停滞していた北方領土返還の兆しが、ようやく見え始めた。といっても、これまでの「オール・オア・ナッシング」という“空想的返還交渉”から“現実的交渉”への動きが始まったばかりだ。プーチン大統領率いるロシアはしたたかだ。四島すべての返還となるか、歯舞・色丹群島に限られるのか、その帰趨(きすう)は不透明だ。
安倍晋三首相のおひざ元、山口県長門市の温泉旅館「大谷山荘」で昨年12月に行われた日露両首脳会談について、新聞各紙は「領土帰属の具体的な進展はなかった」と報じた。果たして、そうだったのか。
キーワードは、2人だけで95分間、ひざ詰めで話した非公式会談での「密約」である。安倍首相は会談後、深夜にもかかわらず、バーに岸田文雄外相や補佐官などを呼び出した。翌日午前1時半ごろまで飲み、終始上ご機嫌だったという。
「密約」の中身は漏れてこないが、何らかの「合意」があったのではないか。その答えは、すぐには出てこない。両首脳が長期政権を狙う意味がここにある。来年3月のロシア大統領選挙と、同年9月の自民党総裁選挙後に、「密約」の成否が公にされるだろう。
近年、北方四島が位置するオホーツク海や択捉海峡海域の、経済的かつ軍事的重要性が飛躍的に高まっている。
択捉島では5000トン級の艦船が接岸できる埠頭(ふとう)が完成した。島の中心地・紗那(しゃな=ロシア名・クリリスク)からほど近い別飛(べっとび=同・レイドヴォ)には2300メートルの滑走路を持つイトロップ新空港も完成した。ボーイング737などの大型機が、ロシア各地と直結するハブ空港としての役割を持つ。
択捉、国後両島には、最新の軍事基地としての施設が建設されている。その数はショイグ・ロシア国防相の公式発言によると、対空・対潜ミサイル基地や弾薬庫、練兵場など392にも及ぶ。
択捉島とウルップの海峡は水深1500~2300メートルと深く、ロシア太平洋艦隊の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)「デルタIV」などの絶好の隠れ場である。この海域は、米国とロシア、中国の安全保障上のせめぎ合いが熾烈な最前線なのだ。
北方領土は現在、劇的な変化を遂げている。
巨額を投じたクリル発展計画が進むにつれ、多くの外国人労働者も入境している。土地の個人所有も自由になった。一種のバブル状態ともいえよう。その裏で殺人や強盗、横領、密漁、麻薬、武器の密売などの犯罪も増加している。
ともあれ、北方領土返還交渉の道程は、多くの問題を抱えている。平和条約締結、領土の帰属に至る共同経済活動の推進など、安倍首相とプーチン氏が強力なパワーを発揮しなければ解決に至る道は険しい。その意味では、両首脳が健在な今こそがラストチャンスだ。
まさに安倍首相にとって正念場だろう。 夕刊フジより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
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