就任から4カ月半となる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の口から、日本を批判する言葉がほとんど出なくなった。5月に大統領に当選するまでは、慰安婦問題などであれほど日本への嫌悪感を露骨に示していたというのに、北朝鮮の核・ミサイル問題に加え、中国との関係悪化などで今や「反日」どころではないようだ。困っている韓国は、慰安婦問題を勝手に棚上げしたまま、また日本にすり寄り始めている。
お手上げ状態?
朴槿恵前大統領の罷免により、5月の繰り上げ大統領選挙(本来なら今年12月)で当選し、翌日に就任した文在寅大統領。内外での問題が山積する中での政権スタートだったが、それを尻目に北朝鮮はミサイル発射などの挑発を連発し続けている。
21日には、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領に対し、「史上最高の超強硬対応措置の断行」を明言する初の直々の声明まで発表した。
金委員長が言うように、北朝鮮の挑発が今後も続くことは必至だ。ただ、その頻度は朴槿恵(パク・クネ)前政権時代よりも多く、文在寅政権の発足以降はエスカレートし続けている。
文氏の大統領就任から4日後の5月14日に新型中距離弾道ミサイルの「火星12」を発射▼7月4日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」を初めて発射▼同月28日にも火星14を発射▼8月9日には米領グアム周辺へのミサイル発射計画検討を公表▼同月26日に短距離ミサイル3発を発射▼同月29日には火星12を発射し、北海道上空を通過▼今月3日に6回目の核実験を強行▼15日には火星12を発射。北海道上空を通過し、襟裳岬東約2200キロの太平洋上に落下▼21日、金委員長がトランプ米大統領を呼び捨てで非難、警告。
北朝鮮との対話にこだわっていた文大統領だったが、火星12が発射された15日には、ついに国家安全保障会議(NSC)の場で「こんな状況で対話は不可能だ」と現実を認め、「断固たる実効性ある対策」を訴えるに至った。
韓国大統領府は否定したものの、ストレスによる文大統領の「円形脱毛症説」まで韓国各紙に報じられた。ただ、文氏が相当に疲れていることは、映像を見ても間違いなさそうだ。まさに、お手上げ状態同然なのだが、そんなことは言っていられない。
THAADは急いで完全配備。やればできる
文在寅政権は今月、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を完了させた。THAADは北朝鮮の弾道ミサイルに対処するもので、現在の朝鮮半島情勢を考えれば当然の措置だ。
THAAD配備について、文氏は大統領就任まで反対世論を受け態度をはっきりさせず、政権発足後も環境評価やら何やらで完全配備が遅れていた。韓国政府の対処を見れば、「ようやく配備」というよりも「あっという間の配備」だった。世論の反発があろうが、大統領の即断、鶴の一声で設置はされた。やればできたのだ。
文大統領は6月末のワシントンでのトランプ米大統領との首脳会談や、7月初旬のドイツでの20カ国・地域(G20)首脳会議以降、外交を現実路線にシフトさせている。
「北朝鮮の核問題解決への道が開かれておらず、弾道ミサイルでの挑発に対する制裁方法への国際社会の協議が簡単ではないという“事実”を重く受け止めねばならない」
「痛切に感じなければならないのは、われわれに最も切迫している朝鮮半島問題にもかかわらず、われわれには解決する力も合意を導く力もないことだ」
THAADの急いでの配備もその現実路線の一環だが、ここで、また別の現実問題に直面している。THAAD配備に猛反発している中国との関係だ。
エスカレートする嫌がらせ
中国の韓国への嫌がらせはTHAAD配備の計画段階から始まり、4月の発射台2基の配備、今月の6基完全配備と段階を経るごとにエスカレートしている。
「国益と安保的な必要性に従い(THAADの完全配備を)決定した」(康京和外相)という韓国の主張など、中国側は全く聞き入れない。最大貿易相手国の中国に輸出の25%を頼る韓国は、すでに中国国内で小売業や製造業など各業種が大打撃を受け、撤退や営業停止、店舗売却を余儀なくされている。
特に傘下のゴルフ場をTHAADの配備地として提供したロッテへの攻撃はすさまじく、大手スーパーのロッテマートは店舗前で抗議デモをされ、不買運動の嫌がらせも受けた。同社は業績の大幅悪化に追い込まれ、中国国内店舗の売却作業に着手した。年末までの損失額は1兆ウォン(約1000億円)に上ると推計されている。
