北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が殺害された事件を受け、「朝鮮半島有事」が現実味を帯びてきた。「北の暴君」正恩氏は核・ミサイル開発も加えて、米国と中国を敵に回したのだ。事件をめぐり、マレーシアと北朝鮮も外交紛争に発展しつつある。日米首脳会談以降、安倍晋三首相とドナルド・トランプ大統領は半島有事も見据えて連携を強めている。焦りまくる韓国の変化とは。ジャーナリストの山口敬之氏による核心リポート。
北朝鮮は、米国との直接対話を悲願とし、「正恩氏と会っても構わない」と発言したトランプ氏の就任以降、核実験やミサイル発射などの挑発行為を控えていた。
しかし、日米首脳会談(米国時間10日、日本時間11日)後に発表された共同声明に、《北朝鮮に対し、核および弾道ミサイル計画を放棄し、さらなる挑発行動をしないよう強く求める》《日米両国は、北朝鮮に関する国連安全保障理事会決議の厳格な履行にコミットしている》と明記されると、翌11日(同12日)、弾道ミサイル発射という形で反応した。
そして、マレーシアで13日、正男氏が白昼堂々、暗殺された。世界に衝撃が走った。
マレーシア警察の捜査で、犯行グループと北朝鮮の関係が次々に明らかになっている。すべてをうのみにはできないが、中国と深い関係を持つマレーシア当局の発信を追う限り、中国が「暗殺は北朝鮮主導で実行された」と見ており、北朝鮮に強い不快感を持っていることは明白だ。
日本政府関係者は、北朝鮮の一連の動きについて、最近の米中首脳電話会談(9日)と、日米首脳会談に深い関係があると分析している。
トランプ氏と、中国の習近平国家主席との電話会談は長時間に及んだが、台湾問題をめぐる短いコメントが発表されただけで、詳しい内容は明らかにされていない。
安倍首相とトランプ氏の対話も、国際情勢をめぐるやり取りの詳細は一切公表されなかった。
だが、先週の本連載(14日発行『安倍トランプ極秘交渉』)でスクープしたように、両首脳はフロリダ州パームビーチで2人きりとなった車中で、北朝鮮問題についても相当突っ込んだ意見交換を行っていた。
北朝鮮が今回、暗殺事件を指揮したのであれば、ミサイル発射と合わせて、米国と中国に対する明確な意思表示である。正恩氏が、米中両国を敵に回してまで大きな決断をしたのはなぜか。
重要なヒントを与える情報が昨年10月、米ワシントン発の小さな記事に潜んでいた。大統領選終盤の同月12日、国務省のラッセル国務次官補が記者団に以下のように語ったのだ。
「北朝鮮が核攻撃の能力を持った途端、金正恩は死ぬことになる」
長年、アジア外交に関与してきた職業外交官であるラッセル氏が、こうした重要な事案で根拠のない発言をするはずはない。明らかに正恩氏に向けて発信された、米政府の「最高レベルの警告」だった。
この発言の前後、正男氏の息子、金漢率(キム・ハンソル)氏(21)が、英国オックスフォード大学大学院への進学を断念し、マカオ市内の正男氏宅の警備が強化された。中国当局が暗殺の危険性を警告したようだ。
中国は「自由主義陣営と国境を接しない」という方針を堅持している。北朝鮮の民主化は決して望んでいない。
日本政府関係者は、コントロールの効かない正恩氏の代わりに、習氏側は正男氏をトップにして「金王朝・朝鮮労働党独裁体制」を維持するソフトランディング路線を模索したものとみている。ただ、共産党最高指導部内には、正恩氏に近い勢力もあるようだ。
正恩氏がこの計画を察知すれば、さまざまなデメリットを押しても、正男氏の排除を断行するだろう。米中首脳電話会談と、日米首脳による対話が、正恩氏の疑心暗鬼を高めたことは想像に難くない。
一方、安倍首相の訪米後、韓国政府の対応が明らかに変化している。
日韓合意やウィーン条約に反する釜山の日本総領事館前の慰安婦像設置を受け、日本は対抗措置として長嶺安政駐韓大使を帰国させ、「無期限待機」とした。日韓のパイプは極端に細った。
ところが、安倍訪米後の先週16日(日本時間17日)、ドイツ・ボンで、岸田文雄外相と、レックス・ティラーソン米国務長官、韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相による日米韓外相会談が開かれると、尹氏は慰安婦像設置は不適切だとして「可能な限り最大限の努力を行っていく」と表明した。日韓合意をほごにしかねない韓国の対応に、米国側から強い懸念が示されたようだ。
韓国の態度変化は、慰安婦問題だけではない。
複数の関係者によると、北朝鮮のミサイル発射時には、機密性の高い情報やミサイルの種類の分析なども日本側に提供された。正男氏殺害についても、日韓外交・情報筋の情報交換が目に見えて改善したという。
官邸周辺は「安倍首相とトランプ氏が蜜月関係を見せつけたことが、韓国の態度変化につながった」と分析している。
内政の混乱が続く韓国は、トランプ政権との意思疎通では大きく後れを取っている。朝鮮半島情勢が緊迫する現在、最もトランプ氏に近い安倍首相を「敵に回すのは得策ではない」との判断が根底にあるようだ。
安倍首相が「絶対に口外できない」という、フロリダでのトランプ氏との密談には当然、北朝鮮と朝鮮半島の今後、半島有事を含めた方針と意見交換も含まれるだろう。
ポスト正恩体制、大量難民への対応、韓国経済への影響…。世界が「安倍首相とトランプ氏が、朝鮮半島有事について方針を共有した」とみることが計り知れないアドバンテージを生んでいる。
あとは、本当の半島有事を迎えたとき、アドバンテージを日本と周辺地域の安全確保に最大限生かすことが、安倍首相には求められる。 夕刊フジより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
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