2017年5月21日日曜日

死体解剖医に聞いた“いまだ解明されない死体の謎

解剖医が語る死体の不思議。幽霊の存在、魂のありか、死体蘇生日本のメディアではなぜ死体の映像がタブーなのか? 兵庫医科大学法医学講座主任である西尾元教授の新著『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』(双葉社)の出版記念インタビュー第1回目では、日本が抱える「悲しい死」の闇や知られざる解剖医の世界について生々しく語ってもらった。
出版記念インタビュー第2回目は、死体と日々向き合う西尾教授に「幽霊」「魂」「死体蘇生」など、TOCANAならではの死にまつわる質問をぶつけてみた。

解剖医が見た不思議な現象

先生から事前にいただいたTOCANA宛の取材アンケートによれば、「不思議な現象として認識されることがある」とありました。これは、どういうことでしょうか?

西尾先生(以下、西尾)「法医学は科学の一分野であり、UFOなどという不思議な現象を扱う分野とは対極をなすものではありますが、あくまでも、理由がいまだわかっていないという意味での“不思議な現象”はあります。たとえば…

アルコールを長年摂取してきた人の皮下脂肪は普通の人より白っぽく、メスで皮下組織を切る時に切りづらい。

・精神疾患を持っていた方の中には、頭蓋骨の骨の厚さが厚い人が多い。
というものなどですが、これも、あくまで私個人がそのように“思っている”だけで、医学的に根拠があるという話ではありません。法医学解剖医の中には同じことを感じている人がいるかもしれませんし、そうは思わない人もいると思います。

ちなみに本書でも紹介しましたが『人は死後腐敗していくと、緑色になる』というのも不思議話として語られることがあります。でもこちらは確かな理由がすでにわかっています。緑色は血液の中に含まれるヘモグロビンが死後、主に腸管の中で産生した硫化物と結合した時の、出てきた色なのです」

■奇妙な形の死体

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西尾先生

では、先生がこれまで解剖された中で、奇妙で不可解な死体があれば教えていただきたいのですが。

西尾「奇妙な……とは、たとえばどんなものでしょうか?」

座った状態で飛び降り自殺したら、衝撃で背骨が上方へ飛び出て、頭が股間の辺りまでずり落ちてしまった……という死体の話を聞いたことがあるんです。真実かどうかは分かりませんが、そのような“非現実的”なことが遺体に起こり得るのかと思いまして。

西尾「飛び降りた時に、どのように落ちたかにもよるかと思います。たとえば、足から落ちると、力が真下から真上に向かいます。頭蓋骨は、背骨の上に乗っていますから、落ちた時の下から突き上げられる衝撃で頭蓋底の底がズドンと割れ、背骨に頭が串刺し状態になるかもしれません。私はそんな死体は見たことはないですが」

■謎の死因

死因についてお尋ねしたいのですが、分からない場合は死体検案書に「不詳」と書かれるわけですね。その中でも先生が特に悩まれたような、印象に残っている謎の死因というのはありましたでしょうか?

西尾「不詳といってもいろんな理由があります。腐敗が進んで白骨化したものや、ミイラ化したものなど、骨や皮ばかりになった遺体では、解剖しても死因を究明することは難しいです。ただ、死後まもなくの新鮮な遺体であるにもかかわらず死因が分からない場合もあり、こちらとしてもフラストレーションがたまります。

法医解剖では原則的に頭蓋腔(ずがいくう)、胸腔、腹腔を開け、体内の臓器をすべて取り出してくまなく観察するので、遺族からすれば、『遺体に傷をつけて解剖までして、なぜ死因が分からないのか?』と疑問に感じますからね。でも、残念ながら、分からないものは分からないのです。『死因は、今の法医学の診断技術ではとらえきれませんでした』としか、言いようがないのです」

では、どういった技術が進めば、死因が分かるようになるのでしょうか? 

西尾「法医学では、肉眼で見て診断するということを重要視します。実際に亡くなっているんですから、肉眼で見て見つかる死因もたくさんあるんです。ただ、死因が見つからないとなれば、肉眼以外の手段を取らざるを得ない。今は、薬毒物に関しては、質量分析器があります。けれど、それでも危険ドラッグのような類いの薬物を分析するのは非常に難しいのです。なぜなら、それらは単一の化合物だけでなく、いろんなものが混ざっているので、質量分析器にかけても調べるのが非常に難しいのです。ですから、法医学の知識が蓄積された上で、進歩した科学的診断技術を取り入れれば、現状では不詳の死因も分かるようになると思うんです」

■「弁慶の立ち往生」を法医学的に紐解く

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「弁慶の立ち往生/Wikipediaより」

これは戦争映画で見たのですが。たとえば、亡くなった方が、死後硬直が始まる時に動きだすということはあり得るのですか?

西尾「その映画を見たわけでもないので、なんとも言えませんね……。ただ、死後硬直に関しては、こんな話があります。 「弁慶の立ち往生」という有名な伝説があるでしょう? しかし、あれは法医学的な現象でいえば、死後硬直だろうと言われています。死後硬直は、死体の筋肉が硬化する現象で、死後徐々に全身に広がって行くんです。弁慶の場合は、筋肉量が多かったと思いますし、運動などで筋肉が熱を持った状態にあったので硬直の反応が早く進んだと考えられます。『即時性死後硬直』(死亡直後から全身の筋肉がほとんど同時に強く硬直することがあり、激しい筋肉疲労、精神的衝撃、頭部射創による即死などで見られる現象)で、弁慶は死んだ時に立ったままだったのではないかと考えられています」

 そういえば本書にも、「凍死した遺体は服を脱いだ状態で発見されることがある」と、書かれてありましたが、映画『八甲田山』でも、雪中行軍の際、雪山で遭難して精神を病んだ兵士が服を脱いで死ぬシーンが描かれていました。

西尾「人の脳内には体温調節中枢があるのですが、凍死する過程でそこになんらかの異常が起こるんだと言われています」

「法医学で紐解く歴史ミステリー」というのも面白そうですね!