また、韓国を訪れる中国人観光客も激減が続いている。韓流スター関連のイベントも続々中止に追い込まれて久しい。「幼稚なTHAAD報復」(中央日報)などと批判する韓国ではあるが、どうにもできない。中国の報復による韓国の経済損失は8兆5000億ウォン(約8500億円)に上る見通しだ。また、韓国外務省によると、中国在住の韓国人が巻き込まれた犯罪も急増している。
なめられる韓国
こうしたなか、韓国では「韓中関係10月危機説」が流れている。先述のロッテマートはじめ、流通業の撤収、10月1日の「国慶節」を当て込んだ食品業界の不振、中秋節の連休(10月1~10日)に中国人観光客の訪韓が全く見込めないなどだ。
中でも深刻視されているのが、10月10日に満期を迎える中韓の通貨スワップ(交換)。日本との通貨スワップが再開されていない韓国にとって、中国との通貨スワップまで終了することは望ましくなく、不安要素だ。
中国の経済報復に対し、韓国政府は世界貿易機関(WTO)への提訴も選択肢の一つに考えていたが、断念したようだ。筆者としては、やり返すべきところだが、韓国政府は「国益」を考慮し、そこまでは踏み切れないという。
そんな韓国の足元を中国は十分見透かしている。言うことを聞かず韓国にTHAADを配備されたからには、容赦はしないだろう。
「キムチばかり食べて頭がおかしくなったのか」「大国間の勢力争いの中を漂う浮草」「寺や教会が多いのだから、韓国はその中で祈っていろ」(中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報の社説)と中国は韓国をなめきっている。
韓国が誇るキムチまで侮辱されたことに、「非常に下品な言葉」「中国共産党指導部の水準そのもの」(朝鮮日報)、「特有の暴言を吐いた」(中央日報)など韓国メディアは一斉に猛反発した。この感情的で素直な反応も韓国らしいのだが、「中国による国を挙げての報復は始まったばかり」(東亜日報)だ。韓国は、なすすべがなく、もどかしさにさいなまれている。
日本に接近したい
ソウルで第三者として中韓両国を眺めていて、これまで感じていたのは、韓国は中国の手のひらの上で転がされ、喜ばされ続けてきたということだ。中国は相変わらず韓国を見透かし、ちょろいものだと根底からなめている。THAAD配備への報復を通し、韓国はようやく中国の「えげつなさ」を肌で感じ、分かり始めた。
そうしたなか、北朝鮮や中国との問題で困っている韓国が近付こうとしているのは日本。
韓国は歴史的な経験から、朝鮮半島を取り巻く「大国」として、米国、日本、中国、ロシアを挙げるのだが、周囲を見回してみて、相手になって仲良くしてくれそうなのは米国と日本しかない。相手がどう思っているかはともかく。
ただし、日韓関係、特に日本での韓国への感情は相変わらずよくない。理由は当然、2015年の日韓合意で「最終的かつ不可逆的に解決された」はずの慰安婦問題の蒸し返しだ。特に、日韓合意から1年の昨年12月に、合意の精神に反して釜(プ)山(サン)の日本総領事館前に設置された慰安婦像は、日本国民の神経を逆なでした。ソウルの日本大使館前の慰安婦像も撤去されないままだ。毎週水曜日恒例の日本への抗議デモも続いている。
韓国は「中国だけでなく、日本人の観光客が減った」と一様に嘆いている。こうした言葉を聞くたび、韓国の政府、メディア、財界の関係者らに、筆者はいつもこう答えている。「簡単です。日本大使館と総領事館の前の慰安婦像をあの場所から撤去すれば済むことです」と。
こう言えば、相手は大抵、「それはできないでしょう」と答えるか、理解してなのか無言で苦笑いをするかだ。
条約違反は知っての上で
日本大使館と領事館前に設置された慰安婦像は、外国公館前での侮辱行為を禁じたウィーン条約に違反している。10日余り前に康京和外相が韓国駐在の外国メディアと会見した際に、「韓国の外相として、この国際条約違反をどう思うのか」と直接聞いてみた。
康外相は表情を硬くし、「外相直属の作業部会を発足させ、韓日合意の検証作業を進めている。作業部会の結果が出次第、可能な選択を検討していく」と答えるにとどまった。
国連で長年働き、「国際通」として鳴り物入りで女性として韓国初の外相に就任した康外相は当然、ウィーン条約違反であることを知っているはずだ。だが、「可能な選択の検討」と含みを残し、日本への刺激を最小限避けた。
康外相は、「慰安婦問題など過去の問題を直視し未来志向的に発展させるという文大統領の意志に日本政府は共感している」とし、首脳間のシャトル外交など「基本的な枠組みでは合意している」と述べ、文在寅政権が明らかに日本との関係を改善させたい思いであることを示唆した。
