ベトナムの2大都市で現在、鉄道工事が進められている。1つは中国企業のコンソーシアムによるプロジェクトで、もう1つは日本のJICAが主導するプロジェクトだ。2つの工事は、日本の技術力を賞賛する声とベトナム人が抱く反中感情を浮き彫りにしており、対照的な様相を描き出している。
◆日中、それぞれが率いるプロジェクト
サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、ベトナムの2つの都市で行われている都市鉄道(メトロ)工事を、日本と中国それぞれが手がける「2つのベトナム・メトロ物語」として伝えた。どちらも予定より大幅に遅延しているが、中国主導のプロジェクトは事故続きで、一方日本主導のものは事故ゼロと指摘し、日本の職人気質な技術力とエンジニアリングの優位性がベトナムで改めて認められている、と報じている。
SCMPによると、工事が行われているのは首都ハノイとベトナム最大の経済都市ホーチミン市だ。まずハノイで工事を請け負っているのは、国営企業の中鉄六局集団率いる中国企業のコンソーシアム。カットリン-ハドン間の13キロ、12駅を走る2A号線で、当初の完成予定は2016年12月だったが、遅れに遅れ、現在は2018年前半の完成を目指している。
一方ホーチミン市のメトロは、1号線と呼ばれるベンタイン-スオイティエン間の全長19.7キロ。工事は、日本の国際協力機構(JICA)の指揮のもと、住友商事や清水・前田(清水建設と前田建設の共同企業体)などが分担している。当初は2018年の操業開始を目指していたが、現在は2020年になると見られているという。
メトロと呼ばれてはいるが、上記の区間はいずれも(ハノイおよびホーチミン市)ほとんどが高架鉄道となる。
◆事故ゼロ、信頼を集める日本プロジェクト
SCMPによると、ホーチミン市の工事では現在のところ事故は報告されていない。一方でハノイの工事は事故に次ぐ事故だ、と伝えている。2014年11月、複数のスチール・リールが高架の工事現場から落下し、下でオートバイを運転していた人が亡くなり、歩行者2人が負傷した。翌月には同じ場所で今度は足場が崩れ、下を通行中のタクシーが動けなくなった。2015年8月には、別の場所の高架から棒鋼が落下し、下にいた自動車にぶつかり危うく死亡事故に繋がるところだった。これらの事故を受け、ベトナムの交通運輸省が安全対策の改善を求め、その後2年間、事故は起こっていないという。しかし事故ではないものの、工事の評判は相変わらず低い、とSCMPは指摘する。というのも今年5月には政府の調査チームが、一部の線路に保護塗料が塗られておらず錆びているのを見つけたというのだ。接合部分が緩くなっている箇所があることも判明した。
人文地理学を専門とするハンブルグ大学のミハエル・ワイベル博士はSCMPに対し、「(ベトナムでは)日本の技術力への信頼度の方がどうやら高いようだ」と述べ、ハノイに比べホーチミン市の工事の方が好印象を持たれていると話した。一方で、米国際開発庁の資金提供を受けているシンクタンク「メコン下流域公共政策イニシアチブ」のシニア・リサーチャー、フー・ベト・レイ氏は、良いものか悪いものかは別にしては、ベトナム人は中国事業を嫌う傾向があると指摘。中国だから日本よりも劣るに違いない、と思い込むのは馬鹿げているとSCMPに述べている。
◆工事批判の裏には反中感情が
記事のコメント欄を読むと、「日本の技術力が高いのなんて分かりきったこと」というものや、「日本の品質なんて神話だ」など、感想は様々だ。中には、日本の自動車メーカーや家電メーカーの名前を具体的に挙げ、故障した経験を投稿したものも複数ある。しかし中には冷静に「ハノイの渋滞はホーチミン市よりひどいし、何千年もかけて複雑になった道路や狭い路地がいくつもある。ホーチミン市はフランス植民地時代の街なので通りも広いし交通に適した配置になっている。2つの都市は工事の要件が全く異なる」と分析するものもある。
コメントの中には、「また中国叩きの記事か。ありがちだな」というものもあった。SCMPは、「チャイナ」と名がついてはいるが香港で発行されている英字紙であるため、中国に対する論調はそうした背景も無関係ではないかもしれない。
一方、中立と思われる英フィナンシャル・タイムズ(FT)が昨年1月、同様にベトナムでの鉄道工事を取り上げていた。そこではハノイで中国と韓国が請け負う鉄道工事を例に出し、ベトナムでの反中感情を伝えていた。というのも、韓国企業のプロジェクトでも2015年に13人が犠牲になる死亡事故が発生し、サムスンの幹部が有罪判決を受けているのだが、それでも、中国のプロジェクトにばかり非難が集まっているというのだ。こうした国民感情は日本企業を含む中国のライバルには朗報だ、とFTは伝えていた。
他国へのネガティブな感情の高まりを利用して日本が優位に立つのは本意ではない。しかし、かつて世界で愛される日本ブランドを作ってきた数々の日本企業が失速し他国企業にその座を譲る中、ベトナムでは、安全第一の日本ブランドが健在だ。 NewSphereより
ぼちぼちと生きているので、焦らず、急がず、迷わず、自分の時計で生きていく、「ぼちぼち、やろか」というタイトルにしました。 記載事項は、個人の出来事や経験、本の感想、個人的に感じたことなど、また、インターネットや新聞等で気になるニュースなどからも引用させていただいています。判断は自己責任でお願いします。
2017年8月8日火曜日
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