2016年8月7日日曜日

誤射でバレてしまった台湾製「空母キラー」 ミサイルの驚きの高性能とは

台湾で7月1日、停泊中のミサイル艇が対艦ミサイル「雄風3」を誤って発射し、命中した漁船の船長1人が死亡する事故があった。その後の調査や報道で、台湾海軍の規律の緩みが浮かび上がる一方、「空母キラー」と呼ばれるこのミサイルの性能が注目されることになった。超音速で飛行し、小さな漁船を自ら探知して船体の中央部に命中した雄風3の性能の高さが、図らずも内外に示された形だ。

■陰謀論も

事故は7月1日の朝早くに起きた。戦闘能力試験を受けるため、南部・高雄市の左営海軍基地に停泊していた錦江級ミサイル艇「金江」(約500トン)が午前8時15分、1発の雄風3を誤射。ミサイルは中国方向に約40カイリ(約74キロ)飛行し約2分後の同17分、澎湖諸島の南東沖を航行中の漁船に命中、木造の船体を貫通し、その後、約2カイリ(約4キロ)飛行して海中に没した。ミサイルは操だ室を直撃しており、船長が死亡、船員3人が負傷した。

着弾地点は、台湾海峡の中間線まで約66カイリ(約125キロ)。台湾海峡(幅約130~410キロ)には多数の船舶が航行している上、有効射程約140キロ、延長型で射程約300キロ超とされる雄風3なら、中国沿岸部まで飛び中国の艦船に命中してもおかしくない。台湾への武力行使の口実ともなりかねず、週刊誌「壱週間」は「あと少しで台湾海峡の戦端を開くところだった」と表現した。当日の台湾海軍の記者会見でも、中国軍の反応を問う質問が出たが、海軍は「いかなる異常もない」と強調した。

この日は中国共産党の結党95周年の記念日でもあり、事故直後には、台湾独立色の強い民主進歩党への政権交代に不満を持つ軍内部が、蔡英文政権を困らせるためにあえて中国を挑発したのでは、という陰謀論もささやかれた。折しも、蔡総統は中南米外遊中で不在。雄風3が「空母キラー」と呼ばれる“敏感”な兵器であることも、陰謀論に拍車をかけた。

 ■陰謀よりひどい実態

海軍は当初から「人為的なミスが原因」としていたが、その後の調査や報道で、単なるミスに止まらない、安全管理や発射手順を軽視した規律の緩みが次々に明らかになった。

実際に発射してしまったのは、34歳の「ミサイル操作手」。陸軍の軍曹に相当する「中士」の階級のこの下士官は、操作手になって3年で初めての戦闘能力試験を前に、手順を復習したいと申し出た。緊張で寝不足のまま発射管制装置がある「戦闘情報室」に入室。手順を確認していたところ、誤って装置を実戦で使用する「発射モード」にした上で、目標地点の座標を軍の訓練水域がある澎湖諸島沖として入力、発射ボタンを押してしまったという。この間、上官の発射管制士官長(曹長)は席を外し、戦闘情報室には操作手1人しかいなかった。

発射装置にカギを挿したまま上官が不在にしたことに加え、通常の手順と異なり、甲板に設置されたミサイル発射機4基全てに電源コードを挿したままになっていたことで、発射できる状態になっていたことが判明。海軍は直ちに海軍司令や艦長ら7人の処分を発表し、司法当局に捜査を委ねた。

外遊から2日に戻った蔡総統は、複数の安全管理手順が全て無視されていたことは「想像しがたい」とした上で「このような事件は絶対に許せない」と非難。「規律の緩みの表れだ」と再発防止を厳命した。

■驚きの性能

雄風3は、台湾の国防部(国防省に相当)系列の研究開発機関「中山科学研究院」が自主開発した超音速の対艦ミサイル。同研究院は詳細を公開していないが、超音速であることや、シースキミングと呼ばれる海上を超低空で飛行する方法で目標に接近すること、終末段階はアクティブレーダー方式で目標を探知すること、射程は「100キロ超」であることなどを公表している。

シースキミングは目標となる敵艦の防御時間を短くし命中率を高める方法。同研究院の元開発担当者、張誠氏は台湾メディアに対し、最大速度はマッハ2・5~3になると明らかにした。

2007年から成功級フリゲート艦や錦江級ミサイル艇への搭載が始まり、昨年就役した高速コルベット艦「沱江」にも装備されている。同研究院は陸上発射型への転用も示唆しているが、現在のところ配備は確認されていない。

同じく超音速対艦ミサイルでは、ロシアのSSN22サンバーンが有名だが、張氏によると、雄風3は全長(約6メートル)、重量(推定1500キロ)ともにほぼ半分のサイズ。このため、小型のミサイル艇にも搭載可能で、幅広い運用が可能になる。「空母キラー」の異名を持つものの、中国海軍が台湾侵攻時に使用する大型戦闘艦艇全てが対象で、台湾軍が整備を進める「非対称戦力」の象徴でもある。

大型艦艇を想定した雄風3が今回、終末段階で自ら小型漁船を探し出し、その中心部に命中したことで、極めて精度が高いことが明らかになった。漁船は過去に違法な電気ショック漁法で摘発されたことがあり、電気を発生させる装置をミサイルのシーカーが演習で使用する標的板と誤認した可能性が指摘されている。

また、誤射の検証過程で、ミサイルの発射モードに「単発」と「双発」があることも判明。双発モードでは、同一目標に2発を同時発射して相手側に迎撃する時間を与えない「飽和攻撃」を行うことも分かった。張氏は雄風3の性能について「世界の超音速対艦ミサイルの中で最強」としている。

大型艦では米海軍の中古品が中心の台湾海軍だが、今回の誤射事件で、中国の脅威に対し、極めて高度な兵器を自主開発して対抗していることが明らかになった。yahooニュースより

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