2017年2月23日木曜日

“兄殺し”金正恩を狙う側近 「本能寺の変」で北朝鮮崩壊

金正男(キムジョンナム)氏(45)は2012年以降、金正恩独裁を脅かす危険分子として「暗殺リスト」に入ったにもかかわらず、なぜ、今まで「処刑」されなかったのかは、謎だ。

本人が政治的な動きを控えたことと、北朝鮮本国で正恩(ジョンウン)体制が強化されたことで、体制にそれほど脅威にならないと見なされたのだろう。だが、今やそうした余裕がなくなってきているのではないか。それを裏付けるのが、「粛清」の拡大である。

もともと独裁体制は、徹底した恐怖支配の下でしか存続できないものだ。利益を享受する人間より、そうでない人間のほうが圧倒的に多い社会では、権力は常に下からの反発の圧力を受ける。それを抑えるためには、刃向かう人間、あるいは刃向かいそうな人間を徹底的に排除するしかない。

「実際、北朝鮮の権力者は、初代の金日成も、2代目の金正日も、党や軍などの内部で徹底的な粛清を行い、自身の脅威になり得る実力者をことごとく処刑してきた。3代目の金正恩も、その独裁維持のセオリーをそのまま踏襲している」(韓国当局)

政権2年目で叔父の張成沢氏を処刑したことがその典型例だが、それ以外にも、処刑された政権幹部は多い。

ここ数年でみても15年1月には辺仁善・軍作戦局長、同年4月には玄永哲・人民武力部長、同年5月には崔英健・副首相、16年7月には金勇進・副首相が処刑された。

韓国当局によれば、金正恩氏が政権を握った後に粛清された幹部は、12年には3人、13年に約30人、14年には約40人、15年には約60人という。
これは、若くして権力を世襲した金正恩氏が、独裁を維持するために躊躇(ちゅうちょ)せずに幹部粛清を進めていることにほかならないが、それにしても近年は常軌を逸した水準だ。こうして処刑が明らかになった幹部以外にも、主だった権力ポストの人間の多くが解任されている。彼らの解任後の消息は不明なことが多いが、中にはひそかに処刑された幹部も少なくあるまい。

他方、こうした粛清の嵐の中、脱北して外国に亡命する幹部も増えている。

15年にも秘密警察である国家安全保衛部(現・国家保衛省)の局長級幹部が脱北しているが、16年7月には太永浩・駐英公使が韓国に亡命し、さかんにメディアで北朝鮮批判を語っている。

17年2月17日にも、北朝鮮から中国に派遣されていた高官が第三国に亡命した可能性があるとの情報が報道されている。

「こうした亡命幹部らが、亡命政府の樹立を模索する動きを報じられたこともあります。これに関連した報道の中には、その亡命政府のトップに金正男を担ぐ計画があったともされています。実態がどこまであるのか不明ですが、こうした亡命者の動きに関連し、金正恩に警戒され、暗殺実行命令が下された可能性もある」(同)

少なくとも、金正男氏暗殺の背景には、北朝鮮内での粛清の拡大と、それにともなう脱北の拡大、そして、それによって粛清がさらに歯止めなく拡大するという暗黒のスパイラルがある。少しでも自分のマイナスになりそうな人間は、ことごとく殺害してしまえという金正恩氏の疑心暗鬼の中で、金正男氏は真っ先に標的にされた可能性が高い。
だが、金正恩氏の恐怖支配は、あまりにも限度を超えており、たとえば、17年1月半ばには、粛清を行う側のトップだった金元弘・国家保衛相が解任され、次官級含む同省幹部多数が処刑された。自分以外に「力を持った人間」は根こそぎ粛清する勢いにまでエスカレートしているのだ。

こうなると、もはや体制の幹部ならば誰もが常に粛清の対象になりかねない。

独裁体制を維持するためには恐怖支配が必要不可欠だが、限度を超えると、いずれ政権内部からの叛乱が起きるだろう。自分が生き残るための叛乱だ。

現在のところ、恐怖支配の徹底が叛乱の動きを抑えてはいる。

「しかし、やがてはクーデター、あるいは側近による金正恩暗殺となる可能性が高い」(北朝鮮筋)

北朝鮮版の「本能寺の変」は案外、近いかもしれない。 ドッドより

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