「誰か行ける人、いてませんか?」
大阪府門真市にある運送会社「エコトラック」で配車を担当する空閑 祐樹さん(30)は朝、出勤すると同時に電話をかけ始めた。電話の先は、府内や奈良、愛知県などの同業者だ。
7月に入って以降は真夏日が続き、荷主の家電メーカーがエアコンや冷蔵庫の出荷を一気に増やした。ボーナスの支給に合わせて量販店の商戦が活発化する夏場は、年末や年度末と並んで1年で最も商品が動く。自社の約100人の運転手ではとても足りない。
そんな時、協力関係にある約20社に助けを求めるが、他社に先んじられることも少なくない。空閑さんによると、「どこも人手が足りず奪い合いの状態」だ。
同社は低公害トラックをいち早く導入し、大口顧客も得て業績を伸ばした。若手の育成にも力を入れ、社屋を建て替えて女性用トイレを新設。今春、高卒の女性2人を採用した。
だが、池田雅信社長(53)の表情は厳しい。「ほとんどの若者はトラックに乗りたがらない。人手不足は、この先ずっと続くよ」
トラック運送業界は1990年の規制緩和で新規参入が進み、事業者が急増した。過当競争のあおりで運転手の平均年収は減り、大型トラックの場合、ピーク時(97年)の510万円に対し、2015年は437万円。全産業の平均より50万~60万円も低い状況が続いている。
このため、若者らは「同じ肉体労働なら」と条件の良い建設業などに流れ、ここ10年、全国の運転手数は80万人前後で横ばいだ。高齢化も顕著で、国土交通省の昨秋の調査では、30歳未満はわずか3・4%、40歳以上は78・2%に上る。
一方で、インターネット通販が拡大し、「少量・多品種・多頻度」の小口輸送は増え続けている。ますます人手不足は深刻となり、この国交省調査では、事業所の68・8%が運転手不足を訴えている。
大阪府トラック協会には、加盟会社から「何とかならないか」との悲鳴がたびたび寄せられる。佐藤高司交通・環境部長は「景気が回復しても、運転手の給与も労働時間も改善できない。業界の努力だけではもう無理だ」とため息をつく。
大阪府寝屋川市の国道1号沿いにある休憩施設「大阪トラックステーション」。平日の夜、約50台のトラックが並び、運転手らが車内で体を休めていた。
運転手歴20年という男性(48)は、大阪と福岡を週3回往復して建設資材などを運ぶ。収入を増やしたくて、1年前に長距離を請け負う今の会社に移った。
午後6時頃に出発し、高速道路を飛ばす。少しでも距離を稼ごうと、山口県に入るまで十分な休憩は取らない。午前2時を過ぎると眠気がピークに達し、力いっぱい顔を平手打ちしても効かない。「目を開けたまま意識が飛んだこともある。その間にどれぐらい走ったのか、わからなかった」
心配なのは安全面だ。今年3月には広島県の山陽自動車道で、居眠り運転のトラックが多重衝突事故を起こし、2人が死亡した。
厚生労働省は過剰労働を防ぐため、▽1日の拘束時間は原則13時間以内▽4時間運転すれば30分以上の休憩を取る――などの基準を定めている。だが、国交省の昨年の調査では、500キロを超える運行の79・6%で拘束が13時間を超え、4時間以上運転し続けるケースも32・7%あった。
男性に基準を守っているかと聞くと、こう返された。「基準を守っていたら、荷主が求めている時間に間に合わないよ」
◇高卒確保へ準中型免許新設
運転手不足の解消に向け、国も対策を講じ始めた。
現在、中型免許の取得には「普通免許の取得(18歳以上)から2年を経過」という条件があるが、道路交通法を改正し、18歳から取得できる「準中型免許」を新設。主に高卒者の確保につなげる考えで、2017年3月に施行予定だ。
さらに、トラックの全長規制を「最大25メートル」に緩和し、荷台を連結して一度に運べる荷物を増やせるようにする方針も打ち出した。
女性の進出への期待は大きい。女性運転手を「トラガール」と銘打ってPRし、積極的な採用を促すとともに、荷役の負担を減らすなど、働きやすい環境づくりを呼びかけている。
順天堂大学の川喜多喬・特任教授(キャリア・人材開発論)は「大災害で物流が止まると、人々はトラック輸送のありがたみを実感するが、日頃は当然のことと考え、高校で運送の仕事を教わる機会もない。運転手の待遇の改善に加え、『物を運ぶ仕事』の大切さに理解を広めていくことが必要だ」と話す。 読売新聞より
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