2017年6月23日金曜日

申請すれば「もらえるお金」「戻ってくるお金」

税金が「戻ってくる」制度
「税金」と言えば、「払うもの」。そう思うのが、ごく自然な反応だろう。
だが、世の中には税金が「戻ってくる」場面も実は、多々ある。
「とくに、いま、制度が目まぐるしく変わっているもののひとつが、『空き家』の取り扱いです」

ファイナンシャル・プランナーの横川由理氏はこう指摘する。

少子高齢化の進む現在、国内の空き家率は13.5%とされ、10軒に1軒以上が空き家になっている。

しかも、年間約6・4万戸が新たに空き家となっており、20年後には日本の空き家率は40%に達するという試算もある。

「古く耐震性の低い空き家は防災上も問題ですし、治安の観点からも不安視され、社会問題となっていますが、増加の一途をたどってきた一因は固定資産税の仕組みでした。
空き家であっても建物が建っていれば、土地を更地で所有しているよりも、固定資産税が6分の1に減免され、大幅に安くなるのです。

それが今年から制度が変更され、管理が悪く倒壊の恐れがあるなどと自治体が認定すると、この減免が受けられなくなりました」(横川氏)

使っていない家屋に改修費はかけられないからと放置すると、自治体に「特定空家等」と認定され、固定資産税が一気に6倍になる可能性もある。

ここまでは、報道で知って、慌てたという人も多いだろう。だが、8月27日、国土交通省が、空き家に関する新しい「控除制度」を打ち出したことは、まだあまり知られていない。

2016年度の税制改正要望で同省は、「相続後、一定期間以内に相続した住宅('81年以前に建築)の耐震改修・除却(=解体)を行った場合、標準的な費用の10%(最大250万円×10%=25万円)を所得税から控除する」という税制措置を盛り込んだ。

要するに、空き家になりそうな住宅を改修、または処分したことを申告すると、費用の一部が、所得税から控除される、つまり「お金が戻ってくる」仕組みなのだ。成立すれば、早ければ来年度中には、実際に控除が始まる見込みだ。

ことほど左様に、払ってきた税金を「取り返す」ためには、私たち国民は、自ら制度を知り、役所などに申請に行かなければならない。

身の回りには、税金を取り戻すチャンスが驚くほど眠っている。病気をした、孫が生まれた、自宅を改修した、親族に不幸があった……。多様な場面で、私たちは行政に税金を納め、業者に代金を払い、病院に医療費を払っている。

だが、「どうせ払わなければいけない」こうしたお金でも、制度をうまく利用し、自ら申告を行えば、割り引きを受けられたり、一部のお金が戻ってきたりする。

長年、税金を払い続けてきた国や自治体から、少しでも、お金を取り返したいなら、遠慮をせずどんどん相談し、申請をしていくしかない(最終ページに、「申請すれば戻ってくるお金」の主なものの一覧をまとめています)。

これらの「お金が戻ってくる」制度について、国や地方自治体は取り立てて喧伝しているわけではない。

知らない間に制度が新設されたり、変更されたりして、あとになって、「え、じゃあ、あのとき役所に申請していれば、○○万円も還ってきたの?」などと後悔させられた人も、少なからずいるはずだ。

ここからは、さまざまな分野での「取り戻せるお金」を探っていこう。
 
金額の大きな「住宅」に関する制度

「住宅」に関する制度は、そもそもリフォーム業者などに支払う金額が大きいだけに、戻ってくる金額も大きくなる。

たとえば、リフォームで省エネやバリアフリーの基準を満たす工事を行うと、それぞれ標準的な工事費用の10%が所得税から控除される。

「介護保険からも、介護を目的としたリフォームへの支給があります。手すりの設置、床段差の解消、すべり防止のための床材変更や、和式便器を洋式に交換するなどの項目は、その費用が各20万円までなら、9割(=18万円)が支給されます」(介護保険制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」代表・宮内康二氏)

介護保険によるリフォームへの支給は、前出のリフォームの際の所得控除の制度とも併用できる。

他にも、住宅については多くの自治体で、生ゴミ処理機や、太陽光発電に対応した家庭用蓄電池の設置費用など、主にエコにかかわる設備への助成金制度が設けられているのだ。
庭木を植えたい、生け垣を作りたいといった際に、最大20万円程度の助成金が受けられる自治体もある。

マンションやビルの多い東京・品川区ではベランダに置くプランターも対象となるが、いずれにしろ、自分で市区町村に申請しなければ、助成金は受けられない。
 
相続税まで安くなる

こうした改築や設備の増設の際もさることながら、マイホームという資産を活用することで、数千万円単位のお金を非課税にする方法もあると、前出の横川氏は話す。

「住宅関係では、贈与税の配偶者控除という制度があります。これは大変有利な制度です。『結婚して20年以上の夫婦が、お互いに居住用の不動産を贈与しても、2000万円まで非課税になる』というものですが、贈与税の基礎控除110万円を加えて、その年に2110万円分の贈与が無税でできることになります。

これを活用すると、たとえば自宅を所有している夫が、自分の死後に相続税が発生してしまいそうだという場合に、2110万円分の名義を妻に移すことができます」

さらに、この制度を利用して自宅を夫婦の共同名義にした上で、その居住用不動産を売却すると、夫・妻それぞれ3000万円まで、合計でなんと6000万円の売却益が非課税になるという。

「ポイントは、土地だけでなく家屋も共同名義にして、『居住用不動産』という条件をクリアしておくことです」(横川氏)

また、この制度には特有のメリットもある。通常、たとえば夫が病気で余命いくばくもないと分かってから財産を贈与しても、死亡日から逆算して3年以内の贈与は「持ち戻し」と呼ばれ、相続税逃れと判断され、相続財産だったとして課税されてしまう。

