致死率は3~4割
国立感染症研究所によると、平成18年に現在の届け出基準になって以降、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者の報告は増加傾向だ。23年以降、年間200人前後で推移していたが、昨年は431人となり、今年は450人を上回った。
増加の原因ははっきりと分からないが、聖路加国際病院の古川恵一内科部長(感染症科)は「高齢化で抵抗力の弱い人、糖尿病などの持病を持つ人が増えていることや地球の温暖化が関係しているのかもしれない」と分析する。
古川医師によると、溶血性レンサ球菌(溶連菌)の感染は年間を通じて起きているが、特に3~9月が多いという。近年増えているのは、温暖化により細菌が繁殖しやすい環境になっているためともいわれている。また、保菌者の増加や劇症になりやすいタイプの菌が増えている可能性もあるという。
溶連菌に感染するとどうなるのか。実は、溶連菌はありふれた菌で、子供の2割くらいは、喉にこの菌を保有しているとされる。体の抵抗力が弱まると扁桃腺炎(へんとうせんえん)になったり、皮膚の小さい傷から感染すると皮膚の深部が炎症を起こす蜂窩織炎(ほうかしきえん)になったりする。
中でも、突然発症し、急速に症状が進んで数時間以内にショック状態で死亡する恐れがあるのが劇症型溶血性レンサ球菌感染症だ。短時間に細菌が増殖して筋肉や筋膜を壊死させたり、血流に乗って毒素が全身に回り臓器不全を引き起こしたりする。致死率は3~4割とされる。
壊死した部分を切除
症例報告や医師への取材から、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者がたどった経過を再現してみよう。
まずはアトピー性皮膚炎を患っているが、それ以外は健康な29歳の男性。38・2度の熱で医療機関を受診、インフルエンザの検査は陰性で、抗生物質をもらって帰宅した。ところが、翌日から太腿の付け根が赤くなり痛みが出てきた。熱も40度に上がったため、3日後に再び受診。入院して治療を受けることになった。
入院したときは意識もはっきりしていたが、1時間後にショック症状を起こし収縮期血圧(上の血圧)は60mmHgにまで低下。心電図にも異常が出て、心臓の筋肉(心筋)に炎症が起きる急性心筋炎も併発していると診断された。原因が溶連菌と判明したのは入院3日目。足の付け根の赤みはどんどん広がり、壊死した部分を切除。徐々に回復したが、入院生活は34日間に及んだ。
次は息切れを訴えて救急外来を受診した66歳の女性。受診時は発熱のほか、腹部が2~3センチほど赤くなっていた。ところが、この赤みが2、3時間後には腹部全体に広がり、赤黒くなった。血圧も一気に低下してショック症状になったため、集中治療室で抗菌薬の投与を始めるとともに、外科医が腹部の壊死した組織を切除した。入院生活はやはり30日以上に及んだ。
これらの症例に共通するのが、数時間で一気に症状が悪化する点だ。古川医師は「原因菌が明らかになるのを待っている暇はない。すぐに全身管理を行い、強い抗菌薬の投与を始めることが重要だ」と強調する。さらに、「救急科、感染症科、外科、皮膚科など複数の科が協力して診療に当たることが必要となる」と話す。
手洗いなどしっかりと
では、こうした恐ろしい感染症にならないためにどうすればよいのだろう。厚労省は「基本的には手洗いなどの感染予防対策をしっかり行うこと」を挙げる。劇症型でなくても、溶連菌に感染したら抗菌薬を決められた期間飲み、感染を広げないことも重要だ。
患者側からすれば、喉の痛みや発熱などの症状だけで病院に行くべきか悩むが、古川医師は「立っていられない、めまいがするなどの症状、手足が赤くはれるなどの症状、だるさなど強い全身症状があったら病院に行くべきだ」とアドバイスする。進行が早く一刻を争うため、複数の科が整った大きな病院の方が対応しやすい。
「早期に適切な治療を受ければ死亡の恐れは低くなる」と古川医師。「人食いバクテリア」という呼び名は恐ろしいが、早期に治療を受ければ恐れ過ぎることはない。 産経ニュースより
0 件のコメント:
コメントを投稿