2016年8月12日金曜日

中国に原発を任せるのは危険? 英メイ首相、中国出資の計画を再考 中国は不快感

7月28日、イギリス政府は、総額180億ポンド(約2兆5千億円)といわれるヒンクリー・ポイントC原発の建設プロジェクトを再考し、最終決定は初秋まで持ち越すと発表した。資金調達と建設を担当するフランス電力公社(EDF)は、英政府の発表の2時間前にプロジェクトへの投資を理事会で承認し、翌日の契約締結に備えていただけに、衝撃を受けている。決定の裏には、建設費用の3分の1を出資することになっている中国広核集団(CGN)の関与を、メイ新首相が安全保障上の脅威と見たからという報道もあり、中国も不快感を表している。

◆フランスの面目丸つぶれ。中国も不満

BBCによれば、フィンランドや自国の原発プロジェクトが頓挫している中、フランスはヒンクリー・ポイントCの建設を、原子力技術を世界に輸出するためのショーケースとして期待していたという。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、建設見直しの可能性は、事前にメイ首相からフランスのオランド大統領に伝えられていた。しかし、EDF側には連絡されていなかったようで、EDFの関係者は憤っているという。計画がキャンセルされれば、公に支持を表明したオランド大統領や経済相の面目を潰すことにもなり、英仏関係の悪化もありえるとFTは述べている。

突然のヒンクリー・ポイントCの建設の再考には、メイ首相の右腕ともいわれる、共同首席補佐官のニック・ティモシー氏が昨年書いた記事の影響があったのではとFTは指摘している。ティモシー氏は、主要プロジェクトを中国に与えれば、コンピューター・システムに脆弱性を埋め込み、中国が意図的にイギリスのエネルギー生産をシャットダウンすることもできると警告していた。

メイ首相が中国の関与を危惧したという報道を受け、中国新華社は、時間を掛けたいというイギリスの考えを理解し尊重するが、中国がプロジェクトに使われる技術に「裏口」を作り、イギリスの安全保障を脅かすかもしれないという、いわれのない非難は耐え難いと反論している。首相官邸の報道官は、首相が「中国への懸念」を示したかどうかには言及せず、今回のような大型インフラ計画に、新首相と新政府が時間を掛けるのは正しいことだと述べている。

◆英中蜜月終了?前政権とは対照的

前政権のキャメロン首相とオズボーン外相は、中国の投資を歓迎し、西側における中国の最良の友となるべく、「英中蜜月」を演出してきた。イギリスとEDFの間で2013年に大筋合意したものの、資金面で難航していたヒンクリー・ポイントCの出資も成果の一つだ。西欧への足掛かりを得たい中国は、2年前にCGNを通じ計画への関与を表明し、総コストの3分の1を出資すると決めた。その後英側は、両国の「黄金時代」を固めるために習主席を国賓として迎えている。それだけに、王立国際問題研究所のケリー・ブラウン氏のように、今回のイギリスの「逃げ腰」が、中国に対する真の姿勢を暗示していると中国側は見るだろうという識者もいる。財務省の元官僚たちからも、今後の英中関係を非常に心配する声が出ているという(FT)。

◆メイ首相は中国嫌い?自分流で進む
英自由民主党の元ビジネス大臣、ビンス・ケーブル氏は、メイ首相が内相時代に中国人ビジネスマンのビザ発給条件の緩和に反対だったとして、首相が安全保障上の理由で中国からの投資に偏見を持っていることを示唆し、首相はより懐疑的アプローチを取り入れており、アメリカと同じやり方だと批判している。このような前任者とは異なるという意見に対し、首相の報道官は、英政府はビジネスにはオープンで世界からの投資を求めており、中国との強い関係を引き続き希望すると答えている(ガーディアン紙)。

FTは、メイ首相は慎重で地味な政治スタイルで知られているが、今回の一撃で、フランス、中国との関係と、将来のエネルギー政策を宙に浮かせてしまったと述べる。その一方で側近の中には、メイ政権はキャメロン政権の継続ではないとドライにいう人もいるらしい。自分流を行く新首相のやり方が吉と出るか凶と出るか。今後の行方に注目したい。

