私は「天文学者」という、世間でも比較的珍しい職業に就いている。その珍しさもあってか、ときどき小学校に呼ばれて宇宙について話をすることがある。
幸いなことに宇宙の話は多くの子供たちの興味を惹き付けるものらしい。実際、子供たちは熱心に話を聞いてくれるし、終了後には結構するどい質問が飛び出す。これまでの私の経験では、その中でも最も多く出てくる質問が三つある。子供たちの「三大質問」と呼んでもいいだろう。
一つ目は、「宇宙の果てはどうなっているの?」という問いである。もちろん個人によって質問の仕方はそれぞれで、一字一句同じというわけではない。なかにはかなりするどい質問として、「果ての向うはどうなっているの?」、「宇宙誕生の前には何があったの?」などと問われることもある。
これらの問いには専門家といえども答えることができない。研究者である私たちもまさにその答えを知りたいのである。非常に素朴な、しかし実に本質的な「究極」の問いを、子供たちは私たちに投げかけてくる。
現在多くの恒星で惑星系が発見されており、いずれ地球によく似た惑星も見つかるであろう。そうなったら、そこに海や陸はあるか、大気の成分はどうなっているか、そしてさらには生命が誕生しうるか、を調べることになるだろう。
「宇宙人はいるの?」という問いの答えはまだないが、私はいつも次のように答えている「きっと宇宙人はいると思う。ただし、まだ証拠は何もないけどね」。
天の川銀河には太陽のような恒星が2000億個以上あり、その周りには多くの惑星がある。「宇宙で人類のような高等生命がいるのは地球だけ」、と考える方が無理というものである。
さて三大質問の三つ目は、ブラックホールに関するものである。「ブラックホールは本当にあるの?」、「ブラックホールって、どんな天体?」といった、ブラックホールの存在や性質に関わるものである。なかには「ブラックホールの中はどうなっているの?」、などといった、これまた専門家が答えられないするどい質問もある。
子供たちの「ブラックホール」に関する認知度は高く、その人気(?)も絶大である。その理由は、ブラックホールが強い重力で何もかも吸い込むという「怪物」のような極端な性質を持っていることや、現在もさまざまな謎に包まれていることがあるだろう。
巨大天体を撮影せよ
『巨大ブラックホールの謎』(講談社ブルーバックス)はそのような素朴な疑問に答えたい、という思いを込めて書いた解説書である。
本書は、銀河の中心に一つだけ存在する特別な天体「巨大ブラックホール」に焦点を当てている。ブラックホールは重力がもっとも強い「究極」の天体であり、その中でも巨大ブラックホールはもっとも重いタイプのものである。
そして、あたかも銀河を支配するかのように銀河の中心に居座っている。また不思議なことに、巨大ブラックホール自身は暗黒な天体である一方で、そこにガスを落とすと、宇宙で一番明るい天体として輝くこともできる。
このように極端で奇妙な性質を持つ巨大ブラックホールであるが、その研究の歴史は意外に古く、存在が最初に予言されたのは18世紀の終わりのことである。すでに200年以上の歴史があるわけだが、いまだ多くの謎に包まれており、厳密にはその存在すらまだ確認されていない。
それは必ずや、子供たちの問いに対する答えを、より確かなものにするであろう。
天文学は目先の役には立たない学問である。しかし、好奇心の固まりである子供たちの素朴な疑問に答えることは、科学の本質をつくものであると筆者は信じている。
本書を通じて、巨大ブラックホールを人類がどのように理解してきたか、また現代の天文学者がさらなる謎の解決のためにどのように研究を続けているかを感じとっていただければ幸いである。
週刊現代より
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