2018年1月25日木曜日

韓国の米国大使がいつまでも就任しない理由とは

米国でドナルド・トランプ大統領が新政権を発足させてから1年が過ぎた。

トランプはこの1年、何を実現させたのか。数ある公約の中でも大きな成果は1.5兆円の大型減税だろう。目玉のメキシコ国境の壁や、オバマケアの撤廃など実現できていない公約も多いが、逆に公約通りにTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やパリ協定からの離脱を発表し、さらには在イスラエルの米大使館をエルサレムに移動させるとも宣言した。
トランプ政権は組織として機能しているのか

ただ公約通りに「離脱」「宣言」したが、結局は実現できなそうなものもあると指摘されている。例えばパリ協定については、米国は早くとも2020年11月まで公式に離脱できない決まりになっており、次期大統領(20年に新しい大統領が誕生した場合)が決定を覆せる。また米大使館をエルサレムに移転との発言も、実質的には大使館移転がいつになるか分からないし、結局は「宣言」だけで終わるとの見方もある。

とにかく、話題には事欠かなかったトランプだが、1年の任期を語る上で忘れてはいけないのが、トランプ政権においては政府機関の要職が「空き」だらけだという事実だ。ちょこちょこ話題になるが、いまだに重要なポストに人が配置されていないのである。

その最たるポジションは、在外大使館の米国大使。各地で大使のポストが空席になっているのだが、その中でも多くが懸念しているのは、在韓米国大使だ。現在、米国の安全保障にとって最も危険な懸案のひとつである北朝鮮問題で緊張が続くなか、カギとなる最前線の韓国で米大使が存在していないのである。これは何を意味するのか。いったい何が起きているのか。

実は大使がいないのは韓国だけでない。ドイツやオーストラリア、ベルギー、エジプト、ヨルダン、サウジアラビアといった国々もいまだに大使が不在で、その数は40カ国以上になる。言うまでもなく、大使の仕事は重要なものだ。米国務省によれば、「大使とは、米国の外交使節団を率いる最も重要な役職」だという。繰り返すが、そんな中でも韓国は特に重要な国だ。

●政府内部の重要役職も空席が多い

空きだらけなのは大使のポジションだけではない。政府内部の重要役職もかなり空席が多いのだが、どれほどのポジションが空いているのか。米政府の重要ポジションである633ポストのうち、4割ほどしか決まっていない。さらにこれまでのどの政権よりも、離職者の数が多いとも報じられている。しかも、空いているポジションに指名されて辞退する人も少なくない。筆者が政府機関の関係者から聞いたところによれば、「現在のところ空きになっているポジションは省庁のベテラン職員が一時的に代理をしているケースが多い」という。

ちなみに、北朝鮮問題で重要になる日本や中国、北朝鮮など東アジアを管轄する東アジア・太平洋担当の国務次官補も最近まで正式に決まっていなかった。17年12月にやっとキャリア外交官のスーザン・ソーントンがその要職に指名された。また国防総省のアジア太平洋問題担当次官補も、12月になって著名なアジア専門家ランディ・シュライバーが任命されたばかりだ。

米国では要職に就くのに議会の承認がいる。つまり、指名されても議会の承認が進まないケースもあるため、一概にトランプ政権が悪いとは言えない。しかし、米国が重要視する地域では、何をおいても人選から承認まで迅速に行うべきで、1年以上も大使が決まらないという事態は異常だと言っていい。

事実、米国国内では北朝鮮の核ミサイル問題で、韓国国内や朝鮮半島の空気感などをつぶさに感じ取る必要があるこの時期に、大使がいないのはいかがなものかという指摘がある。

駐韓米大使のような要職がいつまでも空席になっている背景には何があるのか。

実は、8月ごろからずっと駐韓米国大使に目されてきた人はいる。米ジョージタウン大学のビクター・チャ教授だ。チャ氏は、ジョージ・W・ブッシュ政権で北朝鮮の核問題を議論する6カ国協議の次席代表を務めた人物で、米国きっての朝鮮半島問題の専門家だ。

