この宇宙空間自体はまったく均一で何事も起らない静寂の世界であることになり、ビッグバンなど起こっているはずもないということになる。しかし、NASA(米国航空宇宙局)やESA(欧州宇宙機関)の探査衛星などが宇宙空間で観測したCMBの指数の値は1よりも少なく、最新のデータでは0.9655である。つまり、宇宙は完全なる静寂の世界ではなく、かつてダイナミックに拡大する動きを見せていたことになり、ビッグバン理論を強力にサポートするものになるのだ。
ESAの観測人工衛星・プランク (Planck) 画像は「Wikipedia」より
実はこの研究は1990年代後半から先のジョアオ・マゲイジョ教授らによって発表されているのだが、研究チームは今回、理論上CMBの“ゆらぎ”の指数は0.96478であると算出して公表に踏み切った。今後CMBの観測の精度が向上し、0.96478に一致したその時、ビッグバン理論とインフレーション理論、そして光速の変動性が証明されることになるというのだ。
「もし近い将来、この数字(0.96478)が正しいことが判明した暁には、アインシュタインの理論が修正されることになるでしょう。光速が一定ではないという私たちの主張は、かつてきわめて急進的なものと見なされていましたが、今や数値で検証できる段階にまできたのです」と研究チームは言及している。
光の速度が一定ではないとすれば、アインシュタインの相対性理論は根底から再考が求められることになりそうだ。現代物理学を超える「量子論」の存在感がますます増している昨今だが、ひょっとすると物理学の“パラダイム・チェンジ”が起きる日は、すぐそこまできているのかもしれない。
トカナより
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