● 米高速鉄道 米企業が中国との合弁解消 「計画の遅れ」理由に
このところ、中国の高速鉄道の輸出計画が次々と挫折しています。6月8日には、ラスベガスとロサンゼルスを結ぶ高速鉄道の計画で、アメリカのエクスプレスウエスト社が中国鉄道総公司との合弁解消を発表しました。
この合弁は、昨年9月の習近平主席の訪米前に発表されたものです。今年の9月にも着工する見通しでしたが、エクスプレスウエスト社は合弁解消の理由として「中国企業がやるべきことを時間通りできていない」と計画の遅れが原因だったとしています。
中国側は寝耳に水のことだったようで「無責任で契約違反だ」と批判していますが、もともと習近平主席の訪米の成果として強調するためにぶち上げたプロジェクトであった可能性も高く、むしろアメリカ企業のほうが中国企業の実態を見て危機感を持ったのでしょう。
加えて、アメリカには「バイ・アメリカン法」という規制があり、国内の公共事業ではアメリカ国内で生産された鉄鋼やその他の製品を優先的に使うことが義務化されており、これをクリアしないと融資や認可が下りないですし、無視すれば巨額の罰金が課せられる可能性があります。しかし中国にとっては、過剰生産となっている自国の鉄鋼を使ってもらわなくては旨味はありません。
一方で、中国では車両故障率の高さが問題になっています。2015年に発生した列車事故は210件余りで、前年と比べて16%増加。車両の故障による事故は45%も増加し、故障による事故が最も多いのは高速鉄道だったといいます。
● 輸出攻勢かける中国高速鉄道、車両故障率の高さが問題に―米華字メディア
結局、中国側も習近平主席の実績を上げるためにバラ色の計画を提出したのでしょうが、いざ実行の段になると前に進まなくなるという、中国の典型的なパターンです。中国は外国との契約において、たいてい経済よりも政治的な思考をすることが大原則で、採算はもちろん、完成の期日も明記しません。兆元単位のカネについても、大風呂敷を広げたどんぶり勘定だから、揉め事が多いのです。
インドネシアの高速鉄道も、政治案件としてほとんどタダ同然で工事を受注するという破格の条件で中国が獲得しましたが、やはり遅々として進んでいません。以前のメルマガでも紹介したように、中国側がインドネシアに提示した計画書は、日本が提示したものとまったく同じで金額だけが異なっているということで、日本側の案をパクった疑惑が囁かれています。
● 日本を蹴り中国を選んだツケ。着工すらできぬインドネシア高速鉄道
「易姓革命」の国である中国は「国盗り」まで正当化する匪賊国家であり、こうしたパクリに対してはまったく罪悪感がありません。
中国メディアの今日頭条は先日、中国高速鉄道史を振り返る記事を掲載し、「中国は外国の技術をだまし取りゆっくり消化、その結果CRH380系と呼ばれる高鉄が存在するようになった」とし、その結果、「この『魔の手』により中国は高速鉄道輸出戦略において50年の歴史を持つ日本を打ち破る力を身に着けるようになった」と、まったく悪びれる様子もなく記事は説明しているそうです。
● 中国高速鉄道の発展史…「外国の技術をだまし取りゆっくり消化」=中国
とはいえ、日本側の計画書は日本の建設技術を前提としたものですから、たとえ案としてパクったとしても、実現の段になって技術力の違う中国がそのままできるはずもありません。
また、着工が遅れている原因として、インドネシア中国高速鉄道社が運輸省に提出した書類に公用語のインドネシア語や英語以外に中国語表記のものがいくつも含まれており、現地の担当官が読めない、という笑い話のような「書類問題」があるとも報じられています。
しかも、いまになって「中国側がインドネシア政府の債務保証を求めている」という話まで持ち上がっていて、インドネシア国民は衝撃を受けているようです。政府の債務保証がないことが、中国案に決めた理由だったわけですから。
● 「日本案のほうがよかった」との声も…インドネシア高速鉄道計画、問題噴出で大混乱
このアメリカでの中国高速鉄道の計画中止のニュースに対して、インドネシアの鉄道関係者からは、「早期に中止を決定できて羨ましい。中国は机上の空論的な調子の良い話が多い」という嘆き節が漏れているようです。
● アメリカでの中国高速鉄道中止―決断でき羨ましい・インドネシア鉄道関係者
加えて、インドネシアでは早くも「日本案のほうがよかった」という声が上がり、実際、インドネシア政府はインドネシア・ジャワの横断鉄道は日本に建設要請する予定だということが、日経新聞の取材で明らかになっています。
● インドネシア・ジャワ横断鉄道、日本に建設要請へ
東南アジアでは他にも、今年3月末、タイが中国と合意していた高速鉄道建設計画について、中国から借款を受けずに自己資金で、そして一部区間の工事は自国企業が行い、残りの区間については延期すると発表しました。事実上の合意白紙化です。
さらに中南米でも中国の高速鉄道の建設計画が次々と失敗に終わっています。2009年の夏に発表されたベネズエラでの450キロの高速鉄道計画は、現在ではほとんど放棄状態になっていることが明らかになっています。中国の建設スタッフはすでに現地を去り、関連工場は廃墟となって金目のものはすべて持ち去られた状況となっているようです。
● ほぼ放棄!中国受注のベネズエラ高速鉄道計画、インドネシア「日本に任せれば良かった?」
