2017年5月13日土曜日

トランプ勝利を予測した教授が説く「大統領弾劾」シナリオ

<トランプ当選を予測した教授は同時にトランプ弾劾も予測していた。ロシア疑惑や女性問題など、現実的に弾劾に繋がりそうな材料は揃っている>

昨年のアメリカ大統領選では、大手メディアから予測の専門家に至るまで、ほとんどの人がヒラリー・クリントンの勝利を予測していた。そのなかで、9月の時点でトランプ勝利を予測して注目されていた専門家がいた。

それは、ワシントンDCにあるアメリカン大学(American University)で政治史を教えるアラン・リクトマン教授だ。独自のメソッドを使い、1984年から現在に至るまで、すべての大統領選を正確に予測してきた人物だ。

大統領選で勝利したトランプは、リクトマンに「教授、おめでとう。正しい判定だったね」という手紙を送った。リクトマンは苦笑したにちがいない。なぜなら、彼は同時にトランプ大統領が弾劾されることも予測していたのだから。

なぜリクトマン教授はトランプが弾劾されることを予測したのか? それを説明するのが、4月に刊

行されたばかりの『The Case for Impeachment(弾劾の論拠)』だ。

大統領の「Impeachment(弾劾)」の仕組みは、一般のアメリカ人にも馴染みが薄い。

簡単に説明すると次のようなプロセスになる。

(1)大統領が、反逆罪、収賄罪、あるいはその他の重罪及び軽罪を犯した疑いがあるとき、司法      省あるいは独立検察官が調査して、下院の司法委員会に報告する。

(2)下院の司法委員会が証拠を吟味し、弾劾に匹敵するかどうか討論する。

(3)司法委員会が弾劾を薦める決意をしたら、次は下院全体で討論を行い、採決する。

(4)下院では過半数の賛同で弾劾決議になる。

(5)次に上院で弾劾裁判が行われる。

(6)上院での弾劾裁判では、出席者の3分の2が賛同すれば、大統領は有罪になり、罷免される。

これまでに弾劾された大統領はアンドリュー・ジョンソンとビル・クリントンの2人だけだ。2人とも下院で弾劾される(5)までは行ったが、上院での弾劾裁判では無罪になり大統領の座を追われることはなかった。

ウォーターゲート事件で追い詰められたリチャード・ニクソンは、プロセスの(2)の段階で自ら辞任した。

【参考記事】トランプのロシア疑惑隠し?FBI長官の解任で揺らぐ捜査の独立

アメリカの建国の父たちは、大統領が独裁者として暴走しないように弾劾制度を作ったのだが、このように、それで罷免された大統領はまだいない。政治歴史学の専門家であるリクトマンは、それを承知のうえでトランプ大統領の弾劾と罷免を予測している。それどころか、大統領就任の1月から本書が発売された4月までのトランプの言動から、その確信がさらに強まったという。

リクトマンがそう感じるのは、「歴史から何も学んでいないらしい(トランプ)大統領が国民の信頼を悪用し、裏切り、罷免される可能性がある数え切れないほどの違反行為で、弾劾のお膳立てをしている」からだ。

「数え切れない」というのは大げさではない。リクトマンは、「ドナルド・トランプは、私利のために多くの法を破ってきた。彼の違反行為の履歴は、これまでの大統領とはくらべものにもならない」と前置きして、本書でこれまでの例を網羅している。また、トランプは「大統領がやることは違法ではない」と公言していたニクソンと同様の考え方をしているので、これからも重大な過ちを犯す可能性がある。

弾劾の対象になる違反行為があまりにも多すぎて全部を書くのは不可能なので、教授が挙げた重要なものをいくつかリストアップしよう。

■公正住宅法違反

1970年代、トランプが社長を務めていた住宅管理会社は黒人の入居者を断る方針を持っていた。これは公正住宅法違反である。司法省から訴えられたトランプの会社は、違反を解決するどころか、法を取り下げるよう司法省を反対に訴えている。

