2017年5月28日日曜日

「空母打撃群」で北朝鮮に圧力 一国の軍事力に匹敵、米原子力空母の戦闘力とは

米原子力空母カール・ビンソンから発艦するF/A-18スーパーホーネット(ロイター)
米原子力空母カール・ビンソンから発艦するF/A-18スーパーホーネット(ロイター)

【軍事ワールド】

朝鮮半島近海にまもなく到着する米空母打撃群の原子力空母「カール・ビンソン」は、米国海軍が10隻を保有する空母「ニミッツ級」の3番艦。全長は333メートル、排水量約9万トンで、いずれも戦艦大和(263m、約7万トン)を凌ぐ。全長は東京タワーの高さと同じだ。この巨艦には、一国の軍事力に匹敵する戦闘能力があるとされる。緊張度が高まる朝鮮半島に迫る米空母の戦闘力とは。

長い槍

朝鮮半島近海に向けて航海しているのは空母カールビンソンを中心とした空母打撃群で、同空母のほかにイージス駆逐艦2隻とイージス巡洋艦1隻で構成されている。空母打撃群は通常、空母に加えイージス艦3~6隻、潜水艦や補給艦などで構成させる。ではその戦闘力の“主役”はというと、実は艦船ではない。空母打撃群の「長い槍」となるのは、空母に搭載されている艦載機だ。

カール・ビンソンが搭載している航空機はマクダネル・ダグラス社(現ボーイング社)が開発した戦闘攻撃機FA-18ホーネットと最新型「FA-18E/Fスーパーホーネット」を併せて4個飛行隊約50機。さらに敵のレーダーや通信に対し電子妨害を加えるEA-18Gグローラー、空飛ぶレーダー基地と称される早期警戒機E-2Cなど、計約70機を搭載する。

しかしこれがフルスペックというわけではなく、東西冷戦期は約90機を運用していた。現在は“8分

目”で余裕がある状態だ。

このうち空対空戦闘と空爆にあたるのは主に「スーパーホーネット」で、限定的ながらレーダーに映らないステルス機能を有する。最もレーダー反射の原因となるエンジン前部のファンブレードが直接、外側から見えないよう、つまりレーダー波が当たらないよう、空気取り入れ口からエンジン前面までのトンネル(エアインテイク・ダクト)は三次元にひねられており、その形状は機密事項だ。米国内外の航空イベントで一般公開される場合も、外側にカバーがかけられ隠されている。

高いレベルで隠密性を持つ一方、攻撃力も高く、空対空戦闘では旧式機しか持たない北朝鮮空軍を圧倒する性能を持つ。機首に搭載するレーダー「AN/APG-79」は、多数の目標に向けて同時に空対空ミサイル「AIM-120 AMRAAM」を発射することが可能で、北朝鮮の戦闘機はスーパーホーネットの存在を探知できないまま撃墜されることとなる。「気がついたら撃墜されていた」という状態だ。

またスーパーホーネットを電子戦機に改造した「グラウラー」は、敵のレーダーや通信などを妨害する専用機。敵が地上の大型レーダーによって誘導する地対空ミサイルは戦闘機部隊にとって脅威となるが、そのミサイル誘導を妨害する能力を持つほか、レーダー基地そのものを攻撃・破壊できる専用の対レーダーミサイル「AGM-88 HARM」を持つ。


3月3日、米原子力空母カール・ビンソンの飛行甲板上で発艦準備を進める戦闘攻撃機「F/A-18スーパーホーネット」(ロイター)
3月3日、米原子力空母カール・ビンソンの飛行甲板上で発艦準備を進める戦闘攻撃機「F/A-18スーパーホーネット」(ロイター)

日本海から北朝鮮全域を

この「スーパーホーネット」の戦闘行動半径は、米海軍の公開データでは約1230キロメートル。東京-ソウル間の直線距離(約1160キロメートル)に匹敵する。この距離は、攻撃用の1000ポンド(約450キロ)爆弾を4発搭載したうえで、自機防衛用の空対空ミサイル「AIM-9」と「AIM-120」を各2発搭載し、機外燃料タンク(容量480ガロン)を3つ搭載した攻撃任務状態のデータだ。離発着する空母が日本海に遊弋した場合、北朝鮮全土が戦闘行動半径に入る。もちろん衛星利用測位システム(GPS)誘導爆弾などのハイテク爆弾も使用可能だ。