ベネズエラは原油輸出国ですが、原油価格の暴落で経済危機に陥ったことが表向きの理由とされています。しかし中国メディアは「企業に採算を無視させた当時の中国政府の国家戦略にある」と指摘しています。高速鉄道が完成しても電力不足の深刻なベネズエラでは車両を走らせられないし、ベネズエラ政府もこれを維持できないということです。
2015年11月に中国の企業連合が5,000億円で落札した、総距離210キロにおよぶメキシコ初の高速鉄道の建設契約が、落札から数日後にメキシコ政府から取り消されました。1社単独だったことから、中国企業とメキシコのペニャニエト政権との贈賄疑惑が浮上しており、原油安や財政難を抱えていたメキシコ政府は、計画そのものを無期限延期としました。
● 中国受注のメキシコ高速鉄道、計画の「無期限延期」に賠償金=中国
今年オリンピックが開催される中南米最大の経済大国ブラジルでも、当然ながら高速鉄道の建設計画が持ち上がっており、2011年に高速鉄道の入札が行われる予定になっていました。しかし、中国はブラジルの規定で「5年以内に鉄道事故を起こした会社は入札できない」ため、門前払いとなりました。とはいえ、条件が厳しすぎてどの国も入札を見合わせてしまい、現在に至るまで高速鉄道の計画は進んでいませんが。
● ブラジル高速鉄道建設の入札、中国は2年前の鉄道事故のため門前払い―中国メディア
このように、失敗続きの中国高速鉄道ですが、7月1日に中国共産党創建95年の記念式典で演説した習近平主席は、中国の経済発展と国力増強を一党独裁の成果だと述べました。2017年秋には党代表大会が開かれ、ここで習近平主席が軍部や党の権力を完全掌握できるかどうかが大きな焦点となっています。それだけに何が何でも成果を強調しなくてはならないのです。すでに中国の経済成長は下降の一途をたどっています。
先月の英EU離脱は、欧州が輸出国の2位を占める中国にとっても、大きな痛手です。6月初旬に人民銀行は2016年の輸出が前年比1%減少するという予測を立てていましたが、これがさらに悪化する可能性もあります。なりふり構わず成果を出さないと、習近平政権は大きな打撃を受け、来年の党大会にも影響が出かねません。
だから高速鉄道の受注という実績を積み上げるために破格の条件を出しているわけですが、いざ着工となると実現能力が追いついていないという問題が常に起こるわけです。
6月22日には、フィリピンの次期大統領に就任するドゥテルテ氏が、中国からフィリピン国内の鉄道建設に協力したいという申し入れがあったことを明らかにしました。ドゥテルテ氏によると、中国の駐フィリピン大使は、マニラとクラークを結ぶ鉄道について「中国がやれば2年間で建設できる」と、例によって大風呂敷を広げたそうです。
● 中国がフィリピンで鉄道建設?「中国なら2年で完成」=駐フィリピン大使―中国メディア
しかし、これも以前のメルマガで述べましたが、中国はかつてフィリピンでの鉄道建設計画を放棄した過去があります。2004年頃から中国はフィリピン政府に対して、マニラ首都圏の鉄道整備への無償資金協力による支援を提案し、フィリピン政府はこの案を受け入れましたが、工事の中断が相次ぎ、支援計画にも不備や不法な疑いがあるため、アキノ前大統領が凍結したのです。そしてその事業を引き継いだのは日本でした。
● 日本はフィリピンの鉄道整備を支援、中国の事後処理か
そのような過去があるにもかかわらず、再びフィリピンに「鉄道を中国が作ってあげる」などと持ちかけるのですから、その厚顔無恥ぶりには呆れるばかりですが、やはりなりふり構っていられないのでしょう。加えて、前回の計画を凍結したアキノ氏から大統領が変わったことで、話を持ちかけやすくなったという背景もあります。
ドゥテルテ氏は中国大使の話に対して、「マニラとバタンガスを結ぶ鉄道も作りたい」と応じたそうですが、フィリピンが再び同じ失敗を繰り返すのか、あるいは「フィリピンのトランプ」と呼ばれるドゥテルテ氏が騙されたふりをして習近平主席に一杯食わせるのか、これは見ものでしょう。
いずれにせよ、中国の海外投資はことごとく失敗しているというのが現状です。2013年の中国鉱業聯合会の報告では、鉱山開発など資源関連の投資については、8割が失敗に終わっています。投資国の政情不安などもありますが、やはりずさんな計画が原因でしょう。
● 中国企業:国際化の道のりは「遠い」、資源投資で8割が失敗
アフリカでの鉱山開発では、労働者を連れて行って雇用を生まない中国のやり方に現地の反感が高まり、中国人襲撃事件も多数起きています。また、ミャンマーで建設を計画していたダムも環境問題で地元の反対が多くて凍結状態となっています。
インフラ輸出は、相手国の将来を左右するほどの大きいプロジェクトです。それだけに、習近平政権の手柄にするためだけに大風呂敷を広げたところで必ず失敗し、相手国の反中感情を高めます。
世界は中国のインフラ輸出のインチキぶりにようやく気が付きはじめました。後がない習近平政権は、ますます苦境に追い込まれていくと思います。MAG2NEWSより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2016年7月8日金曜日
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