2017年5月30日火曜日

トランプはなぜ「ひとつの中国」という絶対的タブーを破ったのか

トランプが台湾総統との異例の電話会談をした意味

黄 2016年11月17日、安倍首相とトランプ次期アメリカ大統領がニューヨークのトランプタワーで初会談を行いました。トランプは他国の首脳から早期の会談要請が殺到するなか、安倍首相との会談を最優先させたといいます。

しかも自宅に招くという厚遇ぶりで、日本を重視している姿勢を見せました。当然ながら、大統領選挙のときに見せた暴言も日本批判もなく、会談後に安倍首相が「信頼できる指導者だと確信した」、トランプが「素晴らしい友好関係を始めることができてうれしい」と述べるなど、会談が有意義


会談前に握手を交わす安倍首相とトランプ次期米大統領。奥は娘のイバンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏=11月17日、ニューヨークのトランプタワー(内閣広報室提供)

であったことを強調しています。
会談前に握手を交わす安倍首相とトランプ次期米大統領。奥は娘のイバンカ氏と夫のジャレッド・クシュナー氏=11月17日、ニューヨークのトランプタワー(内閣広報室提供)

石 安倍首相の素早い動きには、中国も驚いたと思います。安倍首相は、トランプの当選が確定した日の翌朝すぐに電話で祝意を伝えました。おそらく中国はそれに焦ったのでしょう、11月9日、CCTV(中国中央電視台)は習近平主席がトランプと電話会談したというニュースを流しました。ところが、トランプ側から「していない」と否定されてしまいました。安倍首相が電話会談した以上、習近平も会談したことにしないと、大国の指導者としてのメンツが潰れると思ったのでしょう。
14日になって実際に電話会談をしたようですが、いずれにせよ、赤っ恥をかかされたかたちになりました。

黄 さらに12月2日(アメリカ時間)には、トランプは台湾の蔡英文総統と電話会談しました。これは1979年のアメリカと台湾の断交以来初めてのことです。しかも、自身のツイッターで「台湾総統が今日、私に、大統領選勝利に祝意を表したいと電話をくれた。ありがとう!」と書き込みました。「ThePresident of Taiwan」と、あたかも独立国家の元首のように扱っていたのです。
 
当然、台湾では大きく報じられ、トランプへの期待が非常に大きくなっています。安倍・トランプ会談について、中国共産党の機関紙である「人民日報」の国際版「環球時報」は「朝貢だ」と書きましたが、蔡英文との電話会談については王毅外相が「台湾側のくだらない小細工だ」と嫌味を言いました。これは中国のパニック状態を象徴しているのではないかと思います。
 
石 中国はかなり衝撃を受けたのではないでしょうか。なにしろトランプは、数十年来の絶対的タブーを破ったのですから。
 
即座に不快感を表明し、アメリカにも抗議したといいますが、アメリカ政府になのか共和党になのか、どこに抗議したのかはよくわかりません。しかも、王毅外相は台湾を批判していますが、トランプのことは批判していません。トランプと衝突するのを避けたのでしょう。あくまで台湾が仕掛けたものだというスタンスです。

黄 しかし、トランプはかなり中国を意識した行動をしていると思います。「自由時報」(2016年12月3日付)によれば、当日はシンガポールのリー・シェンロン首相、フィリピンのドゥテルテ大統領、アフガニスタンのガーニ大統領とも会談していますが、ツイッターには蔡英文のことしか掲載されていないそうです。これは意図的にやっていることでしょう。中国の反応を見ているとしか思えません。
 
石 トランプが蔡英文と電話会談したことは、中国政府からだけでなく、アメリカの多くのマスコミからも批判されたようですね。オバマ政権も、すぐに国家安全保障会議(NSC)の報道官に「ひとつの中国」という原則を堅持すると強調させました。
 
記者を指さすトランプ氏=1月11日、米ニューヨーク

黄 トランプはそれを受けて、ツイッターで「アメリカは台湾に数十億ドルの武器を売っているのに、お祝いの言葉すら受け取るべきではないというのは、興味深いことだ」と述べています。

