2017年4月19日水曜日

北「核実験」月内にも強行か 突き付けた「3つの宣言」、トランプ氏と習氏が交わした“密約”

北朝鮮が「6回目の核実験」を先送りした。ドナルド・トランプ米大統領の軍事的圧力と、習近平国家主席率いる中国の経済制裁の構えに屈したとの見方もあるが、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は核・ミサイル開発を諦める素振りはない。次の「Xデー」として注目される北朝鮮の「建軍節」(朝鮮人民軍創建記念日、25日)と、緊張状態が長期化する兆しとは。安倍晋三首相と、マイク・ペンス米副大統領は18日、朝鮮半島問題で会談。ジャーナリストの山口敬之氏が核心に迫った。

日本政府は今月初めまで、「金日成(キム・イルソン)主席の生誕105周年」の15日に核実験が行われる可能性を「90%以上」とみていた。その根拠は、着々と準備が進む北東部豊渓里(プンゲリ)にある核実験場の分析だけではなかった。

異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏を暗殺したとされる正恩氏には、儒教社会で最も忌み嫌われる「兄殺し」の汚名が突き付けられていた。「建国の父」である祖父、日成氏の誕生日「太陽節」で、リーダーとして最大級の尊崇の念を内外に示す必要があったのだ。

そもそも、北朝鮮の核開発は、日成氏が1960年代に「強盛大国」の名の下で着手したものだ。「『6回目の核実験』の成功こそが、最大の供物となったはずだった」(政府関係者)

こうした暴挙の兆しに、中国は今月初旬までに北京の北朝鮮大使館を通じて、正恩政権に対し、(1)核実験は絶対に行ってはならない(2)(核放棄のための)6者協議に復帰する(3)核実験を強行すれば、中国は米軍の行動を黙認する-という「3つの宣言」を突き付けた。

3つの宣言への、北朝鮮の回答は明確だった。米フロリダ州パームビーチで米中首脳会談(6、7日)が行われる前日、弾道ミサイルの発射を強行したのだ。正恩氏による、中国への明確な「ノー」の意思表示だった。

この段階で、日本政府は「15日の核実験は、もはや避けられないのではないか」と半ば覚悟を決めていた。

北朝鮮はなぜ、準備万端のはずの核実験を「延期」したのか? この背景を分析するために欠かせないのが、米中首脳会談から1週間の間に起きた3つの事象だ。

トランプ氏はまず、米中首脳会談の食事会の最中に、シリア攻撃を実施した。北朝鮮と化学兵器やミサイルの開発で連携してきたシリアに、巡航ミサイル「トマホーク」59発を撃ち込んだ。トランプ氏の「軍事行動をいとわない」という強い意思が、習氏と正恩氏に伝わったはずだ。

次に、トランプ氏は「経済制裁の強化」と「核実験の阻止に向けた中国の目に見える行動」を習氏に要求した。経済制裁では、米国が最も批判するパイプライン経由での「原油供給」に加え、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源となっている中国企業の徹底的な排除を求めた。

首脳会談の最終日、トランプ氏は習氏に「1週間の猶予」を与えたという。その最終日は、まさに、日米両政府が核実験が強行される可能性が最も強いとみていた15日の前日だった。

追い打ちをかけるように、トランプ氏は11日、ツイッターで2つの発信を行った。《北朝鮮は問題を起こそうとしている。中国が協力しないなら、われわれで問題を解決する》という従来の主張と並んだ、次の文言に政府関係者は目を疑った。

《中国が(北朝鮮問題で)きちんと行動するなら、彼らは米中貿易でもよい条件を得るだろう》

トランプ氏は、大統領選で「アメリカファースト」を掲げ、中国を事実上の仮想敵国とみなしていた。習氏に明確な「アメとムチ」を示したことで、トランプ氏の北朝鮮問題解決への本気度を確信した。

習氏は翌12日、トランプ氏に電話をかけ、自らに課せられた「宿題」の答えを伝えた。この詳細は明らかにされていない。だが、トランプ氏は電話会談の直後、米ウォールストリート・ジャーナルのインタビューで、驚くべき発言をした。

「中国は為替操作国ではない」

トランプ氏は大統領選で「就任初日に中国を為替操作国に認定する」と主張し、中国への懲罰的関税を示唆していた。その主張を、あっさりと取り下げたのである。米政府関係者は「北朝鮮問題とは無関係」との立場を示しているが、それを鵜呑みにするメディアはない。

そして、世界の目が北朝鮮に集まった15日、「6回目の核実験」は行われなかった。太陽節では、さまざまな種類の弾道ミサイルが登場する、軍事パレードが披露された。

政府関係者は「中国の圧力で、北朝鮮は核実験の延期を余儀なくされたのではないか。トランプ氏は現時点では及第点として『中国は為替操作国ではない』と発言した。15日の軍事パレードは本来、25日の『建軍節』に予定されていたものだろう」と分析している。

軍事パレードを閲兵する正恩氏は、スーツに白いネクタイ姿だった。戦時体制を意識して、軍服に起源をもつ人民服を脱ぐことがなかった父、金正日(キム・ジョンイル)総書記とは対照的な装いに、正恩氏の宥和的な意識をくみ取ろうとする関係者もいた。

これに符合するのか、平壌(ピョンヤン)で11日、最高人民会議(国会)が開かれ、「外交委員会」が19年ぶりに復活した。6人の委員には、「6カ国協議」の首席代表を務めた金桂寛(キム・ゲグァン)第1外務次官が含まれていた。中国が求めた「6者協議への復帰」に向けて、北朝鮮が準備に入ったことを連想させるような発表だった。

しかし、北朝鮮は関係国の淡い期待を打ち砕いた。

16日早朝、東部新浦(シンポ)から中距離弾道ミサイルを発射したのだ。ミサイル発射の兆候は前日、東京・新宿御苑で「桜を見る会」の準備をしていた安倍晋三首相にも緊急連絡として届けられていた。

このミサイル発射は、正恩氏の「ベタ折れするつもりはない」という、日米中の関係者への強いメッセージとして受け止められた。

正恩氏は、核実験を中止したのではなく、軍事パレードと日程を入れ替えただけではないのか。だとすれば、トランプ政権が「レッドライン」(越えてはならない一線)として設定し、中国が「3つの宣言」で通告した「6回目の核実験」が強行されることも否定できない。

トランプ氏の本心も、北朝鮮とは大きく違う。

仮に、北朝鮮が核実験を控えて6者協議に復帰しても、トランプ氏がそれで満足するはずはない。国際原子力機関(IAEA)の査察を含む、「検証可能で不可逆的な核・ミサイル放棄」に正恩氏が踏み切らない限り、トランプ氏は「軍事オプション」という選択肢をテーブルから降ろすことはない。

官邸中枢の1人は17日、私の取材に対し、疲れ切った表情でこう嘆息した。

「朝鮮半島情勢は緩和されることはなく、極度の緊張状態を維持したまま、長期戦に突入する可能性が出てきた」 夕刊フジより

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