■慈善団体詐欺

「トランプ基金」という名前の慈善団体を作って金を集め、自分や自分が経営する会社の借金をそこから支払った。非営利の慈善団体への寄付には税金がかからない。その資金を私利に使うのは違法である。「慈善」として450万ドル(約4.5億円)を寄贈したビンス・マクマホンは、プロレス団体WWEの最高経営責任者である。トランプはビンスの妻のリンダを中小企業局の長に任命した。
また、安倍首相がトランプ大統領とゴルフ対談をしたフロリダ州パームビーチの「マララーゴ」は、トランプが所有するリゾートだ。マララーゴは、条例を破って町から12万ドルの違反金を課せられていたが、トランプは、退役軍人の組織に10万ドルを寄付すると約束して町から罰金を免除してもらった。ところが、その10万ドルを町に支払ったのはトランプ個人ではなく、トランプ基金だった。

そのほかにも、ビジネスでの取引先からの支払いをトランプ基金に「寄付」させていることもワシントン・ポスト紙が報じている。脱税は深刻な犯罪だ。納税申告書の公開をトランプが頑なに拒んでいる理由の一つがこれではないかと疑われている。

ほかにも、トランプ基金にまつわる違法の報告は数え切れない。

【参考記事】トランプ税制改革案、まったく無駄だった100日間の財源論議

■キューバとカジノ

1990年代、トランプはキューバにカジノを作ることを考慮し、約700万円をキューバで使った。だが、キューバとの通商は禁じられており、商業目的で金を使うこともそれに含まれていた。トランプの会社が違法行為を隠す試みをしたことも明らかになっている(しかしこれは時効らしい)。

■「トランプ大学」の詐欺行為

トランプは自分の知名度を利用して、営利目的の「トランプ大学」を作った。儲かる不動産ビジネスの秘訣を教えるという約束で高額の授業料を集めた。だが、実際には大学の基準をまったく満たしておらず、内容もなかった。この「偽大学」は結果的に閉校することになったが、連邦と数々の州の法を犯し、「約束したことを果たさなかった」という理由で、大学に登録した利用者数千人から訴えられた。

■不法移民からの搾取

トランプは、「不法移民を強制的に送還する」ことを約束してアメリカ国民から支持を得たが、彼自身が不法移民を雇い、しかも搾取していた。ニューヨークを訪問した人なら誰でも知っているマンハッタンのトランプタワーを建設した1980年、トランプは、わざとポーランドからの不法移民を選んで働かせた。なぜなら、正規のアメリカ人を雇うよりもずっと安くつくからだ。また、どんなに扱いがひどくても、訴えられないこともわかっているからだ。

トランプ・モデル・マネージメントも、カナダ人モデルから訴えられた。ビジネス用のビザを与えずに、違法のままで働かせ、収入の大部分をアパート代や経費として差し引くのだ。6人で同じ部屋に住み、3年働いて受け取った給料は約80万円でしかなかったという。

■大統領の座をビジネスに利用している

これまでの大統領は、職業倫理の一環として、ビジネスの地位を放棄し、所有している株などを売却した。大統領としての行動が、私利目的になってはいけないからだ。ところが、トランプはいまだにビジネスから身を引いておらず、利益も得ている。トランプが経営する会社がある国々の指導者とも会っている。「トランプの個人的な投機と、大統領としての公務が対立している」とリクトマンは指摘する。

■海外政府からの報酬・利益供与

大統領が外国政府から報酬や利益を得るのは、利益相反で憲法違反だ。トランプの場合は、ホテルやカジノ経営で外国政府から利益を得ている。また、トランプが経営する会社は中国で約50の商標を申請していたが、トランプが大統領に就任した後の2月に、ペンディングになっていた38が仮承認となった。香港の専門家も「これほど多くの商標が素早く承認されるのは見たことがない」とコメントしている。

「アメリカ国民全員にとって危険なのは、トランプが自分の経済的利益とアメリカ合衆国にとっての利益とを区別できていないこと。しかも意識すらしていない」という点は、さらに重要だ。

