2017年5月30日火曜日

崖っぷちの日本経済 「高齢化」解決の秘策、ベンチャーが衰退を防ぐ

2025年まであと10年を切った。この10年は日本にとって極めて重要な10年となる。それは何故か。以下、その理由を述べる。

国際情勢の変化と安全保障

戦後70年経ち、中国が予想以上に経済的にも軍事的にも台頭してきた。経済的には、日米EU、共にその巨大市場に依存してきた。それはそれで安全保障上好ましいものと捉えられてきた。しかし一方で、中国は軍拡に力を入れ、アジア近隣新興国、太平洋島しょ国、アフリカ諸国などへの経済外交にまい進している。

北朝鮮は核実験を強行した。これに対し、日本は去年ようやく安保法制を成立させたばかりであり、官も民も政もグローバルな安全保障の視点を欠いたままと言えよう。

そうした中、ロシアは原油安で経済が苦境に陥り、資源外交に軸足を置き始めた。日本としては追い風だが、日本はエネルギー政策が確立しておらず、未だに国内およそ50基の原発を止めたままなのだ。これまた、エネルギー安全保障の観点からは考えられない政策である。

そしてISによる国際テロに見られるように、イスラーム社会とキリスト教社会との文化の衝突という厄介な問題が浮上している。同地域におけるパワーバランスの変化がISの台頭を許し、シリアの内戦をより複雑なものにしてしまった。その間隙をついて、イランが影響力を拡大、湾岸産油国の雄、サウジアラビアと対峙するなど、きな臭い動きが目立つ。

このように、世界の安全保障体制は非常に脆弱なものとなっており、世界経済に大きな影響を及ぼす。原油安だからエネルギーコストが下がって日本経済にメリットだ、などという論調もあるがそれは楽観に過ぎるだろう。そうした危機感をしっかり踏まえていかねばならない10年だということだ。

国内の人口動態の変化

次は少子高齢化による人口減少と社会保障費の拡大だ。他の方が詳述するだろうが、2013年の厚労省の試算によると、2025年には65歳以上の高齢者は約3,600万人、そのうち、「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上の認知症高齢者は訳470万人、高齢者における比率で約13%にものぼるのだ。

このままでは社会保障費の負担は膨れ上がるばかりで、消費税をいくら上げても追いつかない。世界情勢以上に、日本の財政に仕掛けられた時限爆弾が爆発するまでもはや猶予もない。

それなのに、政府は2017年の消費税再増税に向け、低所得者層に配慮して軽減税率なる悪手を打とうとしている。逆進性緩和に効果が薄く、社会保障費に充てるはずの財源が1兆円超減る。ポピュリスト政治の最たるもので、将来に不安を抱く国民の目をそらし、財政健全化への取り組みを先送りしているにすぎない。

問題は今の日本で、こうした人口動態に合った産業が生まれていないことだ。新たなサービスはアメリカ発の企業が独占している。高齢化により、医療・介護の分野で需要が爆発的に伸びると分かっているのに新しいサービスは一向に生まれてこない。これは何故なのか? そして日本経済はこのまま衰退していくのだろうか?
 
テクノロジーの変化

現在世界を席巻している企業の多くは米・シリコンバレー発のICT企業である。マイクロソフト、Apple、Yahoo!、Google、amazon、facebookなどだ。これらのプラットフォーム企業は、次から次へと新サービスを開発して顧客を囲んでいる。しかし、不思議なのはこうしたプラットフォーム企業が日本から生まれないことだ。
その理由の一つは、日本の社会が変化を望まないからだと思う。バブル崩壊後、日本は長いデフレのトンネルに入った。1990年代後半、2信組問題に公的資金が投入されるとき、政府はハードランディングよりソフトランディングな政策を選択した。その結果、メガバンクが生まれ、金融危機は起きなかったが、長いデフレがその後待っていた。又中小の金融機関の再編も進まず、現在に至っている。

こうした日本の選択が、多くの企業経営者のみならず、国民全体の改革への意欲を減退させた。まさに守りの20年だったといえよう。こうした停滞ムードの社会で育った若者の就職観も“寄らば大樹の陰”(これは昔からだが)であり、起業しようというものは未だに少ない。又、アメリカと決定的に違うのは、エンゼル投資家やVC(ベンチャー・キャピタル)がリスクマネーを若い起業家に融資しないことだ。挑戦する気概や進取の気性を良しとしない、この日本社会の空気はデフレのトンネルの中で拡大再生産され、日本人の心に沁みついてしまったかのようだ。
 
しかし、これからは様々な産業がICT化していく。20世紀型の日本のお家芸、モノ作りだとて、その波からは逃れられない。その波に乗れない企業は市場から撤退を迫られる。しかもそのスピードはICT化により加速度を増している。

具体的に言おう。一つはタクシー業界だ。アメリカ発のUberという企業は、車の所有者と移動したい人をウェブ上でマッチングするアプリを開発した。オンデマンド・ライド・サービス(On-demand Ride Service)と呼ばれるものだ。アメリカで瞬く間に普及し、今や海外67か国、800万人超のユーザーがいるという。資産や時間やスキルなどを共有する、シェアリング・エコノミー企業の一つだ。

これは言ってみれば白タクであるから、当然各国のタクシー業界と政府は規制しようとしているが、一度広がったサービスを止めることは不可能だ。既にアメリカではUberの対抗馬のLyftも存在感を示しているし、更に新しいアプリもサービスも登場している。
 
例えば、Facebookは、去年12月、メッセ―ジング・サービス“Messenger”に配車“Transportation”を追加し、Uberが最初のパートナーとなった。つまり、ユーザー“Messenger”で相手とチャットしながら車を呼び、目的地に効率的に移動することが可能になったのだ。

さらに、UberやLyftのドライバーをやりたい人と、空いている車を貸したい人をマッチングさせるBreezeというサービスもスタートしている。ドライバーを事故から守る自動車保険や、初めてドライバーをやる人に対するガイダンスサービス、複数のライドサービスに登録している人の収益管理サービス、収益を最大化するためのコンサルサービス、病気になった時の収入補償保険など考えただけでもいくらでも新サービスが生まれる可能性がある。こうしたことが果たして日本で起きるだろうか?

