2017年4月28日金曜日

アメリカの「金正恩 斬首作戦」が絶対に不可能な理由

ビンラディンのようにはいかない


北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射実験を行なうたびに、米国による北朝鮮への武力行使の可能性が取り沙汰される。最近では、ステルス戦闘機などによる精密爆撃や、特殊部隊の急襲などにより最高指導者の金正恩を殺害するという「斬首作戦」が頻繁にメディアに登場するようになった。

韓国では2017年度中に「特殊任務旅団」の創設を計画している。おそらく、これが「斬首作戦」を実行する部隊ということになるのだろう。注意すべき点は、韓国はあくまでも「有事」における戦争指導部の「斬首作戦」を前提としていることである。つまり米国が考えているような、平時における作戦を想定しているわけではないのだ。

米国はこれまで、北朝鮮に対しては大規模な戦闘に発展するような作戦を実行できなかった。そのため、小規模な「斬首作戦」であれば実行可能であるかのように思えてしまう。

それは、中東での作戦で成功を収めてきたという実績があるからなのだろう。例えば、米軍は2011年にパキスタンで、国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディンの殺害に成功している。

しかし、北朝鮮において、同様の手順による作戦を実行することは不可能であろう。なぜなら条件がまったく異なるからだ。たとえばビンラディンは平坦な砂漠に建つ施設に潜んでいたが、金正恩は首都・平壌の国防省の建物、もしくは中国との国境近くの白頭山中の地下深くにある指揮所に潜むとみられている。

平壌の国防省は小高い山の上にあるが、海に近いためヘリなどで侵入はしやすいものの、民家を装ったビンラディンの隠れ家と違って、周囲には高射砲と対空ミサイルが配備してある。

白頭山の指揮所は、北朝鮮が「悪の枢軸」とブッシュ米大統領(当時)に名指しされた2003年のイラク戦争時、先代・金正日総書記が身を隠していた場所。レーダーに映らぬようヘリが低空で接近するのが困難なうえ、山あいの出入り口にミサイルが直撃しないよう手を講じてあると推測されると同時に、やはり周囲には高射砲と対空ミサイルが設置してある。いずれもヘリで強襲するわけにはいかず、少人数で作戦を成功させることは非常に困難だ。金正恩が恐れているのは、空母と飛行機・ヘリよりも、やはり米地上軍なのである。

それでも、ウサマ・ビンラディン殺害作戦に参加した米海軍特殊部隊「DEVGRU」(旧・米海軍特殊部隊チーム6)を、今回の米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」に参加させたことは、金正恩へのメッセージにはなったようである。演習中に発表された、朝鮮人民軍総参謀部報道官の「われわれ式の先制特殊作戦を実施する」との声明(2017年3月26日)がそれを裏付けている。

ただし、金正恩は、アルカイダやISIL(イスラム国)のようなテロ組織のリーダーとは決定的に違う。金正恩は国連に加盟する国家の最高指導者である。さらに言えば、金正恩はテロ組織とは違い、大量破壊兵器(核、化学、生物兵器)を大量に保有し、その使用についての権限を持っている。

なぜ米国はこれまで武力行使に踏み切ることが出来なかったのだろうか。その理由を考えるうえで、1994年の「第一次核危機」でのクリントン政権の検討結果が一つの参考になる。このとき米朝は核疑惑問題で一触即発の危機に直面しているからだ。

1994年5月18日、アメリカ軍の現役大将や提督が招集され、朝鮮半島での戦争に備える異例の会議を開かれた。会議での検討の結果、朝鮮半島で戦争が勃発した場合、最初の90日間でアメリカ兵の死傷者が5万2000人、韓国兵の死傷者が49万人に上るうえ、北朝鮮側も市民を含めた大量の死者が出る。そのうえ財政支出(戦費)が610億ドル(現在のレートで約6.7兆円)を超えると試算された。

さらに、朝鮮半島で全面戦争が本格化した場合、死者は100万人以上に上り、アメリカ人も8万から10万人が死亡する。また、米国が自己負担する費用は1000億ドル(同約11.1兆円)を超え、戦争当事国や近隣諸国での財産破壊や経済活動中断による損害は1兆億ドル(同約111兆円)を上回ると試算された。

この危機は、当時の金日成主席と会談したカーター米元大統領が「北朝鮮が核凍結に応じた」の第一報により、土壇場で終息したのだが、どちらにしても途方もない損害をもたらす攻撃計画は実行に移されることはなかったであろう。

北朝鮮はソウルを「火の海」にできるのか

では、逆に北朝鮮側からの先制攻撃はあるのか。その可能性もゼロだといっていい。なぜなら、北朝鮮には勝ち目がないからである。

北朝鮮は日本を攻撃するために200基以上(300基という説もある)の弾道ミサイル(ノドン及びスカッドER)、韓国を攻撃するために600基の弾道ミサイル(スカッド)と、ソウルをピンポイントで攻撃可能な多連装ロケットを保有している。

このように北朝鮮軍は攻撃手段を大量に保有しているが、問題なのは破壊力と命中率である。例えば、飛行場を攻撃する場合は滑走路に命中させなければならないが、通常弾頭(高性能爆薬)の弾道ミサイル1基で破壊可能な面積は、最大700平方メートル(バスケットコートを1面程度有する体育館に相当。東京ドームは46,755平方メートル)に過ぎないうえ、命中率が低い弾道ミサイルで滑走路を破壊するのは困難である。

たとえ破壊できたとしても、被害が復旧される前に繰り返し攻撃する必要がある(航空自衛隊の場合、約4時間で離着陸可能な程度に復旧可能)。化学兵器を搭載するのであれば、化学兵器の効力を持続させるため、同じ目標に繰り返し撃ち込まなければならない。しかも、目標の風上に落下させなければまったく意味がない。

1991年の湾岸戦争では、イラクがイスラエルへ通常弾頭の弾道ミサイルによる攻撃を行った。イスラエルは42日間で18回のミサイル攻撃を受けたが、このうち10回の攻撃では負傷者は出なかった。最終的に直撃による死者は2人、負傷者は226人であった。その他にも間接的な被害として、ミサイル警告間の緊張から5人が心臓麻痺で、7人がガスマスクの取扱いミスで死亡した。さらに、222名がアトロピン(神経剤に対する治療薬)使用の結果として治療を必要とし、530人がヒステリーや精神障害の治療を受けた。

一方、物的損害は、平屋6142棟、ビル1302棟、公共施設23カ所、商店200軒、車50台が破壊された(これらには、ミサイルの直撃を受けたものの他に、スカッドや米軍の迎撃ミサイルの破片による被害が含まれている)。イスラエルが受けた被害は、決して小さいものではない。だが、イスラエルの市街地は一部で火災は起きたものの、北朝鮮の宣伝文句に出てくるような「火の海」にはならなかった。

もちろん大都市に落下しなくても、弾道ミサイル攻撃が起きれば、一般国民の心理的な圧力は相当大きなものとなる。しかし、冷静に分析してみると、北朝鮮が保有する弾道ミサイルの数は、軍事的には(核弾頭を搭載しない限りにおいては)、多いようで実は少ない。ひとことでいえば「足りない」のだ。 ピレジデントオンラインより

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