ところが、この配偶者控除は持ち戻しの対象にならない。「駆け込みでもOKということになりますね」(横川氏)。

「医療・介護」では、何と言っても高額療養費制度を忘れてはいけない、と話すのは、経済評論家の荻原博子氏だ。

「医療費が膨らむことに恐怖感を抱いている方は多いのですが、たとえば、一般的な70歳~74歳の方なら、月4万4400円、所得の多い方でも月8万円少々の自己負担ですみ、あとは後々、お金が還ってくるようになっています。

この制度では通常、病院でいったん、高額の治療費を払い、あとでお金が還ってきます。けれども、あらかじめ国保や健保組合で『限度額適用認定証』をもらっておくと、病院でも自己負担限度額までを支払えばいいので多額のお金を用意する必要がなくなります」

同一世帯の中に、高額の医療費がかかった人と高額の介護費がかかった人がいた場合(同じ人でも可)、それらの合算に対して、限度額を超えた分を還付してくれる制度もある。「高額医療・高額介護合算療養費制度」だ。
 
「市区町村の介護保険窓口で相談、申請するものですが、たとえば国保+介護保険を利用している70~74歳の人がいる一般の世帯の場合、年間56万円以上かかった分は、お金が戻ってきます。この限度額は年金額など収入や、年齢によって変わります」(荻原氏)

また、医療費が年間10万円を超えた場合には、自分で確定申告をすると、所得税の控除が受けられる。1年間の医療費の合計のうち、医療保険などで補された分を除く金額から10万円を引く。この10万円を超えた医療費に、自分の所得税率を掛けた金額が、受けられる控除金額となる。

医療費として計上してよい項目は、診察費や入院費だけでなく、通院時の電車代やバス代、薬局で購入した市販薬の代金、松葉杖や入れ歯の購入費なども含まれる。

さらに、元国税庁職員の大村大次郎氏は、こんな意外な項目も医療費控除に含まれると話す。

「ほとんど知られていませんが、ED(勃起障害)はれっきとした病気として扱われ、その治療費は医療費控除の対象になります。同様に禁煙治療にかかった費用も控除の対象です。また、場合によっては栄養ドリンクや按摩、整体なども控除の対象となり、お金が戻ってくることがあります」

一度、自分の医療費を総ざらいして積算し、総額が10万円を超えていないかチェックしてみる価値はある。

埋葬料や子供にかかるお金

もらえる人は意外と多いのに、あまり知られていないものもある。

国保や健康保険組合などの健康保険の被保険者(加入者)が死亡した際に、申請すれば葬儀を行った家族が受け取れる「埋葬料」と、被保険者の家族が亡くなったときに受け取れる「家族埋葬料」。金額は各5万円だ。

さらに、親戚や知人が葬儀を行った際には、「埋葬費」として葬儀代、火葬代などの実費に対し、最大5万円までが支払われる。

子供や孫の誕生、進学などを機にお金を取り戻せる制度もある。

なかでも「子育てファミリー世帯居住支援」は、知っておきたい制度だ。自治体によって詳細は異なるが、子育て世帯が市区町村に転入し、民間の賃貸住宅に入居する際に、引っ越し費用や家賃の一部が補助されるものだ。

たとえば、東京・新宿区の場合なら、義務教育終了前の子供がいる世帯を対象に、引っ越し費用最大20万円までが補助されるほか、以前に住んでいた賃貸住宅の家賃よりも、区内の新居の家賃が高い場合、その差額分(最大2・5万円)が補助される。また礼金、仲介手数料の合計で、36万円までのお金がもらえるのだ。
 
扶養家族を増やす「裏技」

息子や娘がリストラされた際に受けられる控除もある。所得税・住民税の扶養控除だ。成人し、一度は扶養から外した子供でも、低収入・無収入の場合は、再び親の扶養家族とすることで、所得税・住民税あわせれば10万円程度の還付が受けられることもある。

扶養家族の仕組みは、6親等以内の血族、3親等以内の姻族まで対象にできるので、ひとり暮らしで収入の少ない親類縁者がいれば、同様に控除を申請できる。

税務署の職員などが「裏技」として、所得の少ない親類縁者を扶養家族に入れているケースも多いという。

制度を知り、自分で申請することで得する方法は、まだまだある。

たとえば、年金だ。助成金事情などに詳しく、『専業主婦で儲ける!』などの著書がある、社会保険労務士の井戸美枝氏が勧めたいというのが、「確定拠出年金」の活用だ。

確定拠出年金とは、掛け金だけを払って運用は年金基金などに任せていた従来型の年金とは異なり、自分で「この投資商品にいくら」などと、掛け金の運用方法を指示するタイプの年金。

運用の成否は自己責任となるが、井戸氏は55歳からの5年間だけでもよいので、挑戦してみてはと話す。

「ポイントは、確定拠出年金の掛け金が、全額、所得控除の対象になることです。確定拠出年金は従来の年金より運用のリスクがありますが、その分、税制上の優遇も大きい。
とにかく、所得税が控除され、安くなることに意味があります。国民健康保険料にしても、その他の『申請すればもらえるお金』の制度にしても、所得税・住民税の額に応じて金額が決まるものが多いからです。所得税・住民税をなるべく減らしておくことで、さまざまな優遇制度が、より利用しやすくなる可能性があるのです」

役所はあえて喧伝しない、申請するだけで「もらえるお金」、「戻ってくるお金」。

どこまで獲得できるかは、あなたの知識と行動にかかっている。
 


 
 

現代ビジネスより

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