出口の見えない中東情勢がますます混迷を極めています。10月8日に行われた国連安保理で、シリア北部アレッポへの空爆停止決議案にロシアが拒否権を発動、西側諸国との溝はさらに深まる事態となりました。メルマガ『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんは、本格的な米ロの軍事衝突、そして戦術核が使われる可能性を指摘、今この時点が「大きな時代の転換点であると思わざるをえない」と記しています。
ロシアと米国の戦争になるのか?
シリアのアレッポの反体制派支配地域に無差別爆撃をロシアとシリア空軍が行うことに、米国はとうとう堪忍袋の緒が切れたようである。しかし、その後どうするかである。その検討。
世界のリスクが重層に
世界は、いろいろなリスクが出てきている。英国は移民の受け入れを拒否して、かつEUとの間での今までと同じ条件の貿易で離脱する交渉をするとメイ首相は宣言した。
このため、ポンドは1ドル=1ポンドになる可能性も出てきた。EUサイドは認めないとしている。ハードエクジットになり、英国経済がメチャクチャになる心配が出てきたようである。
ドイツ銀行問題は、米国との賠償金交渉待ちである。米国はアップルのEU罰金1兆円との取引にする可能性がある。まだ、わからないし、また、増資方向にドイツ銀行も検討を開始した。できるかどうかのようである。
北朝鮮は、長距離ミサイルの実験と新しい核実験を行う可能性が出てきている。韓国と米国は金排除作戦を行う可能性が囁かれている。もし、北朝鮮が倒れたら、難民が周辺諸国に押し寄せることになる。もちろん、日本にも武装難民が押し寄せることになる。
もう1つ、中国の経済的な状態が益々悪くなっていることで、国内で政治闘争が盛んである。中国も不安定である。軍が強硬路線で尖閣諸島に押し寄せる可能性がある。
米大統領選挙で、クリントンかトランプか予断を許さない状況が続いている。トランプになると、日本にとっては厳しいことになる。
といろいろなリスクがあるが、また1つ、大きなリスクが増えたようである。
ISへの共闘体制
米国とロシアは、IS打倒のために共闘を組んでISを追い詰めていた。しかし、ロシアとシリアは、テロ組織に対する戦闘での共闘であるとして、反体制派もテロ組織をしているが、米国は反体制派は、テロ組織でないとして、これへの戦闘を排除している。
しかし、ロシアとシリアは、ISへの戦闘より反体制派への戦闘を優先し始めた。特に大都市のアレッポの反体制組織に対する戦闘を積極化している。シリア軍の主流は、ヒズボラとイラン革命防衛隊とその軍指導者であり、60%以上がイランなどのシーア派である。
反体制組織をサポートしているのは、トルコと米国であり、スンニ派諸国である。ISを資金的に支えたのはサウジなどのスンニ派諸国である。しかし、現在ISを支援できないが、反体制組織への支援を行っている。
クルド人組織がスンニ派トルコ系民族地域に侵入したことで、トルコ軍は9月3日、隣国シリア北部ライに少なくとも20台の戦車などで地上侵攻し、IS組織とクルド組織に攻撃をした。
トルコは、ロシアへ仁義を切ってシリアに侵攻したが、アレッポの反体制組織もスンニ派のトルコ系民族であり、支援したいのであるが、ロシアの手前できないでいた。しかし、米国が対空ミサイルをこの地域で展開して支援すれば、アレッポまで侵攻する気である。
共闘停止へ
とうとう、米国務省は10月3日、シリア内戦の解決を目指す米ロの2国間協議を停止した。
国連安全保障理事会は10月8日、シリア北部アレッポ上空の軍用機の飛行と空爆停止を求める決議案を採決したが、ロシアが拒否権を投じて否決された。危機に歯止めをかけることができなかったのは「ロシアの責任」(英国のライクロフト国連大使)など拒否権の行使に非難が相次いだ。
米国は、3つの道がある。1つが、積極的にシリア内戦に介入して、トルコ軍を地上部隊として、米軍が空爆してシリア軍、ロシア空軍を止めることである。米露の直接戦争になる可能性が出てくる。
2つが、米国は同盟国でもあるサウジなどへも賠償請求しようとしているように、中東から全面撤退して、ロシアへ中東の制御を譲る。人道危機や皆殺しは防止できないし、欧州に大量の難民が押し寄せることになる。民族の大移動を防止できない。
3つには、何もしない。米国は国連などでロシアを非難するが、何もしない。オバマ大統領は、レイムダックであり、次の大統領に判断を任せる。オバマは、レッドラインを設定したが、それを超えても何もしなかったので、今回も何もしない。トランプが大統領になると全面撤退になるし、クリントンでは新しい戦争になる可能性が出てくる。
しかし、この中東の混乱は欧米が原因を作った。「アラブの春」でアサド政権を打倒しようとしたが、途中でIS国の方が問題だとテロ戦争にシフトしたことで、訳がわからなくなった。文明戦争の側面もある。
イスラエルの介入
この戦いにイスラエルも介入している。ゴラン高原でイスラエルはシリア政府軍を空爆で叩いている。シリア政府軍の多くはヒズボラであり、そのヒズボラを叩いているが、シリア領内である。このため、米トルコでのシリア内戦介入は、イスラエルも介入することになる。
スンニ派対シーア派の戦いが、スンニ派に米国、イスラエルが加わり、シーア派にロシアが加わり、米露の代理戦争にもなる危険がある。それと、ロシア空軍と米空軍が直接対峙することになり、今までの代理戦争とは違い、戦術核ミサイル使用にロシアが踏み切る可能性も出てくることになる。
核戦争を意識することが必要になる。「アラブの春」も「アレッポの人道」も人道的な問題であるが、それを欧米が掲げるとき、それ以上の被害が出ることになる。
欧米の理想主義が、戦争を拡大させ、地域の対立を激化させ、それでより多くの人を殺すことになる。欧米の死の商人が大きな稼ぎを出すことになる。
欧米の財政出動であり、それにより雇用を作り、景気を維持させる効果がある。日本の財政出動とは違う欧米の財政出動になっている。欧州諸国も安全保障費を上積みすることになる。景気対策になる。
しかし、危険が潜んでいるように感じる。ロシアのプーチンは、欧米に一泡吹かせたい思いがあり、そう簡単に引き下がらない。本格的な米露戦争にならないか心配である。また中国が、どう出てくるのか興味がある。
国際戦略コラムは、リスクを指摘したいわけではないが、世界情勢をみると、多くの重大なリスクがあり、それに伴う大きな時代の転換点であることを思わざるを得ない。
欧米の時代が過ぎ、民主主義より独裁主義の方が勢力を増しているようである。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領を見ると、その観を強くする。米国のトランプ氏もそのような大統領になるのであろう。
知識人の常識政治より、非常識な痴愚政治の方が問題を解決できると多くの民衆が期待しているようである。この民衆の期待を実現するためにプーチンは中東で戦いに参加したのであるが、戦いから引くことができなくなっている。民衆に勝ち戦を見せて、喜ばせる必要だけで戦っている。シリア内戦で勝ってもロシアには何のメリットもないからである。 MAG2NEWSより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2016年10月16日日曜日
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