2017年1月29日日曜日

防衛通信衛星「きらめき2号」、打ち上げ成功

三菱重工業と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2017年1月24日の夕方、防衛省の防衛通信衛星「きらめき2号」を搭載したH-IIAロケットを、鹿児島県にある種子島宇宙センターから打ち上げた。安全保障に関わる衛星の打ち上げであるため、ロケットがどのように飛行したかは明らかにされていないが、三菱重工業らによると、衛星を予定どおり分離して所定の軌道に投入し、打ち上げは成功したという。

26日現在、衛星の状態は正常で、このあと最終的に運用を行う静止軌道という場所へ向けて移動を始め、3月ごろから運用が始まる予定となっている。

「きらめき2号」は防衛省が導入する通信衛星で、自衛隊の艦船や航空機、部隊などの活動において、通信を行うことを目的としている。防衛省が独自に衛星を保有するのは今回が初となる。なぜ防衛省はこれまで独自の衛星をもっていなかったのか、そして「きらめき」の重要性はどこにあるのかついて紹介したい。

◆非侵略から非軍事へ「平和目的」の意味の変化

防衛省が独自の通信衛星をもつに至った経緯、あるいはなぜこれまで独自の衛星をもっていなかったのかについて語るには、約半世紀前にまで遡らなければならない。

1969年、科学技術庁に属する機関のひとつとして宇宙開発事業団が設立されるのに合わせ、「宇宙開発事業団法」が定められることになった。この法の第1条には「平和の目的に限り、ロケットや衛星の開発、打ち上げを行う」という文言が入っている。この「平和の目的に限り」という言葉の解釈をめぐって、やや議論が巻き起こることになった。

というのも、たとえば宇宙から地上を攻撃、侵略するような兵器を開発することが、「平和目的」に反するのは一目瞭然で、また1967年に発効された宇宙条約でも、宇宙の平和利用が謳われ、宇宙空間や月などの天体に大量破壊兵器を配備することは禁止されている。宇宙条約は米国やソヴィエト連邦(当時)も批准し、実際にこれまでそのような兵器が配備されたことも(少なくとも公式には)ない。しかし、宇宙から地上を監視する偵察衛星や、軍艦や地上部隊などが通信に使う軍用通信衛星など、宇宙を軍事目的に利用することに対しては、宇宙条約では明確に禁止されておらず、周知のとおり米ソをはじめ、さまざまな国が打ち上げ、運用している。

一方日本では、憲法9条との兼ね合いもあり、宇宙条約の平和利用、そして宇宙開発事業団法の「平和の目的に限り」という文言について、「非侵略」であるのは当然として、「非軍事」でもあると解釈すべきであるとの意見が出された。つまり他国のように、人工衛星を使った偵察や軍用通信さえも禁止すべき、という考えである。この意見は、当時の科学技術庁長官をはじめ、おおむね同意されることになり、何らかの法律や付帯決議として「平和目的=非軍事」と明記されたわけではないものの、「平和の目的に限り」という文言が「非軍事」である、という解釈は、その後長く続くことになった。

しかし、その後の宇宙開発の発展と、日本を取り巻く情勢の変化に伴い、「平和目的=非軍事」という解釈にだんだんと齟齬が生じてくる。

1985年、政府は自衛隊による衛星利用に関して「一般化原則」を示した。当時、すでに世の中には衛星を使った通信(衛星放送など)がありふれていたものの、前述の国会決議などに反するという理由で、自衛隊は使うことができなかった。

しかし1983年、硫黄島に駐留する自衛隊が、宇宙開発事業団の運用する通信衛星を利用したのを契機に、1985年には海上自衛隊が米軍の軍事通信衛星を利用するなど、徐々になし崩しとなっていった。そして同年政府は「『平和の目的に限り』とは、『その利用が一般化しない段階における自衛隊による衛星の利用を制約する趣旨』だ」とする見解を示した。つまり「すでに一般化している衛星通信を自衛隊が利用するのは問題ない」ということである。これにより自衛隊は、一般と同程度ではあるものの、通信を使った衛星をおおっぴらに利用することが可能になった。

そして2008年には「宇宙基本法」が制定。「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講ずるものとする」と定められ、安全保障を目的に宇宙を軍事利用すること、すなわち米国のように、人工衛星を使って偵察したり、通信をしたりといった、いわゆる”軍事利用”が十分に可能になったばかりか、推奨にも近い形で認められることになったのである。