03年のイラク戦争では、原子力空母6隻が参加。搭載する空母航空団は1日で約600の目標を攻撃したとされる。GPS誘導やレーザー誘導の爆弾で目標への命中精度の向上は目覚ましい。

物量に物を言わせた絨毯爆撃は過去のものとなっている。

ただし、この「長い槍」は、発進基地である原子力空母1隻だけで性能を発揮できるものではない。

打撃群は「パッケージ」

原子力空母の弱点は、敵の攻撃に弱いことだ。潜水艦にとっては「大きな的(まと)」だ。また空対艦ミサイルを積んだ敵攻撃機が数十機まとまって同時攻撃を仕掛ける場合も、防御は困難だ。むしろ冷戦時の旧ソ連は、その弱点を熟知していた。

米空母の積む迎撃用の対空ミサイルやレーダー連動迎撃機関砲(CIWS)の防御能力をパンクさせる、大量のミサイルによる同時攻撃、いわゆる「飽和攻撃」を旧ソ連は目指していたのだ。

その飽和攻撃から空母を守るために建造されたのが、米海軍の「イージス艦」だ。その中核となるSPY-1システムは、最大探知距離500キロ以上。200以上の目標を同時追尾し、うち10以上の目標を同時攻撃できるとされる。原子力空母を守る盾「イージス」の名は、ギリシャ神話でゼウスが娘アテナに与えたという盾の名に由来する。

海上自衛隊では弾道ミサイル防衛を主目的のひとつとしてイージス艦を6隻運用しているが、本家の米海軍は80隻以上を運用している。搭載できるミサイルは前述の防空用だけではなく、潜水艦攻撃用、さらには地上攻撃用の「トマホーク」巡航ミサイルも含まれる。

シリアの化学兵器使用に対し、4月7日に米国がシリア空軍基地をトマホーク巡航ミサイル59発で攻撃したのは記憶に新しいが、この攻撃を行ったのはわずか2隻のイージス駆逐艦だった。

米海軍の公式情報によると現在、カールビンソンには少なくとも3隻のイージス艦が随伴している。巡洋艦レイク・シャンプレイン(タイコンデロガ級)と駆逐艦のウェイン・E・マイヤー、マイケル・マーフィー(いずれもアーレイ・バーク級)だ。

ミサイルを縦に納めた格納庫兼即時発射機(VLS)は3隻で約300発分にのぼる。しかし北朝鮮空軍の脆弱な旧式機を迎撃する対空ミサイルはわずかな数で済むとみられる。本来なら脅威となる潜水艦も北朝鮮には旧式艦しかないため、300発分の発射機のうち、多くをトマホーク巡航ミサイルに充てられる。同ミサイルは地形に追随して低空飛行をし、レーダー波の当たらない山陰など低地を縫うように目標に進む。敵の目視による迎撃(対空砲火)を避けるため、その攻撃は夜間に行われるのが通例だ。

さらに多くのミサイルを搭載する原子力潜水艦も当然ながら随伴しているはずだ。またイージス艦には、弾道ミサイルを迎撃できるRIM-161スタンダード・ミサイル3(SM-3)も相当数を積み込める。「空母打撃群」は、こうした艦船が1パッケージとなって機能する。


インドネシアのスンダ海峡を通る米原子力空母カール・ビンソン(ロイター)
インドネシアのスンダ海峡を通る米原子力空母カール・ビンソン(ロイター)

実は2つ

朝鮮半島に向かっているとされる空母打撃群は現在、カールビンソンを中核とした1つだけ。米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)にいる原子力空母ロナルド・レーガンは期間4カ月の定期整備中で、5月初旬に完了する予定だ。

一方、ロナルド・レーガンが搭載していた艦載機グループ「CVW-5」(第5空母航空団)は米国で唯一、米本土以外(厚木基地)に本拠を置く部隊で、現在も即応体制にあるとされる。つまり空母は1隻だが、「長い槍」の搭載機は2隻分ある状態だ。

韓国には在韓米軍基地があり、空母よりはるかに離着陸の容易な陸上滑走路が複数活用できる。空母航空団が2つという戦力は、北朝鮮はもちろん、世界のほぼすべての国の航空戦力を凌駕する。さらに、レーガンを中心に構成する第5空母打撃群所属のイージス艦も日本周辺に存在するとみられる。  イザより

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