政府と中央銀行を統合
ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学教授のスティグリッツ氏が来日し、経済財政諮問会議で、財政政策による構造改革を進めるべきだと提言した。
そのなかでスティグリッツ氏は、政府や日銀が保有する国債を「無効化」することで、政府の債務は「瞬時に減少」し、「不安はいくらか和らぐ」と発言した。
実は彼のこの主張は、日本の財政の真実を明らかにするものだが、具体的になにを意味するのか。
スティグリッツ氏のこの提言には様々な前提がある。まず、「統合政府」とよばれる考え方を押さえておきたい。これは財政や金融問題について、政府と中央銀行を一体のものとして考えることを指す。
ちなみにこれは「中央銀行の独立性」とは矛盾しない。中央銀行の独立性とは、政府の経済政策目標の範囲内でオペレーションを任されているという意味で、民間でいえばグループ企業が独立して営業する権利を持っているのと同じである。
この統合政府の財政状況を示すバランスシートでは、右側の「負債」はすなわち国債残高を示す。重要なのは左側の「資産」であるが、統合政府の場合この資産に日銀が保有する国債が含まれるのだ。
国の借金1000兆円のウソ
右側の国債残高はおよそ1000兆円、左側の日銀保有国債は約400兆円である。これらを「無効化」すると、国債残高は「瞬時に減少」するとスティグリッツ氏は主張しているのだ。
ちなみに「無効化」とは内閣府が用意した資料の和訳によるもので、筆者は「相殺」と訳すべきだと考えている。というのも、スティグリッツ氏が書いた英文原資料には「Cancelling」とあり、これは会計用語で「相殺」を意味するからだ。国全体の国債と、日銀保有の国債は「相殺」できると考えるとわかりやすい。
要するに、スティグリッツ氏は「国の借金が1000兆円ある」という主張を鵜呑みにしてはいけないと警告している。
この考え方をさらに進めると、政府の連結資産に含められるのは、日銀だけではない。いわゆる「天下り法人」なども含めると、実に600兆円ほどの資産がある。これらも連結してバランスシート上で「相殺」すると、実質的な国債残高はほぼゼロになる。日本の財務状況は、財務省が言うほど悪くないことがわかる。
スティグリッツ氏は、ほかにも財政再建のために消費税増税を急ぐなとも言っている。彼の主張は、財務省が描く増税へのシナリオにとって非常に都合の悪いものなのだ。
彼の発言は重要な指摘であったが、残念ながら、ほとんどメディアで報道されなかった。経済財政諮問会議の事務局である内閣府が彼の主張をよく理解できず、役所の振り付けで動きがちなメディアが報道できなかったのが実際のところだろう。
『週刊現代』
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