そもそも日本のタクシー業界はUberなどへの有効な対抗策を打ち出せていない。アプリで車を呼べるようにはなったが、何より乗りたいときに空車が近くにいないことが往々にしてある。そんな時、Uberのようなライド・サービスがあれば客としては使ってしまうだろう。しかし、既存のタクシー会社は折角ひいきにしている客を囲い込むことすらできていない。ただ車を呼んでもらうのを待っているだけなのだ。これでは、Uberらには勝てない。消費者はより便利でより満足度の高いサービスを求めて行動するからだ。毎日膨大な人数の客を乗せて走っているのに、顧客の属性はおろか、移動のルート、よく使う時間帯などビッグデータを蓄積し分析・利用していないのはもったいないとしか言いようがない。

「自動化運転技術」への対応策も同様だ。既に完全無人化のロボットタクシーの商業化が数年後に迫っている。その時、タクシーの乗務員の仕事はなくなっているかもしれない。そうなったらどのようなサービスを提供するのか、展望は見えてこない。

同じくシェアリング・エコノミー企業のAirbnbという米企業の「民泊」サービスも急速に広がっている。ライド・シェア同様、Airbnbに参入するためのアドバイザーサービスや、借り手が引き起こしたトラブル処理サービス、民泊物件を保有するための投資サービスなど次々と新しいサービスが生まれている。マンションの管理規約違反や住民と民泊にとまった外国人とのトラブルなど解決すべきことはあるが、こうした動きはもはや止めることは出来ない。既存の枠組み、既存のビジネスの在り方に拘泥していたら世界のビジネスの潮流に乗り遅れてしまう。

映像の世界も同じだ。NTTDoCoMoなどが出資して設立したNOTTVは今年6月そのサービスを終える。様々な要因があるが、一番大きなものはSVODという定額制動画配信事業者の進出だ。Hulu、Neflix、amazonビデオなど、これまたすべて米国発だが、毎月定額で映画やTVドラマ、ドキュメンタリーやアニメが見放題である。ビンジ・ウォッチング(Binge Watching:連続再生)という言葉が生まれるほど、人によっては中毒になる。可処分時間を取り合っているスマホ、テレビ、ラジオ、映画、それに活字(新聞、雑誌、本)などにとっては脅威となる。また、ハフィントンポストやBuzzFeedなど米国発のメディアも次々と上陸する。これに既存メディアは太刀打ち出来ていない。
 
うした状況を踏まえ、既存メディアはこれまでのコンテンツの蓄積を存分に生かし、海外、国内問わずより深い情報を提供し、それをスマホのアプリなどで簡単に視聴できるようにすればいいのに、それをやらない。著作権処理の複雑さを盾にいつまでたってもコンテンツの解放に消極的だ。民放が始めた見逃し視聴サービスTverもすべての番組が見ることが出来るわけでもない。となると、海外ドラマを見ようか、となってくるのだ。

今や情報がすべてである。AI(人工知能)が情報化をさらに加速させる。すべての顧客の行動はリアルタイムに把握され、そのビッグデーターはAIが分析して次々と新しい判断を下す。顧客はこの時間帯、この場所にいて、こうした商品を欲しがっている、という情報を考え得くれる。人間は新たな常用にあった新商品、新サービスを投入することに腐心するようになる。そこに大きなビジネスチャンスが生まれるのだ。

また、AIの発達で言語の壁もなくなる。ウェラブル・コンピューターを身に付け、海外のビジネス・パートナーとストレスなくコミュニケーション取れるとなると、外国語がネックだった日本人にとって朗報であろう。グローバル化が進む可能性がある。
 
こうした中でやはり重要なのは、学校教育だろう。2025年に働き盛りの30代になる人たちは、現在18歳から20歳前半くらいだ。彼らに2025年からの日本経済の飛躍はかかっている。
デジタルネイティブの彼らが社会に出たときに、自由な発想で従来型企業をICT企業、プラットフォーム企業に生まれ変わらせる、もしくは起業して新たなサービスを生むようになっていなけれればならない。

懸念材料は、日本の学校教育がICTで大きく出遅れていることだ。

PCの配備率は都道府県ごとにばらつきはあるが、昨年度末時点で小中生6、7人に1台。一人当たり1台には程遠い。更にWi-Fiの整備率もいまだに100パーセントになっていない。若者の中にもデジタルデバイドがある。これは何としても改善しなければならない。

並行して起業家マインドを持つ若者を育てなくてはならない。また、起業しやすい環境を作り、お金が集まる仕組みを作らねばならない。アベノミクスに期待する声もあるが、官に頼るのも限界がある。史上最高の利益を享受している大企業は、社内ベンチャーのみならず、これからの日本を背負うベンチャー企業に積極投資してもらいたい。この問題ももう10年以上言われてきていることである。しかし、2025年まであと10年、もはや待ったなしだ。ICTを駆使し、日本が直面している「高齢化に関わる課題」を解決するプラットフォーム・サービスを生むことが、成長につながる。なぜなら、高齢化はどの国も遅かれ早かれ直面する課題だからである。その為に、若き人材を政官学民、オールジャパンで育てていかねばならない。 iRONNAより

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