さらに12月4日(アメリカ時間)には、「中国は米企業の競争を困難にする通貨の切り下げや、中国向けの米国製品に重い課税をしていいかと尋ねたか」「南シナ海の真ん中に巨大な軍事施設を建設していいかと尋ねたか。私はそうは思わない!」(「産経新聞」2016年12月5日付)など、南シナ海や通商問題に関する中国批判をツイートしました(117ページ写真参照)。一部は大統領選挙で主張していたことと同じ内容ではありますが、「習近平嫌いでプーチン大好き」なトランプらしい、正直な本音が出ています。

よく知られているように、アメリカでは政権が変わると、ホワイトハウスのスタッフから政治任用されている上級官僚までがごっそり入れ替わります。トランプ政権になると、台湾に対する意識が、オバマ政権とはかなり変わってくるのではないかと期待しています。

記者を指さすトランプ氏=1月11日、米ニューヨーク

旧来メディアとリベラルの没落

石 それにしても、台湾はれっきとした民主主義国家なのに、いざとなると民主主義を標榜するアメリカメディアが、台湾よりも独裁政権の中国に同調するというのは異常です。日本の場合と同様、やはり左翼メディアは偽善だとしか思えません。

黄 まあ、あれだけトランプ批判を繰り広げても、大統領選挙の勝利を阻止できなかったのですから、影響力はだいぶ低下していると思いますよ。日本の左翼メディアも、たとえばシールズ(SEALDs)のような学生たちによる左翼運動を持ち上げていましたが、総選挙にしても東京都知事選挙にしても、シールズが支持する政党や支持者は勝てなかった。

若者の代表のように言われていましたが、その若者は自民党に投票する率のほうが大きかったというのですから、左翼メディアも左翼運動もしぼんでいくばかりでしょう。

石 何しろ、言うことがコロコロ変わりますからね。安倍・トランプ会談に対して、民進党はなんだかんだとイチャモンばかりつけていました。安住淳代表代行は「朝貢外交」だなどと貶(おと)しめていましたが、これは先ほどの「環球時報」とまったく同じ論調です。

中国共産党の場合は、安倍首相の対米外交に先を越されたことへの悔しさからの悪態ですが、民進党の場合は結局、首相の外交的得点が気に食わないだけでしょう。国も党も違いますが、根性の卑(いや)しさは同じではないでしょうか。

蓮舫(れんほう)代表にしても、トランプの大統領選挙中の発言を問題視して、安倍首相に「なぜ信頼できたのか」などと問いただしていましたが、その理論なら、民進党はトランプが発言を撤回しないかぎり、同盟国の大統領との信頼関係をつくらないつもりなのですかね。

批判のための批判という感じしかしない。もしも安倍首相がトランプに会わずに、他国の首脳に先を越されていたら、「なぜもっと早くアプローチしなかったのか!」と言っていたに違いない。
黄 蓮舫代表は、相手を批判するなら自身の二重国籍問題をもっときちんと説明してからでないと、なんとも説得力がないですよ。自分を「生まれたときから日本人」と言ったかと思うと、別のところでは「華僑(かきよう)の一員」「在日中国人」などと発言したりして、発言が一貫していません。

発言が一貫しないのと、自分に甘くて他人に厳しいというところからすると、日本人や台湾人というより、きわめて中国人によく似た性格ですね。彼女は自身の国籍問題にからんで、「ひとつの中国論」を持ち出したので台湾でも批判が高まりました。過去の発言もあわせて考えると、中国共産党のエージェントではないかと疑いたくなってしまいます。
 
石 2016年の新語・流行語大賞のベスト10に「保育園落ちた日本死ね」がランクインして、民進党の山尾志桜里(しおり)議員が笑顔で授賞式に出ていたことが批判されていましたが、どうも民進党の議員は国益という視点が薄いように感じるのです。
だいたい、国会議員が「日本死ね」などという言葉を流行語に選んでもらって、それをうれしがるという感覚がわかりません。

黄 世界の流れを見ると、トランプのアメリカだけではなく、イギリスも、あるいは他のヨーロッパで起こっていることからも、まず大きな特徴として、「国益」を中心として考える国が多くなってきているということですね。

トランプは「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を掲げ、不法移民を排除すると述べて支持を得ました。