【参考記事】トランプ政権下でベストセラーになるディストピア小説

■非人道的犯罪(Crimes Against Humanity、人類そのものへの犯罪ともいえる)

これはたぶんもっともあり得ないシナリオだと思うが、地球の温暖化(気候変動)対策に真っ向から反対する政策を打ち立てるトランプに対して、国際刑事裁判所(International Criminal Court)が 非人道的犯罪で訴える、というものだ。長い目で見れば、本当に重罪なのだが、実現の可能性は低い。核兵器を使用したらあり得るが、それだけはなにがあっても避けたい。

その他にも山ほどあるのだが、そろそろ「本当に弾劾されそうなシナリオ」について語ることにしよう。

本書読了後に、もっとも実現の可能性が高いと感じたのは、ロシア問題と女性問題だ。

■ロシア問題

共和党からの抵抗で進行が遅れているが、トランプ(あるいは選挙の側近)とロシアとの関係については実際に調査が行われている。トランプが最初に国家安全保障問題担当の大統領補佐官に任命したマイケル・フリンは、就任前にロシア大使と経済制裁解除について話し合ったことが判明して辞任した(こう書いている間にも、調査は進展しているようだ)。

そして、ジェフ・セッションズ司法長官は、就任前に宣誓したうえで否定したにもかかわらず、ロシアの駐米大使と会談していたことがわかった。

ロシアがアメリカ大統領選挙に介入した証拠はすでにある。問題は、トランプかトランプ陣営が関わっていたかどうかだ。国家への背信行為(treason)は重罪だ。トランプの背信がひとつでも証明されたら、共和党議員であってもトランプの弾劾と罷免に賛成せざるを得なくなる。ゆえに、これが最もありえるシナリオだ。

■女性問題

トランプからセクシャルハラスメントを受けたと訴え出た女性は少なくない。女性に下品な性的コメントをするビデオも流出した。それでも多くの女性がトランプに票を投じたが、だからといって、女性問題が消え去ったわけではない。

トランプの最強の敵は、もしかすると、女性弁護士のグロリア・アルレッドかもしれない。アルレッドは、セクシャルハラスメントやレイプのケースが大きく話題になると、必ずと言っていいほど担当弁護士として登場する。コメディアンのビル・コスビーからレイプされた被害者たちの弁護も担当した凄腕だ。

トランプを有名にしたリアリティ番組「アプレンティス」にコンテスタントとして出演したサマー・ザーボスがセクシャルハラスメントの被害者として名乗り出てきたときに、トランプは彼女が嘘をついていると否定した。それに対し、トランプは政治集会やメディアで、ザーボスを含めたセクハラの被害者たちを個人攻撃し、風貌をおおっぴらに揶揄した。そこで、ザーボスは、トランプを名誉毀損罪で訴えたのだ。

では、なぜこの民事訴訟が弾劾に繋がるのか?

それは、民事訴訟であっても、宣誓の上で嘘をついたら偽証罪になるからだ。トランプは、録画やスクリーンショットで証拠があるにもかかわらず、「私はそんなことは言っていない」などといった嘘を平気でつく。選挙にはそれでも勝てたが、裁判となるとそうはいかない。

けれども、嘘だらけでも今までなんとかなってきたので、トランプのエゴはますます膨らんでいる。最初は我慢していても、ベテランのアルレッドに挑発されたら、つい嘘をついてしまう可能性は大いにある。

【参考記事】アメリカを対テロ戦争に導いた、ブッシュ元大統領の贖罪とは

しかしながら、共和党が上下院の両方を支配している現況では、弾劾への道は険しい。

そのためには、2018年の中間選挙で、民主党が大活躍して議席を確保するしかない。けれども、バーニー・サンダースを支持した左派が勢力を拡大している民主党内も分裂していて、いまひとつ頼りない。

リクトマン教授の予測が当たるかどうか、当たったとしたら、どのシナリオなのか、これからも目が離せない。 ニューズウィークより

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