衆院選で自民党の「選挙の顔」として全国遊説に奔走した小泉進次郎筆頭副幹事長(36)は党の圧勝に貢献した。希望の党の代表を務める小池百合子東京都知事(65)の衆院議員時代の地盤であり、小池氏最側近の若狭勝氏(60)が出馬した東京10区に何度も入り、小池氏批判を繰り返した効果は大きい。結果的に若狭氏は比例復活もかなわず落選し、希望の党は空中分解の危機にひんしている。だが、当の小泉氏の表情はいまいちさえない。単なる照れ隠しなのか。そのワケとは。
「人は本当によく集まってくれた。でも(圧勝の)手応えはない。選挙結果と乖離がある」。衆院選から一夜明けた23日午後、党本部で全国遊説に関わった党職員をねぎらいに回った小泉氏は、選挙結果についてこう述べた。記者は若狭氏の落選を「小泉さんの功績ですね」と水を向けたが、「ものは取りようだから」とそっけない。
小泉氏の全国遊説の規模は安倍晋三首相(党総裁)と並ぶ。10日の公示日から21日の選挙戦最終日までの12日間で、小泉氏は計18都道府県、55会場で演説し、移動距離は約1万2913km(首相は計22都道府県、61会場、約1万2726km)。自民党によると、聴衆は計13万1000人だった。
どの会場でも1時間以上前から人が並び、小泉氏が登場すると歓声があがる。演説後、小泉氏は街宣車を降りて候補者と並んで歩くことが多く、毎回、握手を求め、スマートフォンや携帯電話で写真を撮影する人だかりの山ができた。
取材を通じ、小泉氏の人気に改めて納得した。街宣車では必ず360度見渡し、集まった聴衆に両手を振り続ける。自分の頭上に集まった人にも、行き交う車を運転する人にも、必ず視線を相手に合わせる。目を合わせ、笑顔を絶やさず手を振られて悪い気がする人はいない。選挙期間中、小泉氏にはテレビ各社のカメラが張り付き、連日、この様子が報道された。
演説の出だしもうまい。例えば「前のマンションの、カールの看板の隣の窓から手を振ってくれている人もいますね、ありがとうございます」「雨の中、子供を抱っこして傘を差さずに待ってくれている。私たちも傘を差すのをやめましょう」といった具合に聴衆の心をいきなりつかむ。
小池氏をターゲットにした野党批判も極めて戦略的で核心を突いていた。9月28日の衆院解散直後、小泉氏は本会議場脇で記者団の取材に応じ「小池さん、選挙に出ましょうよ。小池さんが出ないと有権者に(争点が)わかりにくい」と挑発した。10月1日には東京10区に隣接する「としまえん」(練馬区)で対話集会を開き、小泉氏はハロウィンにちなんで希望の党を「民進党のコスプレだ」とこき下ろした。
さらに衆院選が政権選択の選挙であることを踏まえ「(衆院選に)出れば昨年都知事になった中で都政を投げ出す無責任。出なければ、希望の党は民進党が党をなくしてまででき、小池さんが代表なのに首相にはなれない無責任だ」とも批判した。公示後は、小泉氏は希望の党の公約の一つ「満員電車ゼロ」に関し「遊説先の秋田県で『満員電車を見てみたい』といわれた」と紹介し、国政政党にもかかわらず都知事目線の政策を皮肉った。
一方、小泉氏は自民党支持層の“安倍嫌い”も意識した。街頭演説で「疑念を払拭し、真摯に説明を果たしていく選挙にしなければいけない」と発言し、安倍首相に説明責任を果たすよう求めた。首相が解散理由として名付けた「国難突破解散」を「私なら付けない」と否定した。内閣支持率が低迷する中、政権擁護一辺倒ではない小泉氏の演説は、ガス抜きの効果があったのではないか。
公示後最初の土曜日となった14日、選挙戦序盤情勢で自民、公明の与党優勢が伝えられた。同日夜、記者が小泉氏に手応えを聞くと、爽やかな笑顔は消え、疲れといらだちがない交ぜになったような表情を浮かべ、かすれた声でこう答えた。
「あちこちの選挙区に行っているが、結構自民党に厳しい声はある。緩んでいる場合じゃない」
小泉氏が一貫して厳しい姿勢を崩さなかった最大の理由は、党幹部として選挙で確実に勝利するためだ。だが、それだけではない。小泉氏の地元を含め、自民党への支持が盤石とはほど遠いことを肌身で感じていたからではないかと思う。
全国的な人気を誇る小泉氏だが、地元の神奈川11区の得票数でみると、支持に陰りが出ている。自民党が下野した平成21年の初当選時は15万893票、政権奪還した24年は18万4360票で全国2位、26年は16万8953票で全国1位に輝いた。しかし今回は15万4761票で、全国最多得票数を同じ神奈川県選出の河野太郎外相に奪われた。得票数を単純比較すると、自民党に猛烈な逆風が吹いていた8年前の得票数と同水準で、全国での“進次郎旋風”とは印象が異なる。
小泉氏は17日、自分のブログに地元の神奈川県横須賀市が発祥とされている「スカジャン」を着た姿で期日前投票をする姿を公開し、話題になった。「横須賀に対するあふれる愛」(小泉氏)をアピールしたが、全国遊説のため小泉氏が地元に戻れたのはわずか1日半。国民的な人気があっても、自分の得票には結びつかないジレンマがあった。
取材では、自民党公認候補の問題意識の欠如もあらわになった印象がある。小泉氏が応援に入った候補者の中には、自分の演説を「小泉さんが到着するまでの時間稼ぎ」と言い放った人がいた。小泉氏が演説会場に到着するまでの時間、集まった聴衆に近づいて握手したり、支持を訴えたりするわけでもなく、ただ立っているだけの人も少なくなかった。
北朝鮮問題や少子高齢化など山積する課題や憲法、国のあり方などを、熱意を持って語った候補者はどれだけいただろうか。
記者は選挙中、小泉氏の演説会場に来ていた人に自民党への評価を聞いたが、年代、男女を問わず「安倍さんと小泉さん以外、自民党ってよくわからない」と話す人が多かった。聴衆の多くは小泉氏見たさで集まっていた。そういえば、22日の投開票日、与党圧勝がわかった後も自民党本部に高揚感はまるでなかった。党幹部にも有権者にもリアリティーのない圧勝だったとしたら、問題は根深い。
小泉氏は選挙戦最後の街頭演説の場所に、第一声と同じ東京10区の池袋駅前を選んだ。政治家が国民に示す真の「希望」とは何か。小泉氏の演説がその一端を示している。
「北海道から沖縄まで1億2000万人がいたら、1億2000万通りの生き方がある。農業をやっている人がいれば漁業、林業の人もいる。都会で大企業で勤めている人、中小企業で働く人、自営業の人、専業主婦として家族を支える人、子供を育てながら共働きの人もいる。そうした、ひとりひとりの思いをくみ、昨日より今日、今日よりも明日がきっとよくなるという期待感を持ち、毎日を暮らせる。誰もが取り残されていると思うことなく、一度失敗しても、何度でも挑戦できる社会をつくるのが、真の国民政党であり、真の国会議員の役割だ」
意味がわかりにくいカタカナを並べ、「希望」を語った小池氏への皮肉以上に、身内の自民党に対する自戒の念を込めたような小泉氏の話しぶりが印象的だった。
産経ニュースより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2017年10月27日金曜日
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