たしかに、ヒューマニズムとか人権というものは大切です。しかし、それが過剰になると国益や国民の利益を圧迫することにもつながります。移民問題などもそうですね。自国民の職が奪われるからと移民受け入れに反対すれば、差別主義者のレッテルを貼られてしまう。差別的な言動をしないことを「ポリティカル・コレクトネス」と言いますが、行きすぎた風潮にうんざりした人たちが、イギリスのブレグジットやアメリカのトランプを後押ししたのだと思います。

しかし、旧来の左翼メディアが消えていくと同時に、国益を無視してポリティカル・コレクトネスに走った政党も消えていく運命にあると思います。左翼メディアに支えられてきた面がありますから。
 
いずれにせよ、いまの世界では建前よりも本音で語ることのほうが支持を得られるので、そうした姿勢が主流となりつつあるようです。

石 そのとおりだと思います。オバマ政権は、一定の不法移民に対して3年間の強制退去の免除と就労許可を与えましたが、これに対する不満も大きいのだと思います。

アメリカのリベラルの反差別は一種のファシズムになっていると思います。アメリカの政治家がマイノリティに対して、少しでも不用意な発言をすれば、叩かれて政治生命を失うことになってしまう。

アメリカのリベラルがあれほどトランプを嫌うのも、彼の過激な発言が、リベラルな世界観、価値観を完全に破壊するものだからです。だから差別発言扱いしますが、賛同する人も多かった。要するに「本音」で語ることは、リベラルな価値観に対しての一種の反乱なのです。しかも、彼はそれで成功してしまった。

日本のマスコミもアメリカのメディアとまったく同じ論調でした。一貫して、トランプを過激発言のとんでもない泡沫(ほうまつ)候補扱いしてきましたが、それも自分たちの価値観が絶対なものではないという現実を受け入れたくないからです。だから、選挙結果を突きつけられて、パニックになってしまった。いまでも「あんなのがアメリカの大統領になるとは信じられない」と言い続けていますね。

アメリカの旧来メディアの崩壊は、日本の左翼メディアにも伝播(でんぱ)していくと思います。たとえば、蓮舫代表の二重国籍問題でも、左翼メディアは「多くの先進国が二重国籍を認めている。だから日本も認めるべきだ」「多文化共生主義が世界の流れだ」などと書きましたが、多民族国家のアメリカがそれを否定する方向へ向かったのですから、もうそんなことは言えなくなるでしょう。日本のリベラルメディアにとっても、トランプ大統領の出現はトドメの一撃になると思います。

私は国際政治の面からトランプ大統領の政策を危惧していますが、日本のマスコミや左翼はむしろ悲鳴を上げているのが現状です。

だいたいアメリカのリベラルはおかしいですよ。選挙結果に不満だからデモをするというのは、民主主義の否定そのものです。リベラルが民主主義を否定してどうするのでしょう。もっとも、リベラルの本当の正体は、もともとそういうものなのかもしれませんが。
 
ネトウヨが世界を変える

黄 アメリカや日本も、新聞やテレビといったメディアはリベラルが強いですよね。もっとも、アメリカでは新聞やテレビを信用する割合が2割程度なのに対して、日本では7割を超えていますから、日本のほうが重病でしょう。

ちなみに台湾のメディアはほとんどが国民党系か中国資本なのですね。台湾独自資本のメディアというのは、自由時報と三立電視と民間全民電視公司(民視)くらいしかない。3つしかないから「三民自」(サンドイッチを意味する「三明治(サンミンツウ)」と同音)と言われています。

ですから、台湾ではメディアの信頼度は1%程度しかないと言われています。しかし、メディアというのは既得権なのです。だから絶対に手放したくないし、それに対抗する勢力には敵対してきます。

ヒラリーは、メディアとウォールストリートという2大既得権益層とズブズブだと批判されていたわけですが、そういった既得権益層も崩壊していく予兆なのでしょう。
 
当選後初めて記者会見するトランプ次期米大統領
=1月11日、ニューヨークのトランプタワー
当選後初めて記者会見するトランプ次期米大統領
=1月11日、ニューヨークのトランプタワー