西尾「紐解くとは大げさですね(笑)。でも、法医学で歴史的な死を説明するのは面白いかもしれません」

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超常現象と法医学

TOCANAでは、幽霊やUFOなど超常現象も扱っているので、先生自身の個人的な超常体験を教えていただきたいと思います。

西尾「私は、医学部において科学を扱っているので、基本的に世の中の現象はすべて説明可能だと思っています。ただ、現時点では今の科学レベルで説明できないこともたくさんあると思います。だから、ある程度、考え方に融通性は持っておかないといけないと思います。目の前の事実をしっかりと捉えるということが私には重要なんです。私ができるのは、遺体の死因を究明することだけですからね。たとえば、臨床医の場合は、体の中を全部見られない。レントゲン、エコー、心電図、CT検査などで体の中を透かして診断するわけですが、法医学では、すべての臓器を摘出して、色や硬さなど、視覚、触覚、場合によっては臭いなども参考にして、診断していくのです。私が、これまで手のひらに乗せた脳の数は2000~3000個。これほど原始的で、直接的な診断方法を利用する分野は医学の中では他にないと思いますね」

■死は正常な現象

先生は、魂はどこにあると思われますか?

西尾意識の中枢が脳にあるというのは、ある程度は決まっているんです。ただ、意識と魂の問題とはニュアンスが違うと思いますけれど」

死体に対して、一般的には怖いという感情を抱く人が多いですが、幽霊を信じていない先生はまったく怖くはないんですね?

西尾「皆、いずれ死ぬわけですから。死は異常な現象ではなく、正常な現象です」

■死因を知ることが、生きることに繋がる

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画像は、Thinkstockより

では、先生がお仕事されている中で、最もやりがいを感じるのはどんな時でしょうか?

西尾「死因がはっきり分かった時とか、そこから生きている人の役に立つ情報が得られた時ですね。たとえば、死因が結核だったとすると、遺族の方にも結核が伝染している可能性がありますよね。だから、警察の方に事情を説明して、『遺族の方の胸のレントゲンを撮って検査してください』ということも提案できます。そして、死因が遺伝子の異常だと分かった時、遺族の方にも一定の確率で異常を持っている人がいる可能性もあります。ですから、遺族の方に遺伝子を調べてもらうことも、実際に行っています。なので、どちらかといえば、死因から、生きている方の役に立つ情報を得られた時はやりがいを感じますね」

■法医学を広く知ってもらいたい

先生の今後の展望、もしくは野望などあれば教えていただきたいのですが。

西尾「野望はないですね。(笑)私は、どちらかといえば、昔からずっと研究に興味があったんです。でも今回、本を出したことが良い機会だと感じています。これからは、広く世間一般の方に法医学のことを知ってもらうことも重要だと思っていますからね。これまで、実際に一般の人に向けて法医学の講義をしたこともあったのですが、興味を示してくれる人が意外と多いんですよ」

日本では、死に直面することがあまりないですよね。本書で書かれていたと思いますが、死というのは、だんだん汚れて行くことでもあります。たとえば、高齢になって寝たきりになると排泄のコントロールができなくなる……というように。だから、汚れを遠ざけることは、結果的に弱者が社会から遠ざけられて孤独死するということにも繋がると思うのです。なので、日本でももう少し死体を隠さず見せる機会があればいいと感じるのですが。

西尾「外国の方の中には、『日本のメディアでは、死体が全然報道されない』と不思議がる人もいると聞きます。海外のメディアの中には、死体の映像や写真を隠さず報道しているところもあるそうです。実は、医学部の学生の中には、人の死に立ち会ったことがない人もいるんです。死というものをどう扱うのかというのは重要なテーマですから、人の死を、心電図が一直線になったり、ペンライトで対光反射がなくなったりすることしかイメージできないのは、問題があるように思います。もう少し、死体というものを見る機会があってよいと思います」

■検索禁止ワード「グリーン姉さん」

検索禁止ワードで「グリーン姉さん」というのがあります。硫化水素自殺をして全身が緑色に変色した遺体画像が出て来るとネットで話題になりました。

西尾「硫化物が血液のヘモグロビンと結合して緑色になっているんです。これも、理由がわからなければ、不思議な現象と思う人がいるかもしれません」

日本でも、もっと良い意味で死体が身近に感じられれば、生きていることの意味も真摯に考えられるのではないかと思います。

西尾「今回この本を書いたのは、隠すのではなく、死体も含めて、もう少し死に対して広く一般に目を向けてもらいたいなと思ったからです。最初は、死体が何で緑色になるのか? というような興味本位でもかまわないと思っています。けれど今、本書に書かれているような『悲しい死』を迎えている人がこの日本にたくさんいる。そういった事実を知ってもらえるだけでも、ありがたいです」

世間から隠された「悲しい死」の事実に目を向けることで、死んでいった人たちの弔いに少しはなるかもしれないだろう。インタビューを通して、西尾教授からは遺体に対する優しいまなざしと、遺族や関係者への愛がひしひしと感じられた。だからこそ、死者の声なき魂の叫びを、本書で伝えることができるのだろう。これからも、西尾教授が語る「悲しい死」の問題に対して、我々は少しずつ考えていかねばならない。 トカナより

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