2017年6月22日木曜日

日銀資産500兆円 実は深刻な話

総資産500兆円! 国家の経済規模に匹敵する膨大な資産を抱えるのは、私たちが使う“お札(日銀券)”を発行する日本銀行です。 日銀はこの数年、かつてない勢いでお札を発行し、“国債”などを大量に買い入れ続けています。こうしたことで世の中に巨額のお金を供給しデフレ脱却を果たそうとしているのですが、その結果、日銀の保有資産が急激に膨らんでついに500兆円を超えたのです。一見、日銀がお金持ちになったいい話のように思えますが、実は、深刻な話でもあります。(経済部 新井俊毅記者)

日銀の総資産はGDPに匹敵

6月2日、日銀は保有する資産が5月末時点で初めて500兆円の大台を突破し、500兆8008億円に達したと発表しました。

この額は国の経済規模を示すGDP(国内総生産)に匹敵します。このうち、国が発行する「国債」が427兆2495億円と全体の85%を占めます。国の借金である国債を、巡り巡って日銀が買い入れている実態が見てとれます。

このほか、ETF(上場投資信託)が13兆9603億円、REIT(不動産投資信託)が3940億円となっています。

これは、日銀がデフレ脱却に向けて、お札を大量に刷って国債などの巨額買い入れを続けているためで、資産の膨張は黒田総裁が就任し、いわゆる“異次元の金融緩和”に踏み出して以降、ペースが急加速しています。

その結果、日銀の資産規模は対GDP比で93%まで膨らみ、同じ中央銀行のアメリカ・FRB(連邦準備制度理事会)の23%、ECB(ヨーロッパ中央銀行)の38%と比べても突出しています。
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では、日銀の保有資産はこれからも膨張の一途をたどるのでしょうか?
日銀は、目標としている2%の物価上昇率が実現し、それが安定的に持続するために必要な時点まで、資産の買い入れを通じた市場への資金供給を続けるとしています。

ただ、目安となる消費者物価指数(除く生鮮)の上昇率は直近でも+0.3%にとどまっています。目標の達成まで道半ばだけに、日銀は当面、大規模な金融緩和を続け、保有資産はさらに膨らむことが確実な状況です。

こうした現実に対して、このところ各方面から、大規模な緩和で積み上がった資産をしだいに減らし、金利を引き上げていく「金融政策の正常化=“出口政策”」に向かう場合、どのような影響が出るのか、しっかり説明すべきだという声が高まっているのです。
 
FRBの出口政策が参考に!?
 
出口政策を考えるにあたっては先行するアメリカ・FRBが参考になりそうです。

FRBは金融政策の正常化に向けて、まず、国債などの買い入れをしだいに減らす「テーパリング」を始めました。そして、おととし(平成27年)12月に、リーマンショック以降続けてきた異例の“ゼロ金利政策”を解除して、9年半ぶりとなる利上げに踏み切りました。その後、FRBは去年12月、ことし3月、そして今回6月14日と、追加の利上げを決めました。

FRBはその間、利上げのショックを和らげるため、償還時期が来た国債などを再び買い入れて、資産規模を維持する政策をとってきましたが、今回、経済情勢を見ながら年内に資産規模の縮小に乗り出すことを明らかにしました。
                                       
禁じ手とも言われたマイナス金利政策に足を踏み入れ、資産規模が拡大し続けている日銀とは彼我の差があります。
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こうしたFRBの出口政策を日銀に当てはめて考えると、それがいかに難しいことなのか見えてきます。

まず、「テーパリング」と呼ばれる資産の買い入れの縮小ですが、日本では政府が新たに発行する国債のほとんどを日銀が金融機関経由で購入しています。その結果、先述したように日銀の保有国債は、黒田総裁就任後の4年余りで3.4倍、額にして300兆円余り増えて427兆円を超え、国債発行残高に占める割合はすでに4割に達しています。

