8月5日、国連安全保障理事会が2度の北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験を受けて対北経済制裁を決議した。石炭、鉄鉱石、海産物などの禁輸で、北朝鮮の外貨収入を3割ほど減らす目論見だ。
当初「決定打」と目された石油禁輸は、中国とロシアの意向を汲んで、見送られた。
今回の制裁は外見上「史上最強」を更新した格好だ。しかし、北朝鮮の非核化という本来の治療目的で見れば、薬効が極めて薄いか、あるいは効き目が余りに遅い「漢方薬」の処方にとどまる。これでは北朝鮮の核武装の進展をとても阻めない。実際、北朝鮮政府は制裁の2日後に「全面排撃」を公式に宣言している。
タン並みへの倍増、などである。
金正恩政権はこの宿題を片付けない内は、今回程度の経済制裁で音を上げることはない。ICBM開発を完成させ、アメリカと「対等の立場」を確保した上でしか、対話(核交渉)の席には就かない。中途半端な経済制裁はむしろ、制裁の毒が徐々に体中に回る前に、と、急がせることで、北朝鮮が核ミサイルの開発速度を早める逆効果を招く。
米韓で沸騰する主戦論と対話論
そのせいで、制裁の履行状況を見る前に、早くも米韓両国を中心に悲観論が広まる。米国では主要メディアの論調が「主戦論」と「対話論」への二極化の様相を見せる。対話論の要点は北朝鮮の「核ミサイル凍結」、つまりは「ICBM抜き」での核武装容認論だ。どちらに転んでも、日韓両国は大きな試練に直面する。
他方、日本と韓国は「主戦論」を唱える術もないのが現実だ。その代わりに、韓国では「核武装論」が台頭してきる。保守系の主要各紙は一斉に核武装論を社説に掲げ始めている。これに呼応して、最大野党の自由韓国党は公式見解で「戦術核の在韓米軍再配備と米韓共同運用」を主張する。
韓国核保有論の大勢は、あくまで北朝鮮との「対話用」に限定し、なおかつ北朝鮮が核放棄するまでの期限付きある。北朝鮮の核ミサイル脅威で、問題の鍵を握る中国への「圧迫と催促」の意図も込められている。
核兵器の共同運用が米国の反対で無理なら、自前の核武装に進むしかなくなる。泣き所は時間との競争だ。韓国の技術力では、自前の核武装に最短でも「一年半」を要する。これでは時間的にとても間に合わない。その点では、迎撃ミサイル網の整備や敵地攻撃能力の保持に関する日本の議論も似たり寄ったりだ。
これに加えて、韓国を狙う北朝鮮軍の火砲を制圧するべく、トマホークミサイルなど通常爆弾での軍事施設や指揮所への大規模空爆が敢行されることになる。その場合でも「開戦後1ヶ月間の死者が米軍10万人以上、韓国人100万人以上」という従来の俗説は退けられる。
これが「(北朝鮮兵が)何千人」(トランプ発言)という被害予測の根拠となるようだ。
この予測の当否はさておき、トランプ発言からは米軍が北朝鮮領土に地上軍を送り込む意図のないことが窺える。文在寅大統領は韓国軍を北上させる意思は全くない。そうなれば、先制攻撃完了後の北朝鮮、つまり金正恩後の北朝鮮では、どのような勢力が権力の空白を埋めることになるのだろうか。
金正恩の手からこぼれ落ちた旗を拾い上げて徹底抗戦を主張する者は、せいぜい15名ほどの最側近勢力に限られる。これを素早く除去すれば抵抗は止む。
残存する大量破壊兵器の廃棄、秘密警察など独裁治安機関の解体、戦後の治安維持と民生復興。これらの難題を首尾良くこなせる勢力は、野戦軍を中心とする北朝鮮の軍部しか存在しない。
北朝鮮の野戦軍は、人脈面でも経済面でも、中国軍と伝統的に絆が深い。この点を勘案すれば、「金正恩後」の北朝鮮では、親中政権誕生の公算が極めて高い。そうなれば、中国が強く抱く「緩衝地帯消滅」の懸念はなくなる。
アメリカは、北朝鮮の核ミサイル脅威に係わる能力と意思の完全除去。中国は、緩衝地帯の確保と北朝鮮の事実上の属国化。米中両国にとって、それほど悪い「取り引き」ではないように見える。 現代ビジネスより
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