中国に原発まで任せていいのか”英国の対中重視外交、国内で懸念の声も

キャメロン首相がダライ・ラマと会談後、しばらく中国に冷遇され苦汁をなめたイギリス。首相が訪中を許された2013年からは、その対中重視路線は明確となった。中国資本を取り込もうと、9月20日に訪中したイギリスのオズボーン財務相は、猛烈な営業活動を行ったようだ。このような政府の姿勢に対し英国内で賛否が分かれているようだ。

◆中国を満足させたヨイショ外交

訪中1日目に習金平主席と会ったオズボーン氏は、「イギリスは中国から逃げられない」、「その逆で、中国に駆け寄っていくべきだ」と、さっそくリップサービス。その後訪れた上海の証券取引所では、「イギリスを中国の西側における最良のパートナーとするために、結束しよう」と呼びかけた(オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー、以下AFR)。中国政府系のグローバル・タイムズは、「人権問題」を口にしなかった同氏の「外交的エチケット」を称賛し、慎み深いのが、ビジネスチャンスを求める者の正しい態度だと評価している(英ガーディアン紙)。

フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、オズボーン氏を中国の富をがっちりつかみたい経済優先派と評している。アメリカの意向に逆らってアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加を表明したイギリスの決断には、ロンドンを人民元のオフショア取引の中心にしたいという同氏の思惑が影響した、と同紙は報じている。

◆中国資本はイギリスにとって悪?

今回の訪中では、英国が同国内の原発や高速鉄道への投資を中国側に呼びかけた。すでにサマセット州とサフォーク州の原発プロジェクトには、中国の資金援助が見込まれており、その見返りとして、西側の国では初めて、エセックス州での新規の原発の建設と運営を、中国に任せる計画だという(AFR)。

主要なインフラ建設に中国を絡ませることについては、慎重な意見もある。国の重要なインフラ整備に関わる事業で、中国企業を排除したオーストラリアのAFRは、イギリスは原発の経済性と国の原子力発電の能力増強の妥当性を重視しており、安全保障を二の次にしていると指摘。また、国連安保理の常任理事国で外交的影響力もあるのに、領土問題などで許容範囲を超えた行為をする中国に強く出られないと述べ、中国に取り入るイギリスに、欧州で一番多く中国マネーが流れ込んでいると皮肉った。

英インデペンデント紙は、必ずしもイギリスの国益に合致しない国に、主要インフラを任せていいのかと問い、人権問題などで批判される中国との関係強化が倫理的に問題だと述べている。同紙はまた、10月の習主席のロンドン訪問を何としてでも成功させたいイギリスの閣僚たちは、ビジネス欲しさに民主主義、表現の自由を語らない「新世代の欧州政治家のビジョン」を中国メディアに見せることになると皮肉る。そして、訪米した習主席を冷やかに扱ったオバマ大統領の態度とは、かなり違ったものになると述べている。

FTは、中国との特別な関係を作ることは、「国の繁栄と安全は、開かれた、ルールに基づく国際システムの維持の上に成り立つ」という1945年以来アメリカによって保証されてきた体制から外れることだと述べる。経済と安全保障のバランスを取るのは難しいが、危険な原子力プログラムへの数十億ポンドの投資だけが、イギリスの国益ではないはずだと指摘している。

◆中国からの投資は絶好のチャンス
一方、中国の投資を歓迎する声もある。シェフィールド大学のキース・バーネット卿は、テレグラフ紙に寄稿し、イギリスには新しい形態のエネルギー、よりよい交通網、都市や住宅の再生が必要だとし、中国からの投資はイギリスにとってのチャンスだと主張する。

同氏は、中国がイギリスに投資する動機が分からないと恐れる人もいるが、ヒースロー空港や水道会社のテムズ・ウォーターにはすでに中国の資本が入っていると説明。ロンドンやイングランド南東部と、北部との経済格差を縮めるため政府が提案する「ノーザンパワーハウス(イングランド北部経済振興策)」にも大量の資本注入が必要になるとして、中国の投資に期待している。
NewSphereより

0 件のコメント:

コメントを投稿

日産ケリー前代表取締役の保釈決定 保釈金7000万円 東京地裁

金融商品取引法違反の罪で起訴された日産自動車のグレッグ・ケリー前代表取締役について、東京地方裁判所は保釈を認める決定をしました。検察はこれを不服として準抗告するとみられますが、裁判所が退ければ、ケリー前代表取締役は早ければ25日にもおよそ1か月ぶりに保釈される見通しです。一方、...