石 アメリカの新聞やテレビ局などの主要メディアでは、57社がクリントン支持で、トランプ支持を打ち出したのは2、3社しかありませんでしたが、トランプはSNSやインターネットを駆使して、相手の批判をうまく利用していました。そこにも勝因があったと思いますね。


アメリカの国民がそれほどメディアを信用していないなら、むしろメディアにこぞって叩かれたほうが、目立つし、逆に国民からは信用されることになる、ということになりますね。

自分の主張や反論はインターネットに載せて、どちらが正しいか有権者に判断してもらえばいいのですから。

私もツイッターをやっていますが、中国批判よりも、日本の左翼を批判したツイートのほうが反響があるのです。ツイッターを始めたのは2013年からですが、2014年にフォロワーが3万人に達したと思ったら、その2年後の2016年12月にはなんと24万人を突破しました。

日本のなかに、左翼の言動がおかしいと感じている人はかなりいると思いますし、やはり国益中心、自国中心に考えるというのが世界の潮流となりつつあることは感じていますもっとも、ツイッター上で、私のことをネトウヨと呼ぶ人も少なくありません。しかし、彼らの感覚からすると、「暴言」を吐くトランプこそネトウヨですよね。世界一のネトウヨが大統領になったともいえるでしょう。

黄 日本での左翼言論人の支配の時代というのは、もうそろそろ終わろうとしていると思います。まだ終わってはいないけれど、終わるのは確実。だから最後のあがきとして、一生懸命、あちこちに銃口を向けているのではないかという気がするのです。

石 イギリスにしても、EU離脱を問う国民投票では、事前の世論調査と結果がまったく異なりました。まともに答える人がいなかったのではないでしょうか。これも既存メディアの終焉を意味していると思いますね。

リベラルは、メディアを通じて人々を支配してきましたが、このトランプの当選をきっかけに、世界各地で彼らの支配が終わるとすれば、日本の健全化にとっても非常にプラスです。
 
トランプ大統領の誕生は日本の大チャンス

石 トランプ大統領の出現には、そうしたリベラルの絶対的価値観の破綻と、左翼メディアの支配の終わりといういい面もありますが、やはりかつてのモンロー主義に戻り、内向きになってアジアへの関与を減少させていった場合、日本の安全保障が大変な危機にさらされることになる可能性も十分にある。この点は第1章で述べたとおりです。

しかし別の面からすれば、アメリカがもしアジアへの関与を減少させていくならば、それは占領政策が終わったということでもあります。

アメリカの対日占領政策は、日本が再びアジアの強国になれないようにすることでした。だから平和憲法を押しつけた。沖縄にアメリカ軍基地があるのも、ある意味では、日本の軍事力強化を押さえ込む目的もあったのかもしれません。

しかし、アメリカがアジアに対する関与をやめるならば、日本を押さえつけておく必要性もなくなります。日本が平和憲法を改正して再軍備や核武装を進めても、アメリカは与(あずか)り知らないということになる。そういう意味では、トランプ大統領の誕生で、日本は完全に戦後体制から脱出するチャンスになるという期待もあります。黄さんはいかがですか?

黄 トランプはモンロー主義というよりも、レーガンの時代に戻ろうとしているのかもしれませんね。大型減税や金融規制の緩和などを掲げていて、レーガノミクスに近い。「偉大なアメリカの復活」というスローガンは、冷戦をアメリカの勝利に導いたレーガン時代を指しているのではないかと思います。

そして日本にとっても、いまがいちばんいいチャンスだと思っています。世界は反グローバリズムのなかで、列強の時代に戻りつつあります。そのような時代には、やはり世界の調整役(バランサー)が必要だと思うのです。

いま先進国のなかで、グローバリズム推進派のトップと見なされているのはドイツのメルケル首相でしょう。一方で、トランプはもっとも保護主義派となるでしょう。日本はその調整役となるいい位置にいます。

また、2017年のドイツの総選挙でもしもメルケルが負ければ、安倍首相は西側自由主義諸国の政界で最長老となります。長期安定政権ですから、世界の首脳も相談しやすいのです。

