許すことのできない女性の拉致事件。その中でもあまりの犯行の異様さに、今でも忘れることができないのが、平成19年に起きた「闇サイト殺人事件」だ。
主犯格の神田司は、その前年には闇サイトを利用して通帳詐欺を行い、執行猶予つきの有罪判決を受けていた。川岸健治は、平成17年に「オレオレ詐欺」で有罪判決を受けた。掘慶末には犯罪歴はなかったが、ダーツにのめり込んで400万円以上の借金を抱えていた。
「愛知県の人で何か組みませんか」
闇サイトの1つである「闇の職業安定所」に誘いの文句を書き込んだのは、川岸で、それに2人が応じた。平成19年8月21日、3人が顔を合わせると、犯罪歴や不良ぶりを誇示しあい、強盗の計画が練られていった。
3日後の8月24日、3人は帰宅途中であった磯谷利恵さん(31歳)を、名古屋市千種区内の路上で襲い車に連れ込んだ。愛知県愛西市内の駐車場に停車した車の中で、男たちは磯谷さんから現金6万円ほどと白いハンドバッグを奪う。
さらに刃渡り18.6センチの包丁をちらつかせながら、キャッシュカードのパスワードを言わせようとした。
「カードを作ったのは昔だから、忘れてしまった」
磯谷さんは容易に口を割らなかった。手錠をかけられていた彼女を、神田と掘が目を離した隙に、川岸はレイプしようとさえした。
「2960」
恐怖に抗えなくなったのか、磯谷さんは番号を口にした。
顔を見られたことを理由に、男たちは磯谷さんに襲いかかった。
「殺さないって言ったじゃない」「話を聴いて! 死にたくないっ」
懇願する磯谷さんの首にロープを巻き付けて引っ張るが、なかなか絶命しないのを見て、ハンマーが振りおろされた。
後の法廷で、川岸は証言している。
「ハンマーが当たったのは前頭部で、被害者の身体からガクッと力が抜けた。血が飛び散った」
神田の証言はこうだ。
「後頭部よりの左側とか、前頭部を続けざまに三連発ですね。返り血が(掘の)口に入って、うわっと唾を吐いたりして」
磯谷さんの遺体は、岐阜県瑞浪市内の山林に遺棄された。
男たちは、磯谷さんのクレジットで現金を引き出そうとしたが、何度繰り返してもパスワードが違うというメッセージが出るばかりだ。命を奪われるかもしれない状況で、まさか、ウソをつくとは。男たちはあぜんとした。
■偽暗証番号に隠されたメッセージ
事件後に、母親の富美子さんは利恵さんが数字の語呂合わせが好きだったことを明かしている。
2960は「ニクムワ」
という最期のメッセージだったのだ。
こんな男たちに、むざむざと金を取られたくなかったのだろう。8月25日、死刑が怖くなった川岸が愛知県警に連絡し事件は発覚、3人は逮捕された。容疑は、強盗殺人、死体遺棄、営利略取、逮捕監禁、川岸には強盗強姦未遂が加わっている。
平成21年3月18日、名古屋地裁は神田と掘に死刑、川岸に無期懲役を言い渡した。川岸が警察に連絡したことが、自首と見なされたのだ。神田は即日控訴したが、4月13日に取り下げて、死刑が確定した。
平成23年4月12日、名古屋高裁では掘の死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。更正の余地があるとの判断。川岸、堀ともに無期懲役となった。川岸については検察が上告せず、無期懲役が確定した。平成24年7月11日、川岸の無期懲役が確定した。
平成24年7月、掘は平成10年に愛知県碧南市で起きた強盗殺人事件に関わっていることが発覚し、再逮捕された。現場に残されていた唾液から検出されたDNAが、掘のDNAと同一の可能性が浮上したのだ。
平成27年6月26日、神田司への死刑が執行された。44歳であった。 トカナより
0 件のコメント:
コメントを投稿