2017年4月23日日曜日

北朝鮮を止められない中国 ー 核放棄させる可能性はゼロ

朝鮮半島での武力行使の危険が現実味を帯び始めた。核・ミサイル開発を止めなければ、北朝鮮への武力行使を含む「あらゆる選択肢」をちらつかせるトランプ米政権に対し、平壌は中距離弾道ミサイルの発射実験で応じた。危機を回避させられるのは、米中両国しかないと考えがちだがそれは甘い。なぜか。中国こそ北朝鮮を説得できる唯一の国という期待は、過去の「虚構」にすぎないからだ。
 
「お手上げ状態」の北京
 
「北のメンツを立てながら核を放棄させられる可能性はゼロだ」 こんな見立てをするのは、中国の安全保障問題の第一人者、南京大学の朱鋒・国際関係研究院長。来日中の17日、都内で筆者のインタビューに答えた。彼はその理由として、金正恩委員長の父親の金正日氏との違いを指摘する。

「父親は米中日ロなどの大国が共同で核開発に反対する中、核兵器保有は難しいと判断をした。一方、正恩は現実から遊離した独善的な行動に走っている」

と、あからさまに批判する。 「有名無実」とはいえ、中国と北朝鮮は法的には軍事同盟関係にある。学者という「民間の立場」ながら、「友好国」指導者への遠慮のない評価。それは中朝関係が想像以上に冷え込み、北への説得を期待される北京も、実は成す術のない「お手上げ状態」にあることを物語る。東アジアの平和を脅かす米朝のチキンゲーム。トランプも金正恩も、先にゲームを降りれば「弱い指導者」として権威を失墜するから、簡単には譲歩できない。

米原子力空母カールビンソンはまもなく、朝鮮半島に接近しゲームは一層緊迫する。朱氏にあえて「北のメンツを立てる方策は?」と問うたのは、1994年の核開発危機の際、周辺国は、北朝鮮に軽水炉と重油燃料を提供する「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」という枠組みを提供し、核開発を放棄させる「ニンジン」を差し出したからだった。

中国指導部内の対立で戦争状態は放置
 
中国は、米国の軍事攻撃を不可避と見ているのか。 やはり来日中の于鉄軍・北京大学国際戦略研究院副院長に聞いた。于氏は「北が核実験を強行する可能性は否定できない。そうなれば米軍は北の軍事施設へのピンポイント攻撃を実行する恐れがある」とみる。朝鮮戦争以来の危機、最悪のシナリオだ。「米国が軍事攻撃したら中国はどう出るのか」。そう質問すると、しばらく答えあぐねた末、于氏はこう答えた。

「その場合、中国内で意見が割れる恐れがある。北朝鮮と米国のいったいどちらが北京にとって本当の脅威なのかという意見の違い」

これまた想像するに恐ろしいシナリオだ。仮にそれが、北京の指導部の意見分裂を意味するとすれば、戦争状態が放置される危険すらあるからだ。 先の朱氏にも、「第二次朝鮮戦争」の見通しを聞いた。

「朝鮮戦争へ中国が介入する可能性は低い。米中双方ともに戦争をしたくないのが共通認識。戦争の可能性を完全に排除できないのは、東アジアはまだ冷戦構造を引きずっているからだ」

と、比較的楽観的な答えが戻ってきた。彼はさらにこう強調した。

「中国の認識変化にぜひ注目してほしい。北の核は、中国にとっても重大な脅威という認識を持っている。習近平指導部は明らかなシグナルを発している。かつてこんな見方をすれば売国奴とののしられたものだ」 中朝関係と言えば血と血で結ばれた「血盟関係」と形容されてきた。それは共産主義封じ込めの米戦略打破のための「イデオロギー的絆」とされる。しかし、中国側は北朝鮮が初の核実験を実施した2006年ごろから「北は言うことを聞かない。影響力を行使しろというがそんな影響力はない」と公言するようになった。中国式の改革開放政策に北朝鮮の生き残りの道を見いだした張成沢(金正恩の叔父)の処刑によって、双方の関係は国益と国益がせめぎ合う「普通の国と国」の関係になった。
 
水面下で機能する米中関係
 
悲観的見通しの中、北朝鮮問題で協調する米中関係は、わずかに明るい材料と言える。4月初めの首脳会談で2人は「北朝鮮の核開発は深刻な段階に達した」との認識を共有し、核開発抑制のために両国が協力を強化することで一致した。一時は、中国に喧嘩腰だったトランプ大統領だが、「習主席は協力したがっていると思う。北朝鮮から中国へ輸出されるはずの石炭を乗せた船はすでに返されている。中国はほかにも多くの措置も行うだろう」(4月13日)と語った。トランプにしても、「頼り」は北京以外にないのだ。 首脳会談に先立ち3月北京を訪問したティラーソン国務長官は「対抗せず、衝突せず、相互尊重でウィンウィン」の「新型大国関係」に基づき米中関係を構築すると述べた。16日には楊潔チ・国務委員がティラーソン氏と電話会談しており、米中連携は水面下で機能している。
安倍首相の不用意発言
 
東アジア150年の近現代史をみると、国際政治の主役の交代は鮮明である。日清・日露戦争はともに朝鮮半島の権益をめぐる争いであり、主役は日本とロシアだった。120年後の現在、ホットスポットは依然として朝鮮半島と変化はないが、中国と米国が日ロに替わる主役になった。日本の影響力は、94年危機と比べても一段と下がったことを我々は自覚した方がいい。一例を挙げる。 安倍首相は4月13日国会答弁で、北朝鮮がサリンをミサイル弾頭に搭載し地上に着弾させる能力を保有している可能性があると、脅威をあおった。外務省は11日、韓国滞在邦人へ海外安全情報を出し注意喚起した。いずれも北朝鮮の脅威を強調し、場合によっては「戦争の危険が」という警告と受け取れる。それなら新宿御苑でタレントや芸能人と花見で浮かれる場合ではなかろう。危機回避に向けた真剣さが疑われる不用意発言だ。「このタイミングでなぜ、こうした呼びかけをしたのか」「不安をあおる恐れがある」と疑問を呈したのは韓国政府だけではない。日本政府内でも「韓国が危険だと言っているようなものだ」との批判が出た。 朱氏は最後に、

「中米両国は首脳会談で良いスタートを切り、協力関係が始まった。米中ともストロングマンが主導権を握っているのは重要。米中だけでなく、日本と韓国を巻き込んで核問題に対処したい。われわれの指導者は決意と実行力を持っている」

と締めくくった。平壌に核実験を回避させ、危機を乗り切るのに成功すれば、トランプ登場で揺れた米中関係は、今後国際政治を左右するコアな関係になるだろう。 Yahoo!ニュースより

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