日銀が国債市場を支えていると言っても過言ではなく、その効果で指標となる長期金利(償還までの期間が10年の国債の利回り)は0.1%を切る、極めて低い水準に抑えられています。

逆に言えば今後、日銀が購入する国債の量を減らしていった場合、国債の価格が下落し、金利が急上昇する事態が懸念されます。

(注:国債は、価格が下落すると金利<利回り>が上昇します)
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ETFやREITの存在


また、日銀特有の困難な事情もあります。
                                       

金融緩和の一環として買い入れてきたETFやREITの存在です。すでに14兆円程度まで残高が膨れ上がったETFを売却し始めれば、株式市場への影響は避けられません。

日銀は、不良債権問題で大手銀行の経営が揺らいだ2000年代初頭、再建を後押しするため、各行から株式を買い取ったことがありました。その株式を売却するにあたって日銀は、市場への影響を抑えようと、ETFを新たに3000億円買い入れる措置を導入したほどです。

さらに、資産規模の縮小を進めながら「利上げ」に踏み切れば、金利の上昇が進んで、個人や企業の金利負担が増し、景気に冷水を浴びせかねません。

もちろん日銀は、2%の物価目標を実現したとしてもしゃにむに、出口政策を進めるのではなく、日本経済の回復具合をにらみながら慎重に「資産買い入れの縮小」や「利上げ」を進めていくことになります。ただ、それは金融を引き締めながらも景気を失速させないという極めて難しい綱さばきを求められます。

日銀自身の財務に悪影響も?
 
もう1つ懸念されているのが、「利上げ」による日銀自身の財務に及ぼす悪影響です。

日銀は「利上げ」を行う際、金融機関から預かっている「当座預金」の金利を引き上げていくと見られます。この金利を引き上げると、日銀が金融機関に支払う利息は増えます。一方で、日銀が保有する国債の平均利回りはしだいに低下し、昨年度末の時点で0.3%程度まで下がってきています。

このため金融政策の専門家の間では、日銀が利上げ局面に入った場合、「保有国債から得る利息」より「金融機関への利払い」が多くなる「逆ざや」が生じ、赤字どころか、場合によっては債務超過に陥るおそれもあるという指摘すら出ています。

こうした出口政策への課題について黒田総裁は16日、金融政策決定会合後の記者会見で「出口政策はそのときの経済や物価、金利の状況に加えて、どういう手段、どういう順序でやるかによって変わってくる。2%の物価目標の達成に向けては道半ばで、現時点で具体的なシミュレーションを示すことはかえって混乱を招くおそれがあるために難しい」と述べるにとどまりました。
 
 
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去年3月まで日銀の審議委員を務めた、慶応大学の白井さゆり教授は「出口政策の議論では、日銀の財務への影響が主に議論されているが、FRBの手順を見れば、資産の買い入れの縮小をどう成し遂げていくかが最初の難関だ。国債の買い入れの縮小も難しいが、ETFはそれと同じか、それ以上に難しい。日銀の買い入れは株式市場の下振れリスクを明らかに減らしており、もし、ETFの買い入れを減らしたり、売却したりした場合、市場がどう捉えるかは非常に不透明だ」と危惧しています。

幅広い論点で丁寧な議論を
 
今回、私が出口政策を取材する中で日銀関係者から「あなたはそもそも出口が来ると本当に思っているのか?」という言葉を投げかけられました。

現状では日銀が目標としている2%の物価目標は遠く、金融緩和の出口にいつたどりつけるのか見通せません。ただ、日銀の資産膨張に歯止めがかからないなか、金融政策を正常化させようとする際、ソフトランディングできるのかという不安は広がってきていると感じます。

日銀はそうした懸念を真摯(しんし)に受け止め、未曾有の金融緩和からの出口に向け、どのようなシナリオを描いていくのか。失敗は許されないだけに、入念な準備と適時適切な説明が欠かせません。NHKニュースより
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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