2017年5月29日月曜日

まもなく人類はブラックホールを直接見られるかもしれない

200年以上前にその存在が予言されながら、いまだ多くの謎に包まれており、厳密にはその存在すら確認されていない。

一般相対性理論による理論的裏付けから1世紀、「ブラックホール」という命名から半世紀、人類はついに「黒い穴」を直接見る力を手に入れようとしている。最新望遠鏡が解き明かす、巨大ブラックホールの謎を第一人者が解説する。
宇宙の「怪物」を解き明かす

「巨大ブラックホール」それは一言でいえば「究極」の天体です。

ありとあらゆる天体の中で最も重力が強いのが「ブラックホール」で、その中でも最も大きくて重い種族が「巨大ブラックホール」です。

ブラックホールはその強烈な重力によって、まわりの光や物質を飲み込んでしまい、それらを二度と出しません。まさに宇宙の「怪物」です。光すら出てこないので、それ自身は「暗黒の天体」です。

一方、巨大ブラックホールは、周囲の物質を大量に吸い寄せることで、じつは「宇宙で一番明るい天体」として輝くこともあります。このような両極端な性質をあわせもつ、宇宙で最も奇妙な天体が巨大ブラックホールです。

本書『巨大ブラックホールの謎』は、このような「巨大ブラックホール」について焦点を当て、これまでの研究でわかってきたことや現代に残された謎、そして今後の研究の進展について、なるべくわかりやすく解説していきます。

ブラックホールに関する書籍が数多くある中で本書の特徴ですが、まず一つはブラックホールの中でも「巨大」なものに焦点を当てていることです。

宇宙で最も重くて重力が強く、かつ暗黒の天体でありながらも宇宙で一番明るく輝くことができる、その極端な姿を通してこの宇宙の不思議さをぜひ体感してください。

また、もう一つの特徴は、筆者自身が観測天文学者であることから、なるべく観測者の目線でこれまでのブラックホール研究の進展を解説しようとしていることです。

観測は時として地道で泥臭いものです。得られる結果だけでなくその背後にある研究者の活動にも適宜ふれていきますので、それも併せて楽しんでいただければと思います。

この意味では、本書の主人公は「巨大ブラックホール」であるとともに、その謎に挑んできた「研究者たち」でもあります。

本書の構成ですが、第1章は普通のブラックホール、そして第2章は巨大ブラックホールの解説にあてています。ブラックホールにあまりなじみのない方でも、ここでそのおおよその性質をつかんでいただけるよう、入門的な解説としています。もしブラックホールの本を他にも読んだ方は、復習としてさっと読んでいただければと思います。

代わって第3章以降は、人類がその歴史の中で、どのように巨大ブラックホールについて考え、観測や理論による研究を通じてその理解を深めてきたかを述べていきます。その歴史は18世紀末に始まり21世紀の現在も進行中ですので、じつに200年を超えます。

第3章以降はほぼ時系列に沿ってまとめていますので、観測技術や理論の進歩とともに巨大ブラックホールに対する人類の理解がどう進んでいったかを知っていただければと思います。もし物理が苦手で1、2章がわかりにくいと感じる読者がいましたら、思い切って1、2章を飛ばして3章から読んでいただくのも手です。

筆者らは現在この本の執筆中も、電波望遠鏡で巨大ブラックホールを直接写真に収めようという国際プロジェクトを推進中です。

世界中のミリ波サブミリ波帯の電波望遠鏡を束ねて「視力300万」という人類史上最高の性能を達成する、EHTプロジェクトです。

本書のしめくくりでは、目前にせまったEHTによる観測と、それによって期待される「巨大ブラックホールの直接撮像」についても解説します。

これまでの歴史的な研究に加えて、現在進行中の研究の最前線や今後の展望も知っていただき、これからの研究の進展にも一層期待していただければと思います。

この本を通じて、不思議な性質と謎にあふれる「巨大ブラックホール」の世界を知り、そのとてつもない魅力(重力)を感じていただければ嬉しい限りです。

そしてもし、ブラックホールの魅力にはまって「二度と抜け出せない」人が出るとしたら、本書の著者として光栄の至りです。週刊現代より

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