◆自衛隊の衛星通信利用

前述した1985年の一般化原則を受け、防衛庁(当時)と自衛隊は1990年から、衛星通信の利用を本格的に始めた。

とはいえ、自衛隊専用の通信衛星が打ち上げられたわけではなく、民間企業が打ち上げた商業用の通信衛星の、一部の機能を借り受ける形で利用された。通信回線の太さや速度も特段優れているわけではなく、むしろ他国の軍用通信衛星と比べれば遅れており、音声やFAXくらいしか送受信できないと言われている。また、陸・海・空の3つの自衛隊間でのやり取りや、同じ自衛隊内でも、部隊同士の通信さえ満足にできないといった、多くの問題を抱えているという。

たとえば米国などでは、基本的な高速・大容量の通信を行う衛星から、航空機や艦船、各兵士がもつ端末など移動体向けの通信を行う衛星、さらに核戦争などの際でも影響を受けずに通信できる衛星などを幅広く、それも複数打ち上げており、その差は歴然としている。

そして2011年、防衛省はこうした状況を改善するため、またこのとき(現在も)利用している3機の衛星のうち、2機の設計寿命が2015年に切れること、そして前述した宇宙基本法で日本も宇宙の軍事利用が十分に可能になったことなどを受けて、防衛省が独自に通信衛星をもち、運用することを決定する。それが今回打ち上げられた「きらめき2号」をはじめとする、「Xバンド防衛通信衛星」である。

◆Xバンド防衛通信衛星「きらめき」

報道では「きらめき」という名前ばかりが表に出るが、正式名称は「Xバンド防衛通信衛星」であり、「きらめき」は愛称である。なぜこのような(やや拍子抜けするような)愛称をつけたのかは明らかにされていない。

Xバンドというのは、周波数の種類のひとつで、雨や大気による電波の減衰が小さく、また妨害を受けにくいなど、まさしく軍用の通信にうってつけな性質をもっており、他国でも広く利用されている周波数帯である。

前述のように、日本では宇宙の軍事利用が忌避されていたという経緯から、「きらめき」は防衛省が独自に保有する初めての衛星となる。もっとも、調達や運用といった実際の業務は、防衛省からPFI(Private Finance Initiative)によって委託を受けた、民間企業のディー・エス・エヌが担当している。

たとえば衛星の運用は、ディー・エス・エヌを構成する一社のスカパーJSATが担当し、衛星の製造は同じく同社を構成する一社である日本電気(NEC)と、ディー・エス・エヌには属さないものの大型の通信衛星の製造実績をもつ三菱電機が担当した。意外なところでは、トンネルやダムの建設でおなじみの前田建設工業もディー・エス・エヌに参画しており、衛星の運用を行う施設の局舎の建設などを担っている。

「きらめき」は今回の2号機を合わせて全3機が打ち上げられる計画となっている。1号機の「きらめき1号」は当初、2016年中に欧州のロケットでの打ち上げが予定されていたものの、日本から打ち上げ場のある南米仏領ギアナへの輸送中に損傷する事故が発生したため、2018年3月以降に延期。先に2号機である今回の「きらめき2号」が打ち上がることになった。なお、3号機の「きらめき3号」は2020年度中の打ち上げが予定されている。

ただ、安全保障に関わる衛星であることから、各衛星の質量、寸法などは明らかにされていない(たとえば「きらめき1号」と「2号」は同型機ではないとされるが、詳細は不明)。配備される軌道も、地球の赤道上、高度約3万5800kmにある静止軌道ということ以外は明らかになっていないが、おそらく自衛隊が主に活動する日本周辺と、太平洋上やインド洋上などへ配備されるものと思われる。

◆日本と世界の平和を守るための”きらめく星”になれるか

「きらめき」の運用が始まれば、たとえば日本と海外に展開する自衛隊との間で、あるいは各自衛隊内や、それぞれの乗り物や部隊内の通信が、より円滑にできるようになり、また弾道ミサイルの発射情報なども迅速かつ的確に届けることも可能になるという。

また将来的には、自衛隊のすべての部隊が、他のすべての部隊のセンサーとなり、一体となって作戦などが実施できるようになる可能性もあるという。

現代の戦闘において、情報の伝達や共有はより重要度を増しており、さらに平和安全法制の成立で、自衛隊が他国で活動する機会が増えれば、日本におけるその重要度も、これまで以上に大きくなると予想される。その点で、「きらめき」の打ち上げ、運用がもつ意義は大きい。

もちろん、宇宙を平和利用に限ってきた過去の経緯から、それを良く思われない向きもあるだろうが、いずれにしても、導入が始まった「きらめき」が、日本と世界の平和を守るたの”きらめく星”になって、最大限活用されることを願いたい。 infoseek newsより

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