そうした追い風を味方につけて、日本の戦後を終わらせられれば、明治維新の志士と並ぶ人物になれます。

石 アメリカに締結させられた不平等条約への不満が明治維新につながったわけですからね。そして日清(にっしん)、日露(にちろ)という2つの戦争に勝利したことで、1911年に不平等条約を改正することができました。

アメリカに憲法を押しつけられ、在日アメリカ軍基地や日米地位協定といった「属国的」なものを受け入れざるをえない立場から脱するためにも、再び明治維新のような大事業が必要だということなのですね。
台湾の総統執務室でトランプ次期米大統領と電話協議する蔡英文総統(中央)=昨年12月(総統府提供)
台湾の総統執務室でトランプ次期米大統領と電話協議する蔡英文総統(中央)=昨年12月(総統府提供)
黄 そうです。しかもそれは日本だけではなく、アジアのための明治維新です。

 私は蔡英文総統にも期待はしていますが、そこまでのことはできないでしょう。ですから、日本と台湾が手を握り、あるいはASEANと手を握って、日本がリーダーシップをとって、アジアを再興していく。世界が列強の時代の19世紀に戻るのであれば、その延長線上として、日本がアジアの盟主になるしかありません。
 
石 中国もそれを恐れているのかもしれません。だから、安倍首相がトランプと電話会談をした直後、習近平も「電話会談した」と嘘をつかなくてはならなかった。

トランプは政治も外交も素人ですから、おそらく今後、安倍首相が日米同盟の重要性や、アジア太平洋地域におけるアメリカの重要性をレクチャーすることになるのではないかと思います。安倍首相は世界のトップの中でも、海外の首脳ともっとも多く会っているキーパーソンですから。

うまくやれば、安倍首相がアメリカをリードするかたちになる。トランプからアジア外交の軸になってほしいと頼まれる可能性もあります。そして、これを機会にして日本が憲法改正と国防体制の強化を行えば、アメリカにとって日本は頼りにしなければいけない存在となります。日米同盟に新しい変化が起こるわけです。

トランプ大統領当選の直後の11月10日に、インドのモディ首相が来日し、日印原子力協定に署名しましたが、中国を警戒した安全保障協力についても話し合っています。

アメリカの影響力が落ちることになれば、多くのアジア諸国は日本に期待してくると思うのですが、どうでしょうか。
 
黄 台湾、フィリピンなどはもちろんそうですね。韓国だけが少し違うのですが、アジアの多くの国が日本に目を向けて期待しています。アメリカ大統領選挙の直後にモディ首相の来日日程が組まれていたというのも、そのタイミングで日印の結束を中国に見せておくためでしょう。

日本は技術力を持っていますし、私は核技術にしてもイスラエルより上だと見ています。

ただ、日本では核アレルギーがありますから、核武装というのはなかなか難しいでしょう。しかし、目下、世界では核を上まわる兵器技術や核防衛システムの開発が進められています。非核兵器であれば日本も配備可能でしょう。

日本の国防予算はGDPの1%程度で5兆円を突破したくらいです。GDPの2~3%まで予算を組んでようやく世界の「普通の国」レベルなのです。仮に日本が10兆円規模の防衛予算を組めば、そうした兵器に十分な開発費をあてられますし、日本であれば開発できると思います。それこそが平和貢献です。

そうして日本が積極的にアメリカと相互補完しながら、トランプ大統領に対して、アジアはわれわれに任せろ! と言えばいいのですよ。

石 トランプ政権が、アジアは面倒だからということで、少し手を引いていくときに、トランプ政権と話をつけることが日本にとってチャンスとなるでしょう。アメリカが手を引く分は、日本が分担するということにして、日本とアメリカがアジアで対等な立場で共同責任を持てばいい。

日米同盟に関するトランプのいちばんの文句は、アメリカだけが責任を持ち、日本は何も責任を持たないということです。「日本タダ乗り論」ですね。

だから、日本もアメリカと同じようにアジアの安全保障に責任を持つということになれば、逆に日米同盟も強化されて、日本の立場も強くなります。

そういう意味では、日米同盟再構築のひとつのチャンスにもなる。もちろん日本は憲法改正を急がなければならないし、国防体制もつくり直さなければいけません。

トランプ大統領の誕生によって、その必要性がますます高まったということなのですね。こうした世界状況は、国内の憲法改正論議にとっても追い風になるはずです。安倍首相は、この歴史的機会を最大限に活用すべきです。

