オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は12日、南シナ海における中国の権利主張について、仲裁を申し立てたフィリピン側の主張をほぼ全面的に認め、中国が主張する「九段線」には国際法上の根拠がないとの判断を下した。また同裁は、スプラトリー(南沙)諸島を構成する地物について、その全てが国連海洋法条約(UNCLOS)上の「岩」もしくは「低潮高地」であり、「島」は存在しないとの判断も下した。その中には、同諸島中最大の天然地物で、台湾が実効支配する太平島も含まれていた。台湾はこれに激しく反発している。この問題は将来的に、日本の沖ノ鳥島にも影響を及ぼす可能性がある。
◆中国が戦略的に、尖閣諸島で問題を起こす可能性
今回下された仲裁判断は、中国にとって一方的な「敗訴」と言える内容だった。中国がこれに反発して、今後ますます海洋問題で一方的に権利を主張する行動に出る懸念がある。わが国にとっては、まず東シナ海、尖閣諸島をめぐる動きが心配される。
中谷元防衛相は12日、仲裁判断の発表に先立って、「判決後の(東シナ海の)情勢や動向もしっかりと注視したい」と語っていた(ロイター)。中国は南シナ海の域外国の日本や米国がこの問題に関与することに反発しており、不利な判決が下されれば、日本をけん制するために東シナ海で軍の活動を一段と強める可能性がある、とロイターは警告した。
ロイターによると、米当局者らは、中国にとって不利な仲裁判断が下された場合、中国が東シナ海に続いて南シナ海上空にも防空識別圏(ADIZ)を設定したり、さらなる人工島建設とその軍事拠点化に乗り出す恐れがあるとしていた。けれども日本政府はそれ以上に、中国が近接する東シナ海で行動に出ることを恐れている、とロイターは指摘した。
◆仲裁判断が将来的には沖ノ鳥島にも影響?
さらに、当面の問題ではないが、今回の仲裁判断によって、将来的には沖ノ鳥島に影響が及んでくる可能性がある。スプラトリー諸島の太平島が「島」として認められなかったことがその一因だ。
UNCLOS第121条第3項は「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」と定めている。そこで、これを敷衍(ふえん)して、それらを維持できるかどうかが島と岩の分かれ目だという見方が、一つの捉え方としてある(日本政府はこの立場を取っていない)。
ウェブ誌ディプロマットによると、同島を実効支配する台湾は、太平島には真水の井戸があり、農作物を育てることができ、人間の居住の維持が可能で、よってUNCLOS上の島であると精力的に主張していた。島であれば、同島の周囲最大200カイリに排他的経済水域(EEZ)の設定が認められる。ブルームバーグの3月時点の報道によると、同島には約200人が住んでいた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によると、大半は台湾の海岸巡防署(沿岸警備隊)の職員だった。ロイターは太平島について、スプラトリー諸島の地物の中で最も島としての地位とEEZの資格があると、一部の専門家が考えていたものだと伝えている。
にもかかわらず、仲裁裁は、外部からの援助なくしては人間の居住が維持できないため、太平島もスプラトリー諸島の他の地物同様、やはり島ではないとの判断を下した(ディプロマット誌)。ディプロマット誌の他の記事は、この判断について、今回の仲裁のビッグバン級の結果の1つであると評した。そして、この判断は台湾人の深い失望を招くものであるばかりでなく、より広範囲の、熟慮に値する付随的結果も伴うと指摘した。
もし太平島が、人間の居住を維持しないという理由で島と認められないのならば、そのことは他のEEZを生じさせている領地についての疑問を喚起する、というのがその内容である。そういった領地の例として、記事はアメリカのウェーク島、ミッドウェー島、そして日本の沖ノ鳥島を挙げている。さらに、今回の仲裁判断の拘束力が及ぶのは中国とフィリピンだけだが、今後、「島」だと寛大に理解されている地物について、同様の仲裁手続きが他にも行われる可能性があり、今回の判断がその重要な先例となるだろうと指摘している。
◆日本政府も念のため警戒、検討を開始
日本政府内で、太平島などに関する判断が沖ノ鳥島に飛び火する危険性があることはすでに認識されているようだ。読売新聞は、スプラトリー諸島の地物がどれも島ではないと判定されたことに関し、日本政府が、沖ノ鳥島などの扱いにも将来的に影響を及ぼす可能性があるとみて判決文を詳細に検討していると報じた。
同紙によると、日本政府は「今後他国から仲裁裁判に訴えられる可能性もあり、深刻だ」(政府関係者)とみている。中国は沖ノ鳥島を「岩」だと主張し、韓国も同調している、と同紙は伝える。
時事ドットコムニュースも、日本政府は、EEZを設定する沖ノ鳥島も島ではなく「岩」だと中国や韓国が異論を唱えている問題に影響しかねないとみて警戒している、と報じた。日本政府内には、台湾が実効支配する太平島など一部を島と認めるとの予測もあっただけに、外務省幹部は「かなり踏み込んだ判決だ」と驚きの表情を見せた、と同サイトは伝えた。
日本側が懸念するのは、今回の判決を受けて、沖ノ鳥島の地位をめぐり中韓などが仲裁裁判に訴える事態だ、と同サイトは語っている。そして、ディプロマット誌同様、今回の仲裁判断について、政府は将来の司法判断に影響を与える可能性は否定できないとみて、判決を精査するとともに各国の動向を注視している、と伝えている。
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
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