フィリピンでは、6月30日の大統領就任以来、薬物犯罪撲滅に向けて警察や自警団が容疑者を殺害する事件が相次いでいる。先日9月30日の演説では、ヒトラーと自分をなぞらえて薬物犯罪者は殺害するなど、度肝を抜く仰天発言も飛び出した。
釈明と謝罪をすぐに発表したものの、警察による正当な取り締まりの結果として射殺した容疑者もいると説明し、抵抗する薬物犯罪者はその場で射殺する方針に変更はないようだ。
現在までに、3千人を超える人が法に基づかない超法規的措置として、警察や自警団に殺害された。
アムネスティ・インターナショナル・フィリピン支部の担当者は、フィリピンで起きていることは、戒厳令が敷かれた時代を思い起こさせると現状を危惧している。
薬物犯罪は治安の悪化を招くだけではない。貧困のため犯罪に手を染める者も多く、密売組織が増え、売買に警察が関与し賄賂を受け取るなど、フィリピン社会に深く根ざした撲滅すべき犯罪であることは確かだ。
薬物犯罪者だから、命を落としたとしても、やむを得ないと考える国民はいる。そのため、一部の者はドゥテルテ大統領に喝采を送り、就任直後の任務として歓迎しているのだろう。
しかし、政府が敵だとみなした市民に対しても、このような厳しい取り締まりが向かわないとは限らない。歴史上、限られた対象への暴虐が他にも広がっていった例は、枚挙にいとまがない。
薬物犯罪者に対する法に基づかないこの処刑に、今声を上げなければ市民はこの後声を上げる機会を失うかもしれない、と担当者は危機感を募らせる。
フィリピンは主要な国際人権条約や選択議定書の18のうち14を批准している。日本は10であることに比べると、人権保障の取り組みを進めてきたことがわかる。
2012年には拷問等禁止条約の選択議定書を批准し、拷問の防止に取り組み、過去の政権の人権侵害を調査するなど、国民との信頼回復に向けて歩みつつあった。
ドゥテルテ大統領は、ダバオ市長として規律を重んじた政策で評価が高く、大統領となっても強硬な姿勢を貫くことで、国民の支持を受けている。しかし一方で、その強硬さは国際社会の批判を招いており、孤立していく可能性もある。
米国オバマ大統領は、ドゥテルテ大統領がオバマ大統領を侮辱する発言をしたことから9月6日に会談を中止した。
オバマ大統領が薬物犯罪取締に関して懸念を表明したため、ドゥテルテ大統領は反発していた。ドゥテルテ大統領はその後も反米路線をとり、米国に対する不満についてロシアと中国に賛同を得たと10月3日に発言するなど、さまざまな国が大統領を中心に振り回されている状況だ。
そのドゥテルテ大統領が10月下旬に訪日する方向で調整しているという。
安倍晋三首相は、この人権状況にまったく触れないのであろうか。そうだとすれば、ドゥテルテ大統領からはロシア・中国側に日本がついたと判断される可能性がある。
仮に、首相が人権外交として超法規的措置を停止するよう意見するのであれば、米国側についたと大統領は批判するかもしれない。
しかし、基本的人権の問題は内政干渉にあたらず国際社会の関心事である。日本政府も外務省として人権外交をとる方針をすでに打ち出しており、今回のフィリピンの問題で日本政府の人権外交がどう動くか、政府が考えている以上に国際社会は注目している。
(アムネスティ・インターナショナル日本)
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