そうすれば、安全保障上のピンチをチャンスに変えることができる。日本は普通の国と同様の自主憲法を持ち、普通の国防体制を持ち、アメリカと共同責任でアジアの平和を守る。まさしく戦後体制からの脱却であり、真の独立です。
 
日本の「戦後体制からの脱却」が完了する

黄 オバマ政権では、安倍首相の靖國(やすくに)神社参拝に対して、アメリカ政府は「失望した」などと口を出してきましたが、そういうことも言わなくなってくるでしょうね。

石 もともとアメリカは、首相の靖國参拝に文句は言ってこなかった。しかし日韓関係が悪くなっていたために、これ以上の亀裂(きれつ)が生じるとアメリカがやりにくくなるので、オバマ政権は行ってほしくなかったということを表明しただけですよね。

アメリカは中韓が批判するような、靖國神社が「軍国主義の象徴」だとか「A級戦犯が祀(まつ)られているから」という理由で反対したわけではないですね。これまでも反対してこなかったですし。
参拝を終えた「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の議員ら。中央は尾辻秀久会長=2016年10月18日午前、靖国神社
参拝を終えた「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」の議員ら。中央は尾辻秀久会長=2016年10月18日午前、靖国神社
黄 ただ、アメリカが「失望した」と言ったせいで、日本の左翼を勢いづけてしまった。普段はアメリカを嫌っているくせに、「同盟国のアメリカすら反対している」「世界も反対している」といった論調がマスコミに躍りました。

おそらく次に安倍首相が靖國参拝した場合、左翼連中は「アメリカも反対した靖國参拝を強行した」などと叩いてくるはずです。
 
そういうときに、トランプ大統領に「アメリカは反対していない。国のために命を捧(ささ)げた者に哀悼(あいとう)の意を表するのは当然のことだ」と言ってもらわないと、建前ではあっても、「対等な日米関係」は元の位置に戻らないと思うのです。

石 なるほど、たしかに左翼を黙らせる必要はありますね。ある意味では、政治というのは時期を見て素早く行動する必要があります。安倍政権はそれができる。おそらく安倍政権もトランプの当選を予測していなかったと思います。外務省は完全に予測を外したとも言われています。

しかし、トランプが当選したら、電光石火でどの世界指導者より早く直接会談まで実現できた。安倍首相には実力も運も備わっていると思います。トランプ大統領の誕生により、国内的には左翼の崩壊、メディアの信用失墜ということが起こりました。これはすべて安倍政権にとっては追い風です。

それでもうひとつの大きな追い風が、アメリカがアジアにおけるプレゼンスを少しずつ引いていくなら、それは当然、日本の安全保障の問題となり、日本の憲法改正の道を開くことにもなります。
外交の情勢も日本に有利になりつつあります。フィリピンのドゥテルテ大統領はオバマ政権に対してはきわめて敵対的でした。トランプ大統領が決定したところで、関係を回復しようと言い出しましたが、まだ、どうなるかわかりませんね。

しかし、来日時の態度が示しているように、ドゥテルテ大統領は日本に対しては最初から信頼している。インドも当然ながら、中国よりもずっと日本を信用している。
 
ロシアのプーチン大統領にしても、ある意味で信頼しているのは、中国よりも日本であり、安倍政権です。中国とロシアというのは、長い歴史のなかでお互い不信の塊なんですね。

だから、日本がアメリカ同様に国際的な責任が持てるような国になれば、アジアの安全保障、あるいはアジアの経済秩序の新しい軸になってほしいと思う国も多いと思うのです。アメリカもそのような日本を頼りにしてくると思います。

黄 私も、安倍首相のインドのモディ首相やロシアのプーチン大統領との関係性は、他のどの国よりも突出していると思います。そして、これにアメリカのトランプ大統領が加わる。トランプはプーチンを英雄視していますから、日米露の関係強化は十分可能だと思います。