日本の公館前でのウィーン条約違反を問題視する主張は、韓国の一部メディアでまれに出ている。今回は極左の労組、全国民主労働組合総連盟(民主労総)が釜(プ)山(サン)の日本領事館前に来年5月、徴用工像を設置する計画をめぐってのものだ。
朝鮮日報(20日付)は社説で、ウィーン条約に韓国も加入していることを指摘した上で、「韓国ではデモ隊が法を無視して構わないのかもしれないが、国際社会ではそうではない。『韓国は外国公館の安寧と品位を守れない国』との世界の見方が、韓国の得になるのかは疑問だ」と問題視した。
韓国国内で盛り上がった日本の公館前での侮辱行為が、国際ルール違反であり、韓国の品を落としていることを、自らわざわざ世界に見せていることを理解しているのだ。
これ以上の関係悪化はまずい
さらに、同紙の社説は、昨年12月に日本総領事館前に設置された慰安婦像にも言及。「普通の日本人までが韓国に嫌悪感を抱き、その余波は現在も少しも静まっていない。状況はより悪化する可能性がある」と懸念を示した。
ウィーン条約には触れないものの、中央日報も同じ日に社説で、「日本は緊密な安保協力関係を強めるべき地理的に最も近い隣国だ」とし、像設置で「感情的にゴタゴタをあおるのは自制せねばならない」と訴えた。この主張の理由として同紙は、北朝鮮の核実験やミサイル発射で韓国が危険な状況に近付いていることを挙げている。
少なくとも朝鮮日報は、慰安婦像の設置で韓国が日本からどれほど嫌われているかが分かっている。また、中央日報も慰安婦像には触れてはいないが、日本の公館前への像の設置が韓国の国益に反することを承知しているのだ。
「これ以上の日本との反目は避けるべきだ」との主張には、「日本にまで離れられては困る」という危機感がうかがえる。
釜山の慰安婦像をめぐっては、文在寅大統領が野党時代の今年1月に現場を訪れ、像の「保存」に積極姿勢を示した。また、昨年末に締結に至った日韓の安保分野の情報共有を可能にする軍事情報包括保護協定(GSOMIA)には、文氏が党首を務めた現在の与党「共に民主党」が「国民感情」を理由に反対した。
日本からの衛星画像情報や、哨戒機などによる北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)情報の提供を受けられるGSOMIA。北朝鮮が挑発を繰り返す今や、「日本の優れた情報収集能力を活用することができ、韓国にとって必要なもの」(締結当時の同省関係者)に確実になっている。
自らまいた種
あれほど熱を上げた慰安婦像の問題の大きさや、反発を続けた日本との防衛協力の大切さを、文在寅政権はようやく悟ったようだ。そして、何事もなかったかのように、日本にすり寄り始めている。
困ったときに手っ取り早く頼りにできるのは日本しかない。日本を知る常識的な者ほどバツの悪さを感じているようだが、一般人はそうでもない。自分(韓国)を中心に日本も回っていると思っているかのようだ。韓国にとって、日本は相変わらず甘えが通じる国であり、それほど“お人よしな国”に映っている。
ただ、困っている韓国だが、自らまいた種はすでに芽を出して伸び続けている。韓国に対する日本国民の見方だ。文在寅政権の韓国は、自ら刺激した日本世論を必死になだめにかかっている。ただし、あれほど侮辱された日本で、世論がどこまで韓国からの秋波に反応するかは分からない。
韓国メディアには突然、「日韓蜜月」との見出しが登場したりもしている。慰安婦問題などをめぐり、あれほど日本を非難し続けた韓国は、いつの間にか日本と蜜月関係になろうとしているのか。困ればわが身を振り返らず、必ずといっていいほど日本に歩み寄ってくる韓国。過去に何度もあった対日姿勢だ。
ただ、韓国であれほどうるさかった慰安婦問題は、日韓合意で完全かつ不可逆的に解決することが両国で確認したにもかかわらず、文在寅政権によって棚上げにされている。状況によっては突然、蒸し返し始める可能性もある。
政権発足当初は85%を超えていた文在寅大統領の支持率は、今月、初めて60%台に落ちた。韓国の歴代政権が支持率回復のために、日本との歴史問題を利用してきたのは記憶に新しい。韓国を取り巻く今後の状況次第だろうが、今後の文在寅政権がその例外であるという保証はどこにもない。産経ニュースより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2018年1月3日水曜日
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