遂に「人手不足」がバブル期を上回る水準にまで達してきた。厚生労働省が5月30日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.48倍と、前月に比べて0.03ポイント上昇した。バブル期のピークだった1990年7月(1.46倍)を上回り、1974年2月に付けた1.53倍以来、43年2カ月ぶりの高水準を記録した。
人手不足は東京などに限らず全国的な傾向。13カ月連続で全都道府県で有効求人倍率が1倍を上回った。運輸業や建築業など慢性的な人手不足業種だけでなく、製造業や小売業、医療介護など幅広い分野で求人が増えている。
職業別に有効求人倍率をみると、専門的・技術的職業の中で「建築・土木・測量技術者」が4.41倍と高いほか、「建設・採掘の職業」では「建設躯体工事」が8.35倍、「建設」が3.72倍、「土木」が3.10倍などとなっており、工事現場での人手不足が引き続き深刻であることを示している。このほかの業種でも、「サービス」が2.93倍、「保安」が6.34倍、「自動車運転」が2.53倍などとなっている。
同日、総務省が発表した4月の労働力調査でも、完全失業率が3カ月連続で2.8%となるなど、失業率でみてもバブル期並みの低さを維持している。
有効求人倍率がバブル期越えとなった背景には、当然のことながら働き手の数自体が減少傾向にあることがある。求人に比べて仕事を探している求職者の数がなかなか増えないわけだ。もっとも、就業者数全体の数は2010年5月の6281万人を底に増加傾向が続いており、ピークだった1998年1月の6560万人に近づいている。
定年の延長など働く高齢者が増えたことや、女性の参画が活発になったことが背景にある。安倍内閣も「女性活躍の促進」や「一億総活躍社会」といったスローガンを掲げ、働く人材の確保に力を入れていることが大きい。
今後も人手不足は一段と鮮明になっていく可能性が大きい。東京商工リサーチによると、2016年度(2016年4月~2017年3月)の「人手不足」関連倒産は310件(前年度321件)だった。代表者の死亡などによる「後継者難」型が268件(前年度287件)と大半を占めたが、「求人難」による倒産も24件と前年度の19件から増加した。
さらに、人件費高騰による負担増をいっかけに資金繰りが悪化して倒産する「人件費高騰」関連倒産も、18件(前年度25件)にのぼった。
まだ、人手不足倒産が急増しているわけではないが、東京商工リサーチでも「景気の緩やかな回復の動きに合わせて人手不足感が高まっているなかで『求人難』型の推移が注目される」としている。
結局、「働き方改革」が不可欠
人手不足の中でいかに人材を確保するかが、今後、企業経営者にとって大きな課題になることは間違いない。すでに正規雇用化によって人材を確保しようとする動きは広がっている模様で、統計にもはっきり現れている。4月の労働力調査で「正規の職員・従業員数」は3400万人で、前年同月比14万人、率にして0.4%増加した。正規雇用の伸びは29カ月連続である。
今後、人口の減少が鮮明になってくる中で、どうやって労働力を確保していくのだろうか。高齢者や女性の活用はかなり進んでいる。非正規雇用の女性の正規化などは進むとみられるが、雇用者数を生み出す源泉にどこまでなるかは微妙だ。
そんな中で、期待されるのが、求人と求職のミスマッチの解消。例えば4月の調査で「一般事務職」の求人数は14万9971件に対して、求職者は47万9035件に達する。有効求人倍率は0.31倍だ。「事務的職業」全体でみても、有効求人倍率は0.4倍にとどまる。つまり、事務職に就きたいという希望者が多い一方で、企業の中では事務職の仕事自体がどんどん効率化され消えていっているという現実がある。
事務職は定時に勤務を終えられるが、顧客を相手にする職種では勤務時間が不規則になりがちだという面もあるだろう。また、事務職の方が安定的に長期間にわたって勤務できるというイメージもある。つまり、このミスマッチ解消には、政府が今、旗を振っている長時間労働の是正など「働き方改革」が不可欠ということである。
小売りや飲食・宿泊といったサービス産業では、長時間労働の割に給与が低いという問題もある。長年続いたデフレ経済に伴う価格破壊で、十分な利益を上げられる価格設定ができていないケースが少なくない。インバウンド消費の増加もあって良い物にはきちんとした価格を支払うムードができつつある。
最終販売価格を引き上げ、それで従業員に適正な給与を支払うという「経済の好循環」が生まれれば、サービス産業にも人がシフトしていく可能性は大きい。いずれにせよ、人手不足は改革のチャンス。従来通りのやり方では、早晩、人手不足倒産に直面することになる。iRONNAより
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