東シナ海の尖閣沖で、中国が日本に大きなプレッシャーを与えてきていることは、みなさんもすでにご存知だと思います。
尖閣周辺に約230隻の中国漁船、武装した海警船も
2016年8月6日 17:34 JST
[東京 6日 ロイター] – 外務省は6日、東シナ海の尖閣諸島(中国名:魚釣島)の接続水域で中国の漁船約230隻と海警局の船6隻を確認し、中国側に抗議したと発表した。これほどの多くの中国漁船が同接続水域に入るのは異例。海警局の船のうち、3隻は武装しているという。
外務省のアジア大洋州局長は同日午前、在日中国大使館の公使に対し、領海内に入らず、接続水域からも退去するよう求めた。さらに、一方的に緊張を高める行為だとして強く抗議した。
これについて、軍事的に対決姿勢を徹底的に見せるというものから、一緒に酒を飲み交わすまで(?)、日本側にとっては様々なオプションがあるという意見があるでしょう。しかし、現実的に考えてみると、日本政府ができることといえば、残念ながら「外交チャンネルを通じて抗議する」ということくらいでしょうか。
実際に上の記事でもわかるように、日本政府はとりあえず抗議はしているみたいですが、本気で尖閣をとりにきている相手には、これもほとんど意味をなさないでしょう。
かくして私は、尖閣事案については非常に悲観的でありまして、専守防衛で軍事的脅しの裏付けも低い日本が、このように「サラミスライス」的に既成事実を積み上げてくる中国側の動きを抑止することは無理だろうと見ています。
ただし絶対に行われないだろうが、ひとつだけ中国側にとって強力な抑止効果となる可能性のあることを想像しないわけでもありません。
それは「相手と同じことをすること」です。
さて、ちょっとここで話を飛ばします。「テーラード抑止」という言葉があります。これは冷戦中にアメリカの国防関係者や戦略家の間で発展させられた抑止(deterrence)の考え方を踏まえて出てきたものです。
もちろんアメリカにとって、冷戦中の最大の敵は「ソ連」という超大国。そして相手は核武装をしているわけですが、こちらも核兵器を持っているので、お互いに牽制しあってバランスがうまれて戦争を防ぐ、という考え方が「核抑止」(nuclear deterrence)の土台になってました。
ところがソ連が崩壊して冷戦終了。そうなると、いままでソ連というドラゴン並の大きな敵を牽制するためにもっていた大量の核兵器が無駄になり、今度はテロリストや「ならずもの国家」など、いわばヘビのような小規模な敵に対して抑止をすることをアメリカの国防関係者たちは考え始めました。
そこで出てきたのが、コリン・グレイと共にシンクタンクをつくるなど活躍していたキース・ペインという、これまた核戦略の専門家のつくった「テーラード抑止」(tailored deterrence)という考え方です。
「なんだか専門的な言葉だな…」とお感じの方もいらっしゃると思いますが、そのアイディアは意外に簡単。具体的にどういうことかというと、個別の敵に適合させて(仕立てる、テーラードする)、こちら側がどのような手段で抑止して行くのかを決めていこう、ということなのです。
もちろん相手は「ソ連」というたった一つの相手ではなく、アメリカに危害を及ぼしてくる可能性のある多種多様な潜在的な敵なので、そもそも彼らが何をしてこようとしているのか、その意図を知らなければなりません。そうなるとただこちら側の手段だけではなく、必然的にその相手を調べるためにインテリジェンスの機能が重視されてきます。
それはとにかく、この「テーラード抑止」という考え方は、孫子でいう「敵を知り」を徹底して行い、相手のいやがる手段を研究して、それに合わせてこちらも対抗手段を考えて牽制しましょうね、ということなのです。
さて、これを現在の尖閣周辺に大量の船をよこしている中国に当てはめて考えた場合はどうなるでしょうか? ひとつの案ですが、日本も中国の真似をして、たとえば大量の漁船を連れた海保(と海自)の船が、日中中間線付近で操業している中国のガス田の構造物(レーダー搭載)の付近を航行する、というのはどうでしょうか?
もちろん日本政府はこのようなことを実際はできませんし、はじめからする気もないでしょう。
ただし中国というのは、以前から「自分たちがやられたらいやがることをあえてやる」という、なんというか「無理やりなお互いさま」を手段として使ってくることが多いのです。ならば日本もそれにならって、まさに中国のやり方に適合(テーラード)させて、同じように大量の漁船を連れて中国の領海付近に行く、というのも一つの抑止手段となる可能性があるのです。
「いやはや、そんなの無理ですよ、日本にはできませんよ」というのはごもっともでしょう。ただしみなさんに戦略的に考えていただきたいのは、ただいたずらに抗議をするだけでなく、戦線を拡大したり、あえて相手のいやがることを想像力を働かせて考える、ということなのではないでしょうか?
戦略に特効薬はありません。ただし柔軟な考えで様々なオプションを考えておくというのも、いまの尖閣事案に直面する日本政府には必要なのです。 MAG2NEWSより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2016年8月15日月曜日
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