人工知能(AI)で物流の生産性が一段と向上する。IHIが発売した荷下ろしロボットはパレットから段ボールを1時間に450個のスピードで下ろす。3次元(3D)のカメラシステムと、脳をまねた構造でデータの特徴を見つける深層学習を活用。インターネット通販隆盛のいま、荷下ろしロボットに世界で初めてAIを載せ人間に近づいた意義は大きい。
IHIは2017年12月に荷下ろしロボットを発売した。段ボールは通常、パレットに満載されてフォークリフトで搬入され、コンベヤーに載せ替えられて倉庫などにストックされる。ロボットは一連の中でパレットからコンベヤーに段ボールを下ろす作業を担う。
横浜工場(横浜市)に設置された新設備の見学希望者は引きも切らない。多関節ロボットのアームの先についた200個を超すシリコン製などの吸盤が、段ボールを空気で吸い上げ運んでいく。現在のところ25キログラムまで持ち上げられる。
IHIは米キネマ・システムズの3DカメラとAIの技術を核に、新たなシステムを共同開発してロボットに搭載した。人間の脳の構造をまねて計算を繰り返し、データの特徴を見つける深層学習のAIを完成させるため、数万通りの段ボールの画像を覚えさせた。
IHI産業システム・汎用機械事業領域の中山隆幸主幹は「日本で流通している段ボールにはほぼ対応できる」と話す。
3Dカメラはパレット上の段ボールをとらえる。このデータをもとに、AIがピッキングのたびに最上段の段ボールの位置・サイズ・向きを認識する。
密着して積みつけられた段ボールやテープなど付属物、柄のある段ボールの違いを認識する。その上で段ボールに吸着するポイントを定め、最適なアームの経路を定めることまで自動で行う。
単純作業はロボットの得意分野のように思えるが、段ボールは大きさも見た目も違い、従来のシステムでは検知が難しかった。荷下ろし作業で難しいのはまず、1種類の段ボールがすき間なく並べられている場合。段ボールと段ボールの境界がわかりづらいためだ。複数の段ボールが積まれている場合は、事前に積み方の情報が登録されていないと難しい。
従来は処理能力が1時間300個ほどだったが、450個に増えた。人間の900個よりは少ないが、休憩時間が不要など連続稼働できるため作業員を代替できるレベルになったといえる。
今回の荷下ろしロボットはハードとソフトが猛スピードで融合するうねりを示す。IHIは2年前、コマツやパナソニック、富士通も出資する米ベンチャーキャピタルのドレイパー・ネクサスに出資し、有望なスタートアップの発掘を開始。米国法人から派遣した社員にも物流分野を最優先に探すように指示し、たどり着いたのがシリコンバレーのキネマだった。
すぐ導入できる技術を探していたIHIとの間でスピード感が一致、共同開発が成功した一因となった。IHIはキネマにソフト使用のロイヤルティーを支払い、ロボット回りの搬送機構についてIHIが特許を出願した。国内外の物流企業、製造業の自動倉庫などの需要を見込んでいる。
物流企業は人員確保に四苦八苦している。IHIの西日本のある顧客が「時給1400円で募集しても人が集まらない」と言うほどだ。今回、契約を前提とする商談は3月までに20件程度まで積み上がった。同月中にも第1号が納入される。
顧客からは荷下ろしを意味するデパレタイズとは逆に、倉庫から出してトラックに積み込む前段階の「パレタイズ」に使いたいという要望も多く寄せられている。荷崩れしないように重いものは下に並べるなどこちらもノウハウはあり、IHIはコスト面を考慮しながら検討していく。
石炭ボイラーや航空機エンジン部品など受注品から量産品まで製品群が広く「機械のデパート」と称されるIHI。自前主義一辺倒だったのを改め、合併・買収(M&A)以外にも外部の知見を積極的に取り入れて、戦略的ビジネスユニットを強化してきた。スタートアップとの連携はその一環だ。キネマとの開発で結果を出したのは、IHIが取り組んできた有望スタートアップ開拓で初の成功事例といえる。
シリコンバレーの企業と組むのは当初は敷居が高かったが、中山氏は「実際にやってみると思った以上に受け入れてくれ、開発にも一体感があった」と手応えを感じている。自前にこだわらず、顧客目線で柔軟に課題と向き合い始めたIHIに変わりゆく姿を見た。
日経新聞より
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2018年3月22日木曜日
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