しかも、中国は伝統的に「遠交近攻」の国ですから、どうしてもいつかは隣国のロシア、インドとぶつからざるをえない。それは歴史が物語っています。中印露の「三国志演義」が繰り広げられるなかで、日米露印が提携すれば、中国を包囲することができるのです。
 
石 こう考えると、トランプ大統領の誕生は、安倍首相が脱却を悲願としていたアメリカの束縛や戦後体制、戦後リベラルが流してきた自虐史観といったものを、一気に吹き飛ばしてしまうことになる可能性がありますね。

トランプはまず4年間、2021年1月までの任期がある。安倍政権は自民党総裁の任期延長で2022年までの任期が可能となる。だから、安倍首相は今後数年、自らの考えるビジョンをどんどん追っていけばいいのです。

日本を中心とした大東亜共栄圏が復活する

黄 そういう意味では、いま、日本は安倍政権で本当によかった。これが民進党と日本共産党の連合政権だったらと思うと、ゾッとします。日本にとっても世界にとっても、これから大変な時代になるでしょうが、幸い、安倍政権には先見性と行動力と運があるようです。また明るい見通しが出てきます。

石 逆に、このチャンスをもし掴(つか)まなければ、日本はいつまでも一人前の国家になれないでしょう。
 
もしかすると、これは、アメリカによって潰された大東亜共栄圏を、アメリカの衰退によって日本が復活させるという歴史の必然なのかもしれません。

黄 20世紀の戦後の人類の対立の軸は、私有財産制か公有財産制かという対立、つまり自由主義か社会主義かという対立でした。そして、社会主義は「国家死滅」を理念にしていますから、コスモポリタン的な考え方が強い。つまり、社会主義そのものがグローバリズムとの類似性や親和性が高いと思うのです。だから、現代中国もグローバリズムをすんなり受け入れられたのです。ただし、民主主義や表現の自由といった思想面はまだ拒否したままですが。

そしていま、保護主義による巻き返しが起こるなかで、文化対文明の対立がひとつの大きな軸として起こってくると思います。

文化というのはユニークなものです。国、民族、地域によってそれぞれユニークな文化が存在しています。それに対して、文明というのはより普遍的なものです。世界に押し広げていこうというものが文明です。

今後、普遍的な文明とユニークな文化が対立していくのだと思います。たとえば、習近平は「中華民族の偉大なる復興」を「中国の夢」としています。これは中華文明の栄光を取り戻そうと夢見ているわけですね。決して中国人の文化を世界に紹介したいというものではない。だから、世界と対立せざるをえないのです。

そして、日本には文化としてのソフトパワーがある。たとえば、台湾からは、高齢者と赤ちゃんも数に入れて、年間で8人に1人くらいが日本に観光にきている計算になります。

毎年何回も日本に遊びにくる台湾人母親に、東南アジアなら日本の1回の旅行費用で4、5回行けるのに、なぜ何回も日本に来るのかと聞くと、彼女は、教育面から考えると、自分の国より経済発展をしていない途上国に子どもを連れていきたくないと言っていました。

そして台湾より進んでいる国は、アジアでは日本しかないわけです。台湾人が世界でいちばん住みたい国というのは日本です。2番目はカナダ。日本がトップである理由は、四季折々の景色があり、何度来ても飽きることがないということだけではありません。社会が安定していて環境衛生も清潔、しかも思いやりがあってマナーもいい。人のことも疑わなくていい。要するに、安心できる社会だからです。そういう国こそがいちばん魅力的なのです。
 
石 中国がいくら頑張っても、やはり日本のソフトパワーには絶対にかなわない。日本には安心安全な社会があり、アニメやゲームなど世界最強のソフトがあります。世界が憧(あこが)れるソフトパワーがあります。

古代ローマ時代、ヨーロッパの人々はローマ人になることが夢でした。それは誰もがローマ帝国の文明に憧れたからです。しかし、現在の中国に憧れる人は世界中どこを見てもいません。中国人自身が自国から逃げようとしているのですから。

そして戦後が終わり、世界も根本的に変わろうとしています。高いポテンシャルを持つ日本は、このチャンスを逃すべきではありません。トランプ大統領の誕生をきっかけとして、日本はアジアや世界のリーダーとして頼られる存在になる大きな可能性があるのです。 iRONNAより

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