政府関係者の話によると、チャ教授はすでにホワイトハウスに顔を出しており、高官らともあいさつを済ましているとのことだったが、話は進展しないままだった。そして17年12月、ついにチャ氏が駐韓米大使に任命されたと大々的に報じられた。

●トランプ政権、組織として機能していない

このニュースは、他人事ではない日本でも報じられた。しかも米メディアによれば、米政府は駐韓米国大使としてチャ氏の名前を韓国政府にも伝え、韓国政府はそれを了承したとも伝えられていた。

しかし、である。それ以降、米国でもチャ氏の任命・就任がその後どうなっているのかは聞こえてこない。大使として承認されるために必要となる米議会での公聴会が行われる気配もないし、韓国への問い合わせの後には沈黙が続いているという。しかも韓国に対しても、チャ氏の就任動向について何ら連絡がないらしい。

その理由は何なのか。ひとつには、米国内の重要ポストを埋められないのと同じで、トランプ政権が組織として機能しておらず、政権内の事務的な無能さが背景にあるとの見方がある。大使を就任させるまでのプロセスを迅速に行うことがままならないとの指摘だ。

その背景には、トランプが側近にすら悪態をつくことで、政権内で職員の士気が低下していることもある。つまりトランプの言動のせいで、職員たちのやる気が削がれているというのである。確かに、ツイートなどによる数々の暴言だけでなく、身内の米国連大使についても「簡単に首をすげ替えられる」と言ってみたり、側近を「オレの手下だ」と言ってみたり、ホワイトハウスでも人を小馬鹿にするような発言を繰り返していると報じられている。離職者が多いのもそうしたトランプの言動のせいだという声もある。

さらに、トランプ政権は国務省の職員を3分の1に縮小すると標榜しており、職員らのやる気が下がっているともいう。

駐韓米大使に話を戻せば、長期の大使不在に心が穏やかでないのは韓国だ。ただでさえ北朝鮮の核ミサイル開発問題や、中国が絡む最新鋭迎撃システム「THAAD(終末高高度防衛ミサイル)」配備問題など、文在寅(ムン・ジェイン)大統領とトランプ政権の関係がギクシャクするなかで、大使のような存在がいないのは韓国政権に不利に働いているとの見方もあるからだ。また米国から軽視されているという悲観的な声もある。

韓国紙の中には、「平昌オリンピックのタイミングでチャ氏が就任する」という希望的観測を報じているところもあるが、その根拠は分からない。

韓国政府はおそらくチャ氏を警戒しているはずだ。なぜなら文大統領の北朝鮮との対話路線に対して、チャ氏は北朝鮮に対して強硬な姿勢であるからだ。さらに中国に対しては、中国が北朝鮮の核ミサイル開発が進展している原因となっていると厳しく指摘する。かつて、「中国は、米国の東アジアにおける信用と信頼、弾性を失わせようとし、自分たちの存在感と巨大さ、さらにたくさんの金を持っているという事実で米国に取って代わろうとしている」と発言しているくらいだ。

●朝鮮半島情勢をややこしくしないことを望む

チャ氏とトランプのタカ派路線が、どんな“化学反応”を起こすのか。韓国ならずとも気になるところだろう。

1年を経過したトランプ政権。政策うんぬんよりも、まずポジションを埋めることができるよう、政権を機能させる必要がありそうだ。トランプ大統領は、「政権は世界で最も安定・機能しており、全ては計算通りだ」などとうそぶきそうだが、現実は機能不全、人材不足、人材流出で政権運営がスムーズではない。

これまでこの連載でも何度も指摘してきた通り、米朝が開戦する可能性はかなり低い。それでも、開戦をチラつかせながら暴言を吐き続けるトランプと、それに応える金正恩委員長の「プロレス」の間に立たされる韓国は油断できないだろう。これから就任するかもしれない駐韓米大使が、余計に朝鮮半島情勢をややこしくしないことを望む。

yahooニュースより

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