ところがその内容は実は3段階になっておりまして、
- 北朝鮮が核拡散を続けることによって北東アジアの不安定の要因になっている
- その北朝鮮を支えているのは中国だ
- 中国を本気にさせるために、日韓に核武装させよ
第一に、核武装という物騒なことも、実はクラウゼヴィッツが『戦争論』で説いているような、国家の政策にとっての「ツール」でしかない、という冷酷な事実です。
「核武装」というのは、日本国内の一般的な感覚としては、即「戦争」と同じくらいタブーの香りのする、できれば触れたくないトピックであります。ところがわれわれはそのために思考停止しているわけで、これをあえて「利用しよう」という考えには至りません。
われわれは戦後70年間に安全保障の問題について自分のこととして向き合わず、なるべくタブーには向き合わずに過ごしてきたわけですし、しかも向き合わずに過ごせてきたわけですから、ある意味で幸せだったわけです。
ところが国際政治のパワーゲームとしては、このような「タブー」で脅しをかけるというのは日常茶飯事。しかもこの「タブー」というのも、政治的には十分な「ツール」となり得るのです。
もちろん日本がそれをしろ、とはいいませんが、まずそのような現実があることに気づくことが重要でしょう。
第二が、ハッタリの重要性です。
紹介したこの論文では、「日本(と韓国)に核武装をさせろ」とは言っておりますが、「核戦争をしろ」とは言っておりません。むしろそこで主張されているのは、いざ日韓が計画を本気で進め始めたら(というか、そのモーションを見せれば)、中国は「マズイ」と気づいて北の崩壊を進めるはずだ、ということです。
もちろんこれは(ルトワック的にいえば)中国側がどう感じるかという「反応」的な部分もあるので、中国が北朝鮮崩壊を本気で始めるかどうかは微妙です。また、これに気づいた北が、日本や韓国でテロ活動を始める、というリスクもあるでしょう。
それでも政治家は、時として国際的な舞台で「ハッタリ」をかますことが必須となります。そしてそれを本当に必要なタイミングで、必要な形で言えるのかが勝負です。古代ギリシャの哲人アリストテレスは、政治家に最も求められるべきものは「勇気」であると説いております。そしてこの要素が最も発揮されるのは、このような(核武装をするという)「ハッタリ」が必要になってくる瞬間なのです。
もちろん日本は必ずしも核武装をする必要はありません。ただしその「脅し」を使う覚悟は絶対に必要です。その覚悟に必要なのが、政治家の「勇気」なのです。
第三が、クラウゼヴィッツの説く「重心」です。
たとえば今回の核武装論文では、まず北朝鮮の核拡散や北東アジアの不安定の最大の要因は北朝鮮であるので、その政権を崩壊させることが重要だ、という目標が掲げられます。
ところがその目標の達成の最大のカギを握っているのが中国の存在。そしてこの中国が一番嫌がることで、しかも周辺で脅威を受けている国々にとっても合理的な解の一つである核武装を、近隣の日本と韓国にさせろ、ということを述べているのです。
つまりここでの「重心」はあくまでも中国にあり、ここが相手方の権力の源泉であり、そこを動かせば目標は達成できる、ということなのです。
「どこにパワーがあるのか」を見極めるのは、戦略思考やリアリズム的な視点を身につける上での基礎中の基礎。この論文は、そういう意味では余計なことをいわずに、あくまでも要点だけを述べているという意味で合理的です。
もちろんだからといって、私は紹介した論文のように「日本も核武装をすべきだ」とは思っておりません。ただし、そうするかもしれないという脅しを「ツール」としてとらえ、それを実際に使えるだけの「勇気」を備え、そして、どこに「重心」があるのかを見極める。これが、国民の生命と財産を守る役割を担っているリーダーとしての政治家だけでなく、われわれ一般国民にも必要である…、この論文を読んであらためて感じた次第です。
『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』
国際情勢の中で、日本のとるべき方向性を考えます。情報・戦略の観点から、また、リアリズムの視点から、日本の真の独立のためのヒントとなる情報を発信してゆきます